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難攻不落のサクリファイス
その魔力測定法は間違っている!
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無礼な態度を指摘するとバーナードは「けっ」と短く吐き捨てそっぽを向いてしまった。
「ご心配なく、こういう扱いには慣れてますので。それに私が取り引きしているのは猫さんではなく、お姉さんですから。ガイドいかがでしょうか? 今なら当商会が運営する宿のお食事券もセットで購入できますよ」
「行商人か、お前? 残念だが俺たちはサクリファイスには行かねぇ~立ち入り禁止だしな」
「そうでしょうか? 私にはお姉さんがサクリファイスに入りたくて、ウズウズしているように見受けられますが」
うっ……妙に鋭い。
これは勘というよりも洞察力に長けているという事なのか?
「ですよねー」といった具合でトルテは視線を送ってくる。
心が定まらず、返答に詰まる私。
それを見たバーナードが業を煮やして彼女に突っかかってきた。
「だったら、俺とお前のどちらが正しいのか? 勝負といこうじゃないか!」
「いいでしょう。受けてたちますよ」
トルテの方もその挑発に圧倒される事なく、果敢に立ち向かっている。
対立する猫男と少女。
そんな二人を見て私は気づいてしまった。
なんか、自分だけ蚊帳の外におかれてない? と。
「おっ! ちょうど良いところに出張ギルドがあるぞ! なら、アレだな」
「ええっ。アレで決着をつけるんですね!」
アレって……何よ!?
ソレとかコレとかだとダメなの?
そんなんで納得し合えるのが、私には不思議で仕方ない。
「お集まりの皆さん! これより出張、魔力測定競技の行います。参加希望の方はお早めに受付けを済ませておいて下さいね~」
バーナードたちを追って、出張ギルドと呼ばれる天幕に移動する。
丁度、ギルド職員と思わしき女性が競技内容について説明しているところだった。
魔力測定がどういった競技なのかは知らない。
しかし、私の知識では特別な水晶に魔力を込め、水晶の輝き度合で魔力量や属性を判別する冒険者の通過儀礼。
転生、転移者にとっては水晶をぶち壊すだけの行事だ。
「へぇ~、面白そうだね。私も試してみよっかな?」
「おう、受付けしておいたぞ」
私の意思以前に勝手に参加登録させられていた……。
「まあ、いいか。 どうせ水晶に魔力を込めるだけだし」
「ほほっ、お嬢さん。侮るなかれ、もはや水晶に魔力を込めるだけの測定方法は過去のものだ。最先端の技術により割れれるだけの水晶の時代は終わりを告げ、代わりに魔法球が開発された。これがいかに画期的か分かるかな?」
長いシルクハットを被り、やけに整った身なりをしている紳士が出し抜けに声をかけてきた。
一応、周囲を見回し私以外の女子がいないか探ってみた。
……どうやら、このオジさんは私と会話したいらしい。
黙っていても、魔力測定について一方的に喋り続けてくる。
「ほーう、君は魔力測定をした経験がないと見た。では、小生が魔法球を使用した測定法について手取り足取りレクチャーしようではないか! まずルールだが、球に魔力を込め投げる。そして距離を測るだけの至ってシンプルなもの。しかし、それゆえに奥深さもある。魔法球は普通のボールとは違い筋力では絶対に飛ばせない、飛距離を伸ばすには魔力の量と魔力の強さが必要とされる。さらに場外に設置してある的、あれに球を当てれば景品が貰えるが、魔法玉をコントロールするには相応の魔力操作技術が必要になる」
隣で熱く語る紳士をそっちのけで、競技フィールドに目を向けると丁度、魔法球を手に取るトルテの姿があった。
球と聞いて手のひらサイズのモノを連想していたが、以外と大きくバレーボールぐらいはある。
フィールドに描かれた円に入るトルテ。
そこから伸びる二本のラインは、まさに砲丸投げのフィールドみたいに扇型に拡がり、一定の距離をおいて横曲線が敷かれている。
「それでは、次の方。投球、お願いします」
「てりゃっ!!」
何とも女の子らしい投球フォームに可愛げのある声。
まずは先攻、トルテの一球が放たれた。
天高く、上昇していく魔法玉はみるみるうちに小さくなっていく。
いつ、落下してくるのか? 私を含めその場にいた者たち全員で厚い雲で覆われた空をじっと見守っていた。
今か今かと待っているとやがて球は雲の中に隠れ、そのまま戻ってくる事はなかった。
「なん――だと!! 君と僕のスターバーストメモリアル投法だとぅ!!
