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プロローグ 旅の天秤
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「それじゃあね。学校でも、また私の話しに付き合ってもらってもいい?」
「うん……私でよければ。バイバイ、小鳩さん」
時間が過ぎ、辺りがだいぶ薄暗くなってきた。
家では、母が夕食を作り私の帰りを待っていることだろう。
互いに別れをつげ、私たちはそれぞれの帰路につこうとしていた。
「学校でも、また」という彼女の一言に胸がざわめく。
明日が変わる、明日から変わる。
そんな風に想像しても取り巻く環境、学校という社会の構図を模した小世界で小鳩さんと一緒にいることは私にどこまで影響を与えてくるのか?
将来のビジョンは未経験という不確定要素のせいで霞がかっていた。
それこそ確実に変化を求めるというのなら、術具とか言う魔法の道具でなんとかするしかない。
旅の天秤という名前だったっけ、巻き付いていた布で全容は良く見れなかったけど隙間から純金の本体がチラッと露出していた。
時価に換算すると一体、いくらになるのだろうか?
気になるから今度訊いてみよう。
「いけない。お礼言うの、すっかり忘れていたや……別に今日じゃなくても構わないよね? 小鳩さんには悪いけど次に会った時でいっか。うん、そうしよう」
色々な事が一片に押し寄せてきたせいで、昼間の担任に襲われそうになった件など、すっかり忘却の中へと投げ入れていた。
助けて貰えて良かった。
彼女には、いくら感謝しても感謝しきれない。
今頃になってしみじみと感じる安堵で目頭がウルっとくる。
だから、小鳩さんにお礼を言うのは後日だ。
こんな泣きっ面を見せたら、余計な心配をかけてしまう。
私は何の気なしに背後を振り向いた。
今なら私とは反対方向に歩いていった彼女の背中が見えるような気がした。
特に意味を成さないけれど、彼女もまたコチラを振り向いてくれていたらと思うと胸がキュッとなる。
その背中は、未だファミレスの近くで留まっていた。
すぐ近くの路肩にはテールランプを紅く発光させながら、ゆっくりと移動するSUV車?の姿がある。
一目で全身に悪寒が走った。
どう見ても自動車の動向がおかしい、まるで小鳩さんをつけ狙っているような動きだ。
仮に彼女の知り合いだったとしたら尚更変だ。
人見知りしない小鳩さんことだ、見知った相手の車に近づかないなんてあるわけがない。
なのに、車から逃げるわけでもなく、つかず離れずの距離を保ちながら時折、ドライバーに向かって何かを話している。
「い、嫌な感じだ。小鳩さんが危ない!」
わけもわからないまま、私は踵を返して車の方へと急いで駆け出していた。
走るのは得意じゃないけど贅沢は言っていられない。
息苦しくとも全力で向かわなければ間に合わない。
ここで、小鳩さんをキケンな目にさらすわけにはいかないんだ。
「萌知ちゃん? こっちに来ちゃダメぇ――――!」
アレ?
小鳩さんの悲鳴が聞こえた。
その瞬間、地面にうずくまっている自分がいた。
おかしいな、まだ車まで距離があるのに……まだ体力は残っているのに……どうしても立ち上がれない。
やけに腹部が熱いし身体も重い。
ああ……前方のSUV車の後部座席のドアが開いている、知らない男が身を乗り出して私の方を向いている。
その手には、黒い金属の塊が握られている。
「萌知ちゃん! 萌知ちゃん! しっかりして」
小鳩さんが、こちらに駆けてくるのと同時に車はその場から去っていく。
良かった……彼女を守ることができた。
でなきゃ、世界はあまりに薄情で無慈悲だ。
手にべったりとついた鮮血、言うまでもなく私は銃撃を受けたのだ。
痛いわ、血は止まらないわでヤバイことになっている。
けど、自分でも不思議と落ち着いている……というか全身の感覚が麻痺してきている。
「私のせいだ! アイツらが私たちを狙ってくる可能性があるのは分かっていた……のに私がちゃんと貴女に話していれば、こうはならなかったはずなのにぃ!!」
「な、かないで。ンハッ、ハァハァ……分かっているから、拒んだのは私だから。ゲホッ、守ろうとしてくれんたんだよね……私たちの今を、かわらない日常をゴホッ……だけで充分だから、お願い! 自分を責めないで――――」
「大丈夫よ、萌知ちゃん。あなたは死なせはしない、私が必ず助けてみせるから、信じて魔法の導きを」
視線の先に地面に置かれた金色の天秤が見えた。
天秤は右に大きく傾いていて受け皿には透明な球体が載せてある。
真っ青な炎を内包したそれは異質なまでに暗い光を放ち輝いている。
「萌知ちゃん、いい? 今から天秤の力を使い世界を反転させるわ。再構成、つまり帰還するには術式と、このメモに記してある媒体が必要になるわ。術式の方は私が何とかするから、貴女は向こうで媒体を集めて戻ってきて……念のためにコレも指にはめておくわ」
必死になって私を助けようとする友の声。
何かを言っている事は分かったが、ちゃんと内容を理解できるほど意識を取り留めておくことは不可能だった。
右の受け皿に置かれていた球体が左の受け皿へと移される。
天秤が真逆に傾いた直後、人をはじめに、動物、虫、魚、植物、空、海、大地、星、摂理、心理、事象と森羅万象、有相無相、ありとあらゆるものすべてが粉々に砕け散るイメージが頭へと流れ込んできた。
「うん……私でよければ。バイバイ、小鳩さん」
時間が過ぎ、辺りがだいぶ薄暗くなってきた。
家では、母が夕食を作り私の帰りを待っていることだろう。
互いに別れをつげ、私たちはそれぞれの帰路につこうとしていた。
「学校でも、また」という彼女の一言に胸がざわめく。
明日が変わる、明日から変わる。
そんな風に想像しても取り巻く環境、学校という社会の構図を模した小世界で小鳩さんと一緒にいることは私にどこまで影響を与えてくるのか?
