RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
18 / 74
冒険者が統べる村

集え! 俗物共の畑

しおりを挟む
辺りも薄暗くなってきた頃、私はアリシアお婆ちゃんの道具店に戻った。
お婆ちゃんは夕食の支度をしているらしく台所のかまどには焚き木がくべられている。

「お婆ちゃん、何か手伝おうっか?」

「ふん、不要さね。客は部屋でおとなしく待ってな」

「じゃあ、話したいことがあるんだけどいい?」

戻るなり、私はビーンズ一家のことを訊いてみることとした。
しかし、彼らの話題を持ち出すのはお婆ちゃんにとってのタブーだったらしい。
滅茶苦茶、怖い顔でにらまれた。

「ビーンズか。あの、ろくでなし姉弟には関わるんじゃないよ」

てな感じで、どんなを質問しても彼らの事は知るな関わるなと一蹴されてしまう。
あからさまに何かを知っていそうではあるものの、押してダメなら引いてみろという言葉もある。
ここで下手してねばるとお婆ちゃんの機嫌をさらに損ねかねない。
今は言われた通り、部屋にこもるとしよう。
やらないといけないこともあるし。

『もしや、その縫いぐるみ! 召喚用に買ったものでしょうか?』

「詳しいね、そろそろ必要だと思って。ほら、良い感じに翼のついた黒い奴を買っておいたよ。とりあえず、中のワタを取り出して魔法薬に浸した藁を詰めてと――――――できた」

『こ、これは鳥ではなく蝙蝠? なのですかね。いまいちコンセプトが掴めませんね』

「キメラらしいよ」

『ほわ、キメ顔でキメラときましたか。なるほど……キメラ最高ぅぅぅ!!』

木炭の粉、ミスリルの粉、ヘカントンケイルとかいう魔物の骨をすりつぶしたものを混ぜ合わせ、床に魔法陣を描くようにしていておく。
そしたら、陣の真ん中に縫いぐるみを置き準備完了。
あとは、アーカイブスとのリンクを接続しながら術式をいくつか構築していく。
今日一日、外に繰り出して嫌というほど身に染みたことがある。
それは私自身、この世界の常識や価値観といった世情に疎すぎて、不適切な行動をいつとってもおかしくないということだ。
実際、博識であるモリスンのサポートがなければ買い物さえ危うかった。
これからも旅を続