RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

就任式

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制御実験室にてゾイと一通りの会話を済ませた後、今度はカシュウに呼び出された。
聞くところによると、今回の件について私とビーンズ一家、双方の諸事情を照らし合わせて争いに発展した経緯と原因を洗いだしたいそうだ。
いわば、事情聴取といったところか。
願ってもない提案だ。ここで、白黒はっきりとさせ清算するべきだと思うし、このままでは彼らに対する、わだかまりも何時になっても消えやしないだろう。

五階にある書斎にカシュウはいた。
その横には、どういうわけかモリスンもいる。この悪魔はどうやってここに来たのか? 考えるまでもなく、先ほど転移した時について来たのは想像に難くない。

「まずは、此度の件で貴殿に危害を加えてしまったこと、当家を代表して深く謝罪する。重ねて、我が弟の身を救ってくれたこと――真に感謝する」

部屋に入るなり、カシュウが立ち上がり深々と頭を下げた。彼に続くようにゾイまでも一礼している。

「私の事は構いません。それよりも、あなたが傷を負わせたグレイデさんに謝罪するべきでは?」

「ああ、無論だとも……すべては冷静さを欠いた私の責任だ。彼女の許しを得られなくとも誠心誠意、詫びる所存だ。我々は焦りすぎていたようだ。少なくともタンゾウに関して強硬策を講じてしまったのは、軽率だったと反省している」

「随分と彼を疑っていたみたいだけど、何か根拠があったの?」

「むしろ、真逆だ。いくら探っても、不自然な所が見つからなかった。そればかりか、奴が単独でいる時、何をしているのか誰一人として痕跡を掴むことは出来なかった。どこをどう見てもアイツは完全すぎたんだ。それで、我々は以前から奴をサクリファイスの内通者だと睨んでいたんだ」

「そのサクリファイスって、どんな場所なの? ディングリングたちがコアについてもっと知りたいのなら、待っているから来いって誘ってきたんだけど……」

「ここより北東にある、大昔の城塞遺跡だ。かつては、難攻不落のサクリファイスと呼ばれていたらしい――あまり気が進まないが……もし、行くと言うのなら地図を用意させよう」

「当然、行くわ! サクリファイスには行かないといけない気がするから。何より、リシリちゃんを救いたい! そのためを手がかかりがあるというなら必ず掴んでみせるわ!」

「訊くまでもなかったか……我々とて奴らの言いなりになり続けるのは我慢ならず、密かに戦支度していたのだがな……あの魔女が自ら打って出てくるとは誤算だった……呪いさえなければ、我々も加勢できるというのに」

生真面目なカシュウは、悔しそうに拳を握りしめていた。
報復ではない、それは彼らの誇りを取り戻す為の戦いだった。
それが叶わなくなってしまった今、彼は恥を忍んで私に願いを託そうとしている。

「カシュウ、悔やんで何も解決しませんわ。致し方ありません、あのタンゾウが皇帝と名乗る謎の男と入れ替わっていたなんて誰が想像するのでしょう? 私達の方こそ、最初から監視されていたのですわ」

震える弟の拳を、自身の手でそっと包み込み姉は囁いた。
気休めにしかならないがゾイの発言通り、こればかりはどうにもならない。
長い間、少しずつ計画を練っていたのであろう、彼らの目的を壊してしまったのは私だ。
偶然の事故だったとしても、その事に自責の念を感じずにはいられない。
やはり、私がその足でサクリファイスに向かわなければならない。この有耶無耶うやむやはハッキリとさせないといけない……再度、彼に会い真意を確かめないと――彼がかどうかを。

『ところで、カシュウ卿。そろそろ例の話を萌知様に――』

「ああ……そうだった!」

モリスンに耳打ちされ、カシュウはニンマリと笑みを浮かべていた。
初めて目にする彼の笑顔は、まったくもって嫌の予感しかしない。そもそもコイツらは、いつの間に仲良くなったのか謎だ。

