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プロローグ 旅の天秤
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はぁ~、そんなつもりじゃなかったはずなのに、きつく言ってしまった。
せっかく、小鳩さんが手を差し出してくれたのに落胆させてしまったに違いない。
最低だ!私は!
最悪だ、全部うまくいかない。
彼女の屈託ない笑顔、私の身を案じてくれる優しさは偽りない本物だと信じたい。
けれど、私たちにそこまで深い絆はないはず……理由が分からない以上は、過度な気遣いは何か裏があると勘ぐってしまう。
魔術師として生まれた者の運命、何人も信用すべからず。
自己嫌悪に陥ることは何度も経験してきたはずなのに、私の心に刻まれた戒めの呪言はこびりついていて引き剥がせない。
そうだ、旅行のスケジュールを提出しないと……。
結局、班の皆は集められず仕舞いで決まってないから先生に頼んで期日を先延ばしにして……あれ? そもそも提出日ってまだ日数があったはず、なのに……。
「なあ、月舘。先生、頼んだよな。今日中にスケジュール表を完成させて持ってこいって」
「はい……」
「お前、出来るって言ったよな?」
「そ、そんな――」
「言ったよな――ああああ!!」
「は、はい……」
どうして、怒鳴られているのだろう?
私が何をしたというの?
約束通り、科学資料室にきたのに……分からない、解かりえない、認めたくない。
こんな事なら、小鳩さんに相談すれば良かった。
私は自らチャンスを踏みにじったんだ。
「お前は先生の苦労なんて気にもしないだろうが教師っていう仕事は、ストレスが貯まりやすくて結構ハードな仕事なんだぞ。せっかく、女学校に勤務しているのに……ちっとも良い事なんかありゃしない」
「というより幻滅したよ、お前らには。俺という魅力的な教諭がいるのに誰も見向きしない。月舘、お前はどう思う?」
「どうと、言われましても」
対面して椅子に座る担任は眼を細めて、じっと私のスカートだけに視線を寄せている。
眼鏡の向こうに映る眼差しは、とても嫌らしく下卑たるものに変貌していた。
今すぐ、この場から立ち去りたいが手に嫌な汗がにじむだけで、椅子から立ち上がることができない。
「先生ぃのこと、尊敬しているんだろう? なら、こんな事しても嫌じゃないよなぁー。お前なら、先生の気持ち察してくれるよな」
急に、いかつい手が私の太腿をさすってきた。
瞬間、全身から血の気が引くのを感じた。
自制心を保てなくなった担任が私を慰み物にしようとしているのは明確だった。
多分、今回が初犯ではない。
ずいぶんと手慣れている。
という事は、私のように狙われた犠牲者が少なからずいる。
許せない、けれど私には立ち向かうまでの勇気がない。
無情にも時間だけが過ぎ、触れている手が徐々にスカートの中に迫ってきている。
怖い怖い、手足の震えが止まらない。
逃げ出せばいいのは分かっているくせに、どうやって逃げればいいのか判断できない。
思考がフリーズしていた。
私は無力だ……逃げ場のない現実を前に、精神が張り詰めて悲鳴すら出せないでいる。
「人としてやっていい事とダメな事の区別もつかないのですか?」
当然、資料室のドアが開くと同時にパシャッリという音が鳴り微かな光が飛んだ。
カメラのフラシュ。
ドア向こうでは片手にスマホを構えた小鳩さんが仁王立ちしていた。
「お、おい小鳩。そ、そこで何しているんだ?」
「それはこちらのセリフですよ、先生。教職員の立場でありながら生徒を傷つけるなんて許されると思っているんですか? 彼女から離れてください。証拠は押えましたから、もう言い逃れは出来ませんよ」
「おおお前ぇえ――!! 生徒の分際で自分の担任を脅すつもりか! 俺がいなければ誰が、クラスの指揮とるんだ!?」
「あなたの行いは立派な犯罪です。理解しているんですか?」
無表情のまま教室に入ってくる小鳩さん。
平常を装っていても彼女が怒っているのは声のトーンではっきりと伝わってくる。
その凄みに蹴落とされた担任は素早く、私から手を放すと威嚇するように睨んできた。
この後におよんで自分が悪いなんて微塵も思っていないようだ。
「なあ、小鳩。芸能活動しているお前にとって担任が犯罪者だなんて世間に知られたら困るだろっ。違うか?」
「だから、どうしたというのです?」
「くっ……この件は他言無用だ! お前たち二人が黙ってくれるというのなら内申点に色をつけてやってもいいぞ、どうだ?」
苦し紛れの担任の言葉を聞いた小鳩さんは、ため息をついた。
そして、愚かな彼を指差し現実を突きつけてみせた。
「いい歳した大人が恥を知りなさい! 何でもかんでも自分の思惑通りになると思ったら大間違いです。教師としての責務を放棄した者が何を発言しても許されるわけがない」
「やめろ……やめてくれ! 頼む!」
「行きましょう、月舘さん。これ以上、ここに行っても仕方がないわ」
小鳩さんに手を掴まれると私はようやく椅子から解放され立ち上がることができた。
礼を述べようとした直前で、掴んだ彼女の手が震えているのに気づいてしまった。
私のせいで怖い思いをさせてしまった。
そう思うと申し訳ない気持ちで胸が苦しくなった。
せっかく、小鳩さんが手を差し出してくれたのに落胆させてしまったに違いない。
最低だ!私は!
