RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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冒険者が統べる村

狂宴

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村の西側にある大樹の根元。ビーンズ家の敷地に入る手前に白狼館と村人たちが呼んでいる大きな建屋がある。
冒険者ギルド、ダイインスレイブの拠点、そこにタンゾウさんは捕らえられているそうだ。

「案内ご苦労様。じゃ、モリスン作戦通りお願いね」

『はっ、お任せください。このモリスン、必ずや貴女様の一助となりましょう』

白狼館の手前でモリスンと二手に別れた。
別行動をとろうと事前に決めておいたのだ、私は早速準備にとりかかる。
ここまで来る途中で運良く廃棄されたデッキブラシを手に入れた。
ブラシの部分を引き抜けば即席の武器が完成。
正直、手ぶらだと心もとなかったから一安心だ。

「ひょー! だれだぁ? いかにもみたいな生娘を呼んだ奴はぁ、うらやましいすぎるだろ。後で俺にも味合わせてくれよ」

ギルドの扉を叩いた次の瞬間、喧騒に混じり、汚いヤジと身体にこびりつくような視線が私を熱烈に歓迎してくれた。
冒険者というにはかけ離れた風貌、薄汚い悪漢たちが酒瓶片手に、葉巻を吸い、薬で快楽へと落ちている。
ある者はカードに興じながら、またある者は惰眠を貪りながら。
自分たちが築き上げた楽園に入り浸る。
ただのボンクラだったのなら、私の方も気が楽だっただろう。
厄介な話、ここの奴らはそれなりの手練れだ。
穏便に済ませられるのなら、それに越したことはないが、そうでない場合は生半可な戦い方では場を制圧するのに手こずってしまう。

「要件は何かしら?」

「ここで知り合いのタンゾウさんがお世話になっているって聞いたんですが、会わせてもらっても?」

やけに愛想の良い受付け嬢に話を持ち掛けると、周囲の空気が一変し急激に重たくなった。
こちらの意図を知り明確な敵意を向けてくる実にシンプルなやり口だ。
その恐喝紛いのやり方が正しいのかは、また別の話だが……。

「タンゾウさん? 誰かしら? うちのメンバーに、そんな名前の人いなかったはず……ごめんなさいね、私には分からないわ。そうだ! 団員の皆さんならご存じかも」

やはり、一筋縄ではいかない。
尋ねようにも、この受付け嬢に上手く話をはぐらかされてしまう。
交渉する為に、この場におもむいたのだから真向から否定されてしまうと取り付く島もない。

「みんな~、タンゾウさんって知っているかしら? この子が行方を探しているみたいなの」

「へへっ、聞いたことのない名だな。ゾイさんが探してくれってんなら協力してもいいぜ」

ギルド内に冒険者たちの明るい声が響く。
どうも、初めから私と話をする気はないようだ。
内輪で勝手に話を進めて盛り上がっている。

『モチ様! 聞こえますか? ギルドの倉庫内にて監禁されている、串焼き屋を発見しました!』

「はぁー、予想通りの展開か。まぁ、手っ取り早く済むからいいけど。すみません、ギルド長と話がしたいので呼んでもらえませんか?」

「あいにく……マスターは今、不在でして」

「ゾイさんでしたね、宴は終わりです。私の仲間がたった今、このギルドの倉庫内に捕えられているタンゾウさんを見つけました」

核心をついた言葉に、一瞬だけ目を見開く受付けのゾイ。
しかし、すぐに元の笑顔にもどり口元を歪ませて言った。

「なるほど、仲間がいらしたんですねぇ~。念話の類でも使ったんですかねえ、困りましたわ……あの男の居場所がバレてしまったのなら、貴女を始末しないといけないですね~」

