RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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難攻不落のサクリファイス

観光名所

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「失業者や浮浪者、対策だよね? 定職につけない人の救済処置として冒険者ギルドがあるみたいな」

「正解だ。もともと、この国の治安は最悪だ。働き口がなければ、俺達平民は盗人か暴徒になる。そうでもしなければ生活に困窮し生きていけないからな。国としても治安が悪くなるのは避けたいところ、そこでギルドが活躍するわけだ。ちなみに、冒険者としての適性がない場合は、ギルドが別の仕事を斡旋あっせんしてくれるという手厚い仕組みになっている」

「なるほどね、ちゃんと国家の政策として健全に機能しているんだ! なんだか、ハロワみたいだね」

「は、はろわ? と、とにかく! これで分かったろ、冒険者がどんな職業か!? という訳で、俺のギャンブル好きは至って普通――」

「今の話……どこに弁明する要素があったの? 事後自得だよね――オヤスミ」

「うおぉい! 待て! 話はここからだ、寝んなよ――」


こうして、サクリファイスへの旅路は初日を終えた……。
明日こそは必ずモリスンを見つけ出す。
まぶたを閉じて、そう決意する私の傍でフウフウと息を荒げている猫。
どうやら、未だ失った信用を取り戻そうと躍起になっている模様だ。
念の為、魔法障壁でも張っておくか。


翌日の空は雲が多かった。
曇りではないものの、入道雲のように積み重なった雲は、なんとも立体的であり手を伸ばせば掴めそうな錯覚に陥ってしまう。
手短に支度を済ませると私とバーナードはサクリファイス城塞跡方面へ向けて出立した。
バーナードがここら辺の地理に明るくとても助かる。
彼の話だと湖を北上し峠を越えるとダナムという川に出るらしい、サクリファイスはその川の向こうに建立けんりつしているという。
私が、真っ先にサクリファイスを目指そうと考えたのは確率論だ。
まだ、モリスンが動ける状態なら私と同じ場所を目指すはず……それに、サクリファイス近くにはバーナードの知り合いが住んでいるらしい。
どうやら、その人物が占星術師に該当するそうだ。
これでモリスンの行方を探し出せる可能性が高くなった。


「バーナード、あれ!」

峠の中腹に差し掛かり、私は異様な光景を目にした。
人だ! 人々が点々と峠の脇でうつ伏せになって倒れている。まさか、魔物に襲われたのか!?

「逝き人形だ! アレに近づくな!」バーナードが叫んだ。

慌てて、アーカイブスを開くと、それらしき情報が載っている。

逝き人形――魔法生物

弱点 火属性

備考 魂なき肉塊。よく行き倒れた旅人を装い、近づいてきたモノを捕食する。知性はなく本能で行動する、単体では微弱だが集団で襲い掛かってきた場合は注意が必要!

「魔物……火魔法で焼き払った方がいいよね?」

「止めとけ、火なんかつけたらコイツら、そこいら中を走り回るぞ。ヘタしたら山火事になる」

「じゃあ、凍らせるとか!」

「悪くはないが、ここは一つ俺に任せろ。駄目な男じゃないって所をみせてやるわ」

「まーだ、気にしてたんだ……」

満を持して? バーナードは短刀を取り出した。
ゴッツイ手袋をはめているのに、凄く器用だ。指と指の合間を移動する刀身がクルクルと回り、踊っているかのようだ。
彼が接近する度に、逝き人形の近くでヒュン! ヒュン! と風を切る音が響き渡る。
最初のうちは音の正体が何なのか? 疑問だらけだった。
けれど、目が彼の動きに慣れてくるうちに、それが小刀で逝き人形を切り裂いたモノだと判明した。
なんて速さと正確なナイフ捌き……バーナードが通り去った後には、アキレス腱を切りつけられ立ち上がれない逝き人形たちがいた。

「もしかして、私の出番ない?」

「無い方が良いだろ? 死体とはいえ元は人間だったんだ、お前さんじゃ、傷つけるのに抵抗があるだろう」

「そ、そうなの! それを聞いてしまったらちょっと……怖いかな」

結局、残りも彼に任せてしまった。
なんだか、胸の内を見透かされてしまった気分だ。正直、甘さを捨て切る覚悟が足りなかった、こういった魔物もいるということを事前に知っておかなければ……いざという時、身動きが取れない。