最悪だ、全部うまくいかない。
彼女の屈託ない笑顔、私の身を案じてくれる優しさは偽りない本物だと信じたい。
けれど、私たちにそこまで深い絆はないはず……理由が分からない以上は、過度な気遣いは何か裏があると勘ぐってしまう。
魔術師として生まれた者の運命、何人も信用すべからず。
自己嫌悪に陥ることは何度も経験してきたはずなのに、私の心に刻まれた戒めの呪言はこびりついていて引き剥がせない。
そうだ、旅行のスケジュールを提出しないと……。
結局、班の皆は集められず仕舞いで決まってないから先生に頼んで期日を先延ばしにして……あれ? そもそも提出日ってまだ日数があったはず、なのに……。
「なあ、月舘。先生、頼んだよな。今日中にスケジュール表を完成させて持ってこいって」
「はい……」
「お前、出来るって言ったよな?」
「そ、そんな――」
「言ったよな――ああああ!!」
「は、はい……」
どうして、怒鳴られているのだろう?
私が何をしたというの?
約束通り、科学資料室にきたのに……分からない、解かりえない、認めたくない。
こんな事なら、小鳩さんに相談すれば良かった。
私は自らチャンスを踏みにじったんだ。
「お前は先生の苦労なんて気にもしないだろうが教師っていう仕事は、ストレスが貯まりやすくて結構ハードな仕事なんだぞ。せっかく、女学校に勤務しているのに……ちっとも良い事なんかありゃしない」
「というより幻滅したよ、お前らには。俺という魅力的な教諭がいるのに誰も見向きしない。月舘、お前はどう思う?」
「どうと、言われましても」
対面して椅子に座る担任は眼を細めて、じっと私のスカートだけに視線を寄せている。
眼鏡の向こうに映る眼差しは、とても嫌らしく下卑たるものに変貌していた。
今すぐ、この場から立ち去りたいが手に嫌な汗がにじむだけで、椅子から立ち上がることができない。
「先生ぃのこと、尊敬しているんだろう? なら、こんな事しても嫌じゃないよなぁー。お前なら、先生の気持ち察してくれるよな」
急に、いかつい手が私の太腿をさすってきた。
瞬間、全身から血の気が引くのを感じた。
自制心を保てなくなった担任が私を慰み物にしようとしているのは明確だった。
多分、今回が初犯ではない。
ずいぶんと手慣れている。
という事は、私のように狙われた犠牲者が少なからずいる。
許せない、けれど私には立ち向かうまでの勇気がない。
無情にも時間だけが過ぎ、触れている手が徐々にスカートの中に迫ってきている。
怖い怖い、手足の震えが止まらない。
逃げ出せばいいのは分かっているくせに、どうやって逃げればいいのか判断できない。
思考がフリーズしていた。
私は無力だ……逃げ場のない現実を前に、精神が張り詰めて悲鳴すら出せないでいる。
「人としてやっていい事とダメな事の区別もつかないのですか?」
当然、資料室のドアが開くと同時にパシャッリという音が鳴り微かな光が飛んだ。
カメラのフラシュ。
ドア向こうでは片手にスマホを構えた小鳩さんが仁王立ちしていた。
「お、おい小鳩。そ、そこで何しているんだ?」
「それはこちらのセリフですよ、先生。教職員の立場でありながら生徒を傷つけるなんて許されると思っているんですか? 彼女から離れてください。証拠は押えましたから、もう言い逃れは出来ませんよ」
「おおお前ぇえ――!! 生徒の分際で自分の担任を脅すつもりか! 俺がいなければ誰が、クラスの指揮とるんだ!?」
「あなたの行いは立派な犯罪です。理解しているんですか?」
無表情のまま教室に入ってくる小鳩さん。
平常を装っていても彼女が怒っているのは声のトーンではっきりと伝わってくる。
その凄みに蹴落とされた担任は素早く、私から手を放すと威嚇するように睨んできた。
この後におよんで自分が悪いなんて微塵も思っていないようだ。
「なあ、小鳩。芸能活動しているお前にとって担任が犯罪者だなんて世間に知られたら困るだろっ。違うか?」
「だから、どうしたというのです?」
「くっ……この件は他言無用だ! お前たち二人が黙ってくれるというのなら内申点に色をつけてやってもいいぞ、どうだ?」
苦し紛れの担任の言葉を聞いた小鳩さんは、ため息をついた。
そして、愚かな彼を指差し現実を突きつけてみせた。
「いい歳した大人が恥を知りなさい! 何でもかんでも自分の思惑通りになると思ったら大間違いです。教師としての責務を放棄した者が何を発言しても許されるわけがない」
「やめろ……やめてくれ! 頼む!」
「行きましょう、月舘さん。これ以上、ここに行っても仕方がないわ」
小鳩さんに手を掴まれると私はようやく椅子から解放され立ち上がることができた。
礼を述べようとした直前で、掴んだ彼女の手が震えているのに気づいてしまった。
私のせいで怖い思いをさせてしまった。
そう思うと申し訳ない気持ちで胸が苦しくなった。
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