RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
6 / 73
プロローグ 旅の天秤

HEX File X

しおりを挟む
「それじゃあね。学校でも、また私の話しに付き合ってもらってもいい?」

「うん……私でよければ。バイバイ、小鳩さん」

時間が過ぎ、辺りがだいぶ薄暗くなってきた。
家では、母が夕食を作り私の帰りを待っていることだろう。
互いに別れをつげ、私たちはそれぞれの帰路につこうとしていた。
「学校でも、また」という彼女の一言に胸がざわめく。
明日が変わる、明日から変わる。
そんな風に想像しても取り巻く環境、学校という社会の構図を模した小世界で小鳩さんと一緒にいることは私にどこまで影響を与えてくるのか?
将来のビジョンは未経験という不確定要素のせいで霞がかっていた。
それこそ確実に変化を求めるというのなら、術具とか言う魔法の道具でなんとかするしかない。
旅の天秤という名前だったっけ、巻き付いていた布で全容は良く見れなかったけど隙間から純金の本体がチラッと露出していた。
時価に換算すると一体、いくらになるのだろうか?
気になるから今度訊いてみよう。

「いけない。お礼言うの、すっかり忘れていたや……別に今日じゃなくても構わないよね? 小鳩さんには悪いけど次に会った時でいっか。うん、そうしよう」

色々な事が一片に押し寄せてきたせいで、昼間の担任に襲われそうになった件など、すっかり忘却の中へと投げ入れていた。
助けて貰えて良かった。
彼女には、いくら感謝しても感謝しきれない。
今頃になってしみじみと感じる安堵で目頭がウルっとくる。
だから、小鳩さんにお礼を言うのは後日だ。
こんな泣きっ面を見せたら、余計な心配をかけてしまう。

私は何の気なしに背後を振り向いた。
今なら私とは反対方向に歩いていった彼女の背中が見えるような気がした。
特に意味を成さないけれど、彼女もまたコチラを振り向いてくれていたらと思うと胸がキュッとなる。
その背中は、未だファミレスの近くで留まっていた。
すぐ近くの路肩にはテールランプを紅く発光させながら、ゆっくりと移動するSUV車?の姿がある。
一目で全身に悪寒が走った。
どう見ても自動車の動向がおかしい、まるで小鳩さんをつけ狙っているような動きだ。
仮に彼女の知り合いだったとしたら尚更変だ。
人見知りしない小鳩さんことだ、見知った相手の車に近づかないなんてあるわけがない。
なのに、車から逃げるわけでもなく、つかず離れずの距離を保ちながら時折、ドライバーに向かって何かを話している。

「い、嫌な感じだ。小鳩さんが危ない!」

わけもわからないまま、私はきびすを返して車の方へと急いで駆け出していた。
走るのは得意じゃないけど贅沢は言っていられない。
息苦しくとも全力で向かわなければ間に合わない。
ここで、小鳩さんをキケンな目にさらすわけにはいかないんだ。

「萌知ちゃん? こっちに来ちゃダメぇ――――!」

アレ?
小鳩さんの悲鳴が聞こえた。
その瞬間、地面にうずくまっている自分がいた。
おかしいな、まだ車まで距離があるのに……まだ体力は残っているのに……どうしても立ち上がれない。
やけに腹部が熱いし身体も重い。
ああ……前方のSUV車の後部座席のドアが開いている、知らない男が身を乗り出して私の方を向いている。
その手には、黒い金属の塊が握られている。

「萌知ちゃん! 萌知ちゃん! しっかりして」

小鳩さんが、こちらに駆けてくるのと同時に車はその場から去っていく。
良かった……彼女を守ることができた。
でなきゃ、世界はあまりに薄情で無慈悲だ。
手にべったりとついた鮮血、言うまでもなく私は銃撃を受けたのだ。
痛いわ、血は止まらないわでヤバイことになっている。
けど、自分でも不思議と落ち着いている……というか全身の感覚が麻痺してきている。

「私のせいだ! アイツらが私たちを狙ってくる可能性があるのは分かっていた……のに私がちゃんと貴女に話していれば、こうはならなかったはずなのにぃ!!」

「な、かないで。ンハッ、ハァハァ……分かっているから、拒んだのは私だから。ゲホッ、守ろうとしてくれんたんだよね……私たちの今を、かわらない日常をゴホッ……だけで充分だから、お願い! 自分を責めないで――――」

「大丈夫よ、萌知ちゃん。あなたは死なせはしない、私が必ず助けてみせるから、信じて魔法の導きを」

視線の先に地面に置かれた金色の天秤が見えた。
天秤は右に大きく傾いていて受け皿には透明な球体が載せてある。
真っ青な炎を内包したそれは異質なまでに暗い光を放ち輝いている。

「萌知ちゃん、いい? 今から天秤の力を使い世界を反転させるわ。再構成、つまり帰還するには術式と、このメモに記してある媒体が必要になるわ。術式の方は私が何とかするから、貴女は向こうで媒体を集めて戻ってきて……念のためにコレも指にはめておくわ」

必死になって私を助けようとする友の声。
何かを言っている事は分かったが、ちゃんと内容を理解できるほど意識を取り留めておくことは不可能だった。
右の受け皿に置かれていた球体が左の受け皿へと移される。
天秤が真逆に傾いた直後、人をはじめに、動物、虫、魚、植物、空、海、大地、星、摂理、心理、事象と森羅万象、有相無相、ありとあらゆるものすべてが粉々に砕け散るイメージが頭へと流れ込んできた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界の大賢者が僕に取り憑いた件

黄昏人
ファンタジー
中学1年生の僕の頭に、異世界の大賢者と自称する霊?が住み着いてしまった。彼は魔法文明が栄える世界で最も尊敬されていた人物だという。しかし、考えを共有する形になった僕は、深く広い知識は認めるけど彼がそんな高尚な人物には思えない。とは言え、偉人と言われた人々もそんなものかもしれないけどね。 僕は彼に鍛えられて、ぽっちゃりだった体は引き締まったし、勉強も含めて能力は上がっていったし、そして魔法を使えるようになった。だけど、重要なのはそこでなくて、魔法に目覚めるための“処方”であり、異世界で使っている魔道具なんだよ。 “処方”によって、人は賢くなる。そして、魔道具によって機械はずっと効率が良くなるんだ。例えば、発電所は電子を引き出す魔道具でいわば永久機関として働く。自動車は電気を動力として回転の魔道具で動くのだ。これを、賢くなった人々が作り、使うわけだから、地球上の温暖化とエネルギーの問題も解決するよね。 そして、日本がさらに世界の仕組みがどんどん変わっていくのだけど、その中心に大賢者が取り憑いた僕がいるんだよ。僕はもう少しのんびりしたいのだけどね。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

処理中です...