R指定のタイトルみたいな名を叫ぶ紳士。
一体、何をどうすれば投げた魔法球が空の彼方へ消え去ってしまうのだろうか? 彼、以外に知る者はいないが、驚くのは人として真っ当な反応だ。
あんな非力そうな女の子が今し方とんでもない飛距離を叩き出したのだ。
あまりにショッキングな光景だったのだろう。
私だってそうだ。
危うく、魔法球はあれぐらい普通に飛ぶモノだと認識してしまうところだった。
けれど、誰一人としてトルテに称賛の拍手を送らない。
拍手することさえ忘れてしまえるほど見事な大暴投だった。
「大見え切ったわりには、へったくそだな~。あれじゃ、測定できないだろう」
「ふんすっ! でしたら……貴方の素晴らしい投球を見せてください」
早速、嬉々としたバーナードがトルテをからかっている。
顔を真っ赤にする彼女の周りを、猫は眉をひしゃげ舐め腐ったような面構えでウロチョロしている。
何時の時代のチンピラなんだ? この男は。
「しょうがねぇええ――。球投げのバーちゃんと呼ばれた俺の消えかける魔球を見せてやるわ」
「愚か者が、完全には消えないのなら魔球とは言わん!」
「何だ? 外野はすっこんでろ! つーか、オッサン誰だよ!?」
紳士に意見された後攻、バーナードの番が回って来た。
相変わらず、ご機嫌斜めではあるものの威風堂々と歩いていく。さすが、元冒険者なだけある! 魔力測定なんぞ手慣れているというわけだ。
「おうらぁあさっさ――!!!」
奇声と共にアンダースローで投げ飛ばされた魔法球。
ソフトボールの投法ではなくボーリングのようなソレに派手さも脅威もない。
ただ、投げ飛ばされたはずの魔法玉はどこにも見当たらない。
本当に編み出したというのか? 消える魔球を……。
だとしたら――――それは
「これは痛烈な天地返しとーほー……へぶっらぁあああ!!」
しばらく、悪夢として出てくるかもしれない。
真横に立っていた、紳士の顔が一瞬にして陥没した。
顔面にめり込んでゆく魔法球。
バーナードの一投はどういうわけか? フィールドの側面、場外で見学していた私たちの方へと飛んできた。
大量の唾液と鼻血を撒き散らし、紳士は天幕上まで弾き飛ばされた。
背中から落下しドスンと地面に叩きつけられる。その後、ピクリとも動かない。
なんて惨たらしい光景なんだ……。
「やべっ! 手元が狂った」
「ご心配なく彼は私達のギルドの長です。このような不足の事態に備えて日々の鍛錬は怠っていません。ですので、放って置いてもすぐに復活します」
ギルドの長が倒れたというのに、ギルド職員であるお姉さんは恐ろしいほど落ち着きを払っていた。確認もせず、大丈夫だと言い切るので、結局は傍にいた私が彼の容態を診る羽目になった。
「痙攣しながら気絶してますけど……」
「チッ、老いぼれが――お手数をおかけします。会長は私達の方で医務室に運んでおきます」
聞いてはいけない罵詈雑言を耳にしてしまったような気がする……。
事情は知らないけど、職員のお姉さんは会長のことを毛嫌いしている。
ならば、不要に会長の話を持ち出さない方が無難だ。
もっとも、猫の彼にその辺りのデリカシーはないようだが――
「なあ、あの的って何点ぐらいだ? 景品とかもらえるの?」
「景品は出ませんが、問題点として確実に仕留めきれなかった場合、事後処理をどうするかが肝心です」
「……次! モチの番だぞ」
お姉さんの狂気性に勘づいたバーナードはそそくさと会話を中断した。
「ご心配なく、こういう扱いには慣れてますので。それに私が取り引きしているのは猫さんではなく、お姉さんですから。ガイドいかがでしょうか? 今なら当商会が運営する宿のお食事券もセットで購入できますよ」
「行商人か、お前? 残念だが俺たちはサクリファイスには行かねぇ~立ち入り禁止だしな」
「そうでしょうか? 私にはお姉さんがサクリファイスに入りたくて、ウズウズしているように見受けられますが」
うっ……妙に鋭い。
これは勘というよりも洞察力に長けているという事なのか?