将来のビジョンは未経験という不確定要素のせいで霞がかっていた。
それこそ確実に変化を求めるというのなら、術具とか言う魔法の道具でなんとかするしかない。
旅の天秤という名前だったっけ、巻き付いていた布で全容は良く見れなかったけど隙間から純金の本体がチラッと露出していた。
時価に換算すると一体、いくらになるのだろうか?
気になるから今度訊いてみよう。
「いけない。お礼言うの、すっかり忘れていたや……別に今日じゃなくても構わないよね? 小鳩さんには悪いけど次に会った時でいっか。うん、そうしよう」
色々な事が一片に押し寄せてきたせいで、昼間の担任に襲われそうになった件など、すっかり忘却の中へと投げ入れていた。
助けて貰えて良かった。
彼女には、いくら感謝しても感謝しきれない。
今頃になってしみじみと感じる安堵で目頭がウルっとくる。
だから、小鳩さんにお礼を言うのは後日だ。
こんな泣きっ面を見せたら、余計な心配をかけてしまう。
私は何の気なしに背後を振り向いた。
今なら私とは反対方向に歩いていった彼女の背中が見えるような気がした。
特に意味を成さないけれど、彼女もまたコチラを振り向いてくれていたらと思うと胸がキュッとなる。
その背中は、未だファミレスの近くで留まっていた。
すぐ近くの路肩にはテールランプを紅く発光させながら、ゆっくりと移動するSUV車?の姿がある。
一目で全身に悪寒が走った。
どう見ても自動車の動向がおかしい、まるで小鳩さんをつけ狙っているような動きだ。
仮に彼女の知り合いだったとしたら尚更変だ。
人見知りしない小鳩さんことだ、見知った相手の車に近づかないなんてあるわけがない。
なのに、車から逃げるわけでもなく、つかず離れずの距離を保ちながら時折、ドライバーに向かって何かを話している。
「い、嫌な感じだ。小鳩さんが危ない!」
わけもわからないまま、私は踵を返して車の方へと急いで駆け出していた。
走るのは得意じゃないけど贅沢は言っていられない。
息苦しくとも全力で向かわなければ間に合わない。
ここで、小鳩さんをキケンな目にさらすわけにはいかないんだ。
「萌知ちゃん? こっちに来ちゃダメぇ――――!」
アレ?
小鳩さんの悲鳴が聞こえた。
その瞬間、地面にうずくまっている自分がいた。
おかしいな、まだ車まで距離があるのに……まだ体力は残っているのに……どうしても立ち上がれない。
やけに腹部が熱いし身体も重い。
ああ……前方のSUV車の後部座席のドアが開いている、知らない男が身を乗り出して私の方を向いている。
その手には、黒い金属の塊が握られている。
「萌知ちゃん! 萌知ちゃん! しっかりして」
小鳩さんが、こちらに駆けてくるのと同時に車はその場から去っていく。
良かった……彼女を守ることができた。
でなきゃ、世界はあまりに薄情で無慈悲だ。
手にべったりとついた鮮血、言うまでもなく私は銃撃を受けたのだ。
痛いわ、血は止まらないわでヤバイことになっている。
けど、自分でも不思議と落ち着いている……というか全身の感覚が麻痺してきている。
「私のせいだ! アイツらが私たちを狙ってくる可能性があるのは分かっていた……のに私がちゃんと貴女に話していれば、こうはならなかったはずなのにぃ!!」
「な、かないで。ンハッ、ハァハァ……分かっているから、拒んだのは私だから。ゲホッ、守ろうとしてくれんたんだよね……私たちの今を、かわらない日常をゴホッ……だけで充分だから、お願い! 自分を責めないで――――」
「大丈夫よ、萌知ちゃん。あなたは死なせはしない、私が必ず助けてみせるから、信じて魔法の導きを」
視線の先に地面に置かれた金色の天秤が見えた。
天秤は右に大きく傾いていて受け皿には透明な球体が載せてある。
真っ青な炎を内包したそれは異質なまでに暗い光を放ち輝いている。
「萌知ちゃん、いい? 今から天秤の力を使い世界を反転させるわ。再構成、つまり帰還するには術式と、このメモに記してある媒体が必要になるわ。術式の方は私が何とかするから、貴女は向こうで媒体を集めて戻ってきて……念のためにコレも指にはめておくわ」
必死になって私を助けようとする友の声。
何かを言っている事は分かったが、ちゃんと内容を理解できるほど意識を取り留めておくことは不可能だった。
右の受け皿に置かれていた球体が左の受け皿へと移される。
天秤が真逆に傾いた直後、人をはじめに、動物、虫、魚、植物、空、海、大地、星、摂理、心理、事象と森羅万象、有相無相、ありとあらゆるものすべてが粉々に砕け散るイメージが頭へと流れ込んできた。
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