「まったく、死者と戦わせるなんて胸糞悪い話だよな。噂じゃ、ここいらを縄張りにしている魔女が面白がってコイツらを放っているらしい」

魔女! の一言でドキッとした。
ここらで魔女といえば、ディングリングしか思い当たらない。
あの残忍な性格だ、このような行為も躊躇なくやってのけそうだ。
相手の脅威に一抹の不安が過る。けれど、サクリファイスに到着する前に気落ちしていては話にならない。
私は深呼吸し、緊迫した気持ちをおさえた。


ダナム川に到着したのは正午を少し過ぎた頃だった。
勿論、時計など持っていないので日時計頼りでの話だが……。
川岸に出るなり、私は驚愕していた。
城塞遺跡のそばと聞いていたから、もっと殺風景なモノを思い描いていた。
ところが、城塞周辺はどこを見ても人、人、人、大勢の観光客でごった返していて、本当にあの魔女がここを拠点としているのか? にわかには信じられなくなってきた。

「驚いたか? この辺りは観光地になっていて年がら年中、この有様だ」

「お祭りでもあるのかと思っちゃったよ~。にしても、スゴイ人の数! 皆、旅行客なの?」

「そうでもない。旅客目当ての奴らも結構いる。試しに、そこら辺をうろついてみ、すぐに客引きに捕まるから」

言われた通り、人の波の中へ飛び込んでみる。
お互いはぐれてしまった時を想定して、茶屋を集合場所にしようと私達は事前に取り決めていた。

「あわわわ!! ちょっと! 押さないでって、ひゃぁーん!!」

どこの誰だか知らないけれど、どさくさに紛れて私のお尻を触ってきた輩がいた。
サンダーボルトですぐにでも消し炭してやりたい。
が、犯人の特定もできず無関係な人たちも巻き込みかねない。
ここは我慢するしかないのかと思った矢先、再度お尻を揉みしだこうとする手が伸びてきた。

「白昼堂々、往来の場で痴漢を働くなんていい度胸ですね! 皆さん!! この人、痴漢で――す!!」

近くで女の子が叫んでいた。
掲げ挙げた手には痴漢と思しき男の腕がしっかりと掴まれている。
周囲が一斉に注目する中、私はロッドを握りしめた。
爺さんだった。女の子の隣には、抵抗することもなく二ヘラ、二ヘラと気味悪い愛想を振りまくクソ爺がいた。
あわよくば、一矢報いようと武器を携帯したが、これは迂闊に手を出せない。
然るべき場所で、然るべき者に裁いて貰った方が後々面倒事には、ならずに済む。
しばらくして、爺は駆けつけた警吏けいりによって連行されていった。
一件落着でも、災難だった。ああいうのは、何処の世界にもいるもんだ。気をつけないといけない。

「あっ! さっきはアリガト―。痴漢を捕まえてくれて本当に助かったよ」

「いえいえ、困ったときはお互い様です。大丈夫ですか?」

丁度、タイミングよく先ほどの女の子が、私の前を通りかかったので呼び止めた。
年齢は私より少し下、十四、五ぐらいだろうか? とても愛嬌がある上、受け答えもハキハキとしていて妙に落ち着きを払っている。
同年齢だった頃の私とは雲泥の差だ。
この子、コミュニケーション能力が凄く高い。

「あのー、こんな事を聞くもなんですけど。お姉さん、冒険者の方ですか? それとも旅行者の方ですか?」

「どちらかというと旅行者かな」

「わあっ~。でしたら、ツアーガイドなんて要りませんか? こう見えても私、サクリファイス城塞遺跡に詳しいんですよ! それとも、今晩の宿をお探しですか? ならばベルドガンドにオススメの宿があるんですけど、紹介いたしましょうか?」

ん~、めっちゃ食いついてくるな、この子!
どうりで見知らぬ相手に物怖じしないわけだ、彼女こそが客引きの一人というわけね。
よくよくみれば、背中に旗のような物を背負っている。文字は読めないけど、そういう類の事が書かれているっぽい。
正直、返答に困ってしまった。
今のところ観光に来たわけでもなく、宿も必要としていないのだから。
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