「モチ殿へのお詫びをかねて、今晩は宴を開こうと思う。参加していただけるか?」

「はぁ~、それはそうとナックの怪我は大丈夫なんですか? ここ数日、寝込んでいるって聞いたんですけど」

「それなら問題ない、ナックもビーンズ家の男だ。ちっとやそっとじゃ、くたばりはしない。俺はアイツとアイツの筋肉を信じている」

どういう理屈だ……それは。
まぁ、無事だというならそれに越したことはないけど――――


その晩、私への詫びをかねた宴が、村人総出で開催された。
村の南、畑への転移陣がある手前の広場が会場となり、大勢の人々でごった返していた。
正直、ここまで大規模なものだとは予想外だ……思わず、気が引けそうになる。
並べられた多数のテーブルの上を埋め尽くすように、パンや野菜スープ、ふかし芋、焼き魚、バーベキューなど、屋台料理が置かれ、ジョッキにつがれたお酒が次から次へと運ばれてくる。
広場に特設されたステージでは村人たちによる楽器演奏や、ダンス、大道芸などそれぞれが得意とする演目がお披露目され、老若男女問わず大いに賑わっている。
熱い夜とはこういう事をいうのだろうか? 広場一帯が生命のエネルギーで満ち溢れている。
この世界の人々は楽しむ事に関しては常に全力だ。
そこまで、ひたむきなれる事が少しうらやましくも感じる。

しばし、一人で辺りをぶらついているとしゃちほこみたいな頭をした友人と遭遇した。
向こうも私に気づくと大手を振って近づいてきた。

「よっす! モチん~指輪サンクス、テイッキ!」

「グレイデさん、こんばんは。具合よくなったみたいで良かったよ!」

彼女から回復の指輪を返して貰う。
負傷した脇腹はもうほとんど完治したそうだ。
むしろ、私の方が酷いありさまで、お互い顔を合わせるなり私達は笑っていた。

「そういや、婆はカミングしてないん?」

「うん。わたしゃ、人が多いところは勘弁さね! って言って家にこもっているよ」

「んあっ、婆らしいか……」

「どうしたの? いつもの元気がないみたいだけど?」

「モチん、りっすぅんふぉ~みぃ!」

塔で大怪我を負った彼女は、外に放置してきた牛山のおかげで雑兵ボーイズに襲われることなく済んだ。
その後、駆けつけてきたモリスンに追いかけ回されたらしいが、知らないフリを徹底しよう。
グレイデさんの悩み。それは割愛させていただきたいほど、長たらしかったが主にゲイル君のことだ。
彼とは白狼館に向かう前に出会ったのが最後。それ以降は姿を見ていない。
ナックがリシリちゃんを彼から取り戻す際、逃走したといっていた。
結局、ゲイル君が何者なのか? 素性は掴めなかった。念のため、聖王国の人間かどうかカシュウに調べて貰った。
だが、聖王国の研究者でもないというのだ。
ゲイル君のことは断念した方がいいと、内心では告げたい。けれど、グレイデさんの彼に対する想いや依存はかなりのモノだ。ヘタなことは口にできない。
せいぜい、涙ながらにヤケ食いする彼女に付き添ってあげることしか出来ない。

「諸君! 聞いて欲しい!」

突然、ステージ上からカシュウの声が響き渡った。おそらく風魔法で音の大きさを調整したのだろう、広場全体まで声が届いている。


「先日、我々はサクリファイスの者たちから襲撃を受けた。何とか、急場はしのいだが、我々は今後サクリファイスの脅威を防ぐために新たな手段を講じなければならない! それは、そこにいる魔導士モチを我が軍の統括責任者、統帥として迎えて軍を再編成することだ!! この決定に皆、思うところがあるとは承知しているが、異論は認めない! 現に今回の騒動は彼女なくしては解決に至らなかった……不服だと感じる者は村を出て行ってくれても構わない。それでも、村の為に残ってくれるというのであれば、皆の命――このカシュウ・ビーンズが預かった。皆に誓おう、ビーンズ家一同と智慧ちえの魔導士 月舘萌知が、このジップ村を守ると!! モチ殿、さあ! ステージへ!!」
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