「ですよねー」といった具合でトルテは視線を送ってくる。
心が定まらず、返答に詰まる私。
それを見たバーナードが業を煮やして彼女に突っかかってきた。
「だったら、俺とお前のどちらが正しいのか? 勝負といこうじゃないか!」
「いいでしょう。受けてたちますよ」
トルテの方もその挑発に圧倒される事なく、果敢に立ち向かっている。
対立する猫男と少女。
そんな二人を見て私は気づいてしまった。
なんか、自分だけ蚊帳の外におかれてない? と。
「おっ! ちょうど良いところに出張ギルドがあるぞ! なら、アレだな」
「ええっ。アレで決着をつけるんですね!」
アレって……何よ!?
ソレとかコレとかだとダメなの?
そんなんで納得し合えるのが、私には不思議で仕方ない。
「お集まりの皆さん! これより出張、魔力測定競技の行います。参加希望の方はお早めに受付けを済ませておいて下さいね~」
バーナードたちを追って、出張ギルドと呼ばれる天幕に移動する。
丁度、ギルド職員と思わしき女性が競技内容について説明しているところだった。
魔力測定がどういった競技なのかは知らない。
しかし、私の知識では特別な水晶に魔力を込め、水晶の輝き度合で魔力量や属性を判別する冒険者の通過儀礼。
転生、転移者にとっては水晶をぶち壊すだけの行事だ。
「へぇ~、面白そうだね。私も試してみよっかな?」
「おう、受付けしておいたぞ」
私の意思以前に勝手に参加登録させられていた……。
「まあ、いいか。 どうせ水晶に魔力を込めるだけだし」
「ほほっ、お嬢さん。侮るなかれ、もはや水晶に魔力を込めるだけの測定方法は過去のものだ。最先端の技術により割れれるだけの水晶の時代は終わりを告げ、代わりに魔法球が開発された。これがいかに画期的か分かるかな?」
長いシルクハットを被り、やけに整った身なりをしている紳士が出し抜けに声をかけてきた。
一応、周囲を見回し私以外の女子がいないか探ってみた。
……どうやら、このオジさんは私と会話したいらしい。
黙っていても、魔力測定について一方的に喋り続けてくる。
「ほーう、君は魔力測定をした経験がないと見た。では、小生が魔法球を使用した測定法について手取り足取りレクチャーしようではないか! まずルールだが、球に魔力を込め投げる。そして距離を測るだけの至ってシンプルなもの。しかし、それゆえに奥深さもある。魔法球は普通のボールとは違い筋力では絶対に飛ばせない、飛距離を伸ばすには魔力の量と魔力の強さが必要とされる。さらに場外に設置してある的、あれに球を当てれば景品が貰えるが、魔法玉をコントロールするには相応の魔力操作技術が必要になる」
隣で熱く語る紳士をそっちのけで、競技フィールドに目を向けると丁度、魔法球を手に取るトルテの姿があった。
球と聞いて手のひらサイズのモノを連想していたが、以外と大きくバレーボールぐらいはある。
フィールドに描かれた円に入るトルテ。
そこから伸びる二本のラインは、まさに砲丸投げのフィールドみたいに扇型に拡がり、一定の距離をおいて横曲線が敷かれている。
「それでは、次の方。投球、お願いします」
「てりゃっ!!」
何とも女の子らしい投球フォームに可愛げのある声。
まずは先攻、トルテの一球が放たれた。
天高く、上昇していく魔法玉はみるみるうちに小さくなっていく。
いつ、落下してくるのか? 私を含めその場にいた者たち全員で厚い雲で覆われた空をじっと見守っていた。
今か今かと待っているとやがて球は雲の中に隠れ、そのまま戻ってくる事はなかった。
「なん――だと!! 君と僕のスターバーストメモリアル投法だとぅ!!