ゾイが右手を上げるとギルド内にいた冒険者たちが次々と起立する。
投擲用のナイフが私の頭部近くを横切り、柱に突き刺さった。
元々、感じの良い場所ではなかったがこうも殺意を向けてくるとは、ここのギルドは冒険者のしつけがなっちゃいない。
嘘がバレた瞬間、冒険者たちが臨戦態勢に入った。
ここにいる全員、ダイインスレイブの一員とみて間違いなさそうだ。
相対する数は二十人と数名、一番近くのテーブルにいる冒険者との距離は歩数にしておおよそ五歩半。
一斉に詰め寄られたら最後だ、近距離での乱戦になったら圧倒的に私が不利となるのは自明の理。
まぁ、それは普通に相手をするという前提での話だけど。
下準備は既に整えてある。
抜剣しようと構えた者を先頭に彼らは一気に押し寄せてきた。
後続の者たちはリーチのある武器は持たず、そのまま飛び込んでくるつもりだ。
思った通り状況に応じての戦闘を意識している、相当な場数を踏んでいないとこうはならない。
それに集団としての無駄のない連帯感、一団として統率が取れている証拠だ。
良かった、ならば上々と思わず口元が緩んでしまう。
私自身の見立ては正解だったと確信に至ったから。

「待て! 俺たちは、たかがガキ一人相手になんで全員で動いているんだ?」

「は? 他の連中がそうしているんだから、全員で生け捕りするんだろうよ」

後方にいる何人かが、私の仕掛けに気づき始めた。

「素朴だが的確な疑問は悪くない。魔法使いと戦う時には些末さまつなことでも疑うのが大事だと覚えておいて損はないよ。でもね……」

もう遅い。
すべては、私がここに来た時から始まっている。
私を襲ってくる冒険者の中でカウンター近くのテーブルいた者は自分の意志とは無関係に行動を取っている。
彼らには気づかれないように、あらかじめ空糸を手足に絡ませ、もしも騒がれた時、声を出せないように喉元にも空糸を巻き付けておいた。
そう、私の近くにいた連中は自身の意志で飛び掛かってきているのではなく、空糸により身体の自由を奪われ引き寄せられただけの話。
他の者は、なまじ集団戦に慣れているがゆえ、仲間の動きに合わせてしまう癖がある。
そこを逆手に取らせてもらった。

「まさか、狩る相手自体がトラップだなんて思わなかったでしょ?」

間近でバシャッと音が聞こえた。
床に仕込んでおいた水溜りを彼らが踏みつけた合図だ。
ブラシの柄で床をトンと小突くと、瞬く間にそこから電撃が走り抜けた。
その場で崩れ落ちる冒険者たち、耐雷性の靴や衣装をいくら身に着けていようとも魔力を帯びた電撃を完全に防ぐのは至難の業。
少なくともスタン状態、一時的に行動不能にはなる。

「残り六人……一網打尽とはいかなかったわね」

「こ……この糞ガキ! ふざけやがって……全員、弓を持て。離れたところから攻撃する」

「警戒しすぎ、相手に攻撃の隙を与えてどうするの」

「おまっ……いつの間に!」

先々の先、敵が動揺している間に討つべし。
魔力の電撃を受けたのは何も冒険者たちだけではない。
あの一撃は私自身も巻き込んだ……というより二度も同系統の魔法を行使するのはだるいから、予め電撃を制服や皮靴にエンチャントできるように術式を練っておいた。
流れ込んできた電撃を瞬時に魔力に戻し、電気を帯びるカタチで再度発現。
そうすることで、電撃のダメージも一切受けずに物理防御強化と雷耐性を得ることができる。
さらに高速移動魔法ライトニングムーブを併用することで間合いを一気に詰めていく。
戦法において追い打ちをかけられた彼ら冒険者に成す術はなかった。
柄による連撃で次々とテンポよく突き飛ばしていくと六人全員、呆気なくダウンした。
まさか、ここにきて師匠のアドバイスが役立つとは……。

「魔法の習得も大事だが武術もある程度、扱えるように鍛えておいた方がいい」

私のような落ちこぼれを元気づける為の言葉だと思っていたけど、素直に従って正解だった。

「もう一度、訊きます。ギルドマスターはどこにいるんですか?」

カウンター奥に身を隠すゾイが目に涙を浮かべ、全身をガタガタと震わせていた。
返答こそないが、彼女の視線はずっと奥にある扉に向けられている。
にしても、ここまで最初と違った態度をとられると私の方が困ってしまう。
力の加減がまだ分かっていない以上、仕方ないとはいえ、やり過ぎた感は否めない。
私は奥の扉にゆっくりと近づいた。
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