R指定のタイトルみたいな名を叫ぶ紳士。
一体、何をどうすれば投げた魔法球が空の彼方へ消え去ってしまうのだろうか? 彼、以外に知る者はいないが、驚くのは人として真っ当な反応だ。
あんな非力そうな女の子が今し方とんでもない飛距離を叩き出したのだ。
あまりにショッキングな光景だったのだろう。
私だってそうだ。
危うく、魔法球はあれぐらい普通に飛ぶモノだと認識してしまうところだった。
けれど、誰一人としてトルテに称賛の拍手を送らない。
拍手することさえ忘れてしまえるほど見事な大暴投だった。
「大見え切ったわりには、へったくそだな~。あれじゃ、測定できないだろう」
「ふんすっ! でしたら……貴方の素晴らしい投球を見せてください」
早速、嬉々としたバーナードがトルテをからかっている。
顔を真っ赤にする彼女の周りを、猫は眉をひしゃげ舐め腐ったような面構えでウロチョロしている。
何時の時代のチンピラなんだ? この男は。
「しょうがねぇええ――。球投げのバーちゃんと呼ばれた俺の消えかける魔球を見せてやるわ」
「愚か者が、完全には消えないのなら魔球とは言わん!」
「何だ? 外野はすっこんでろ! つーか、オッサン誰だよ!?」
紳士に意見された後攻、バーナードの番が回って来た。
相変わらず、ご機嫌斜めではあるものの威風堂々と歩いていく。さすが、元冒険者なだけある! 魔力測定なんぞ手慣れているというわけだ。
「おうらぁあさっさ――!!!」
奇声と共にアンダースローで投げ飛ばされた魔法球。
ソフトボールの投法ではなくボーリングのようなソレに派手さも脅威もない。
ただ、投げ飛ばされたはずの魔法玉はどこにも見当たらない。
本当に編み出したというのか? 消える魔球を……。
だとしたら――――それは
「これは痛烈な天地返しとーほー……へぶっらぁあああ!!」
しばらく、悪夢として出てくるかもしれない。
真横に立っていた、紳士の顔が一瞬にして陥没した。
顔面にめり込んでゆく魔法球。
バーナードの一投はどういうわけか? フィールドの側面、場外で見学していた私たちの方へと飛んできた。
大量の唾液と鼻血を撒き散らし、紳士は天幕上まで弾き飛ばされた。
背中から落下しドスンと地面に叩きつけられる。その後、ピクリとも動かない。
なんて惨たらしい光景なんだ……。
「やべっ! 手元が狂った」
「ご心配なく彼は私達のギルドの長です。このような不足の事態に備えて日々の鍛錬は怠っていません。ですので、放って置いてもすぐに復活します」
ギルドの長が倒れたというのに、ギルド職員であるお姉さんは恐ろしいほど落ち着きを払っていた。確認もせず、大丈夫だと言い切るので、結局は傍にいた私が彼の容態を診る羽目になった。
「痙攣しながら気絶してますけど……」
「チッ、老いぼれが――お手数をおかけします。会長は私達の方で医務室に運んでおきます」
聞いてはいけない罵詈雑言を耳にしてしまったような気がする……。
事情は知らないけど、職員のお姉さんは会長のことを毛嫌いしている。
ならば、不要に会長の話を持ち出さない方が無難だ。
もっとも、猫の彼にその辺りのデリカシーはないようだが――
「なあ、あの的って何点ぐらいだ? 景品とかもらえるの?」
「景品は出ませんが、問題点として確実に仕留めきれなかった場合、事後処理をどうするかが肝心です」
「……次! モチの番だぞ」
お姉さんの狂気性に勘づいたバーナードはそそくさと会話を中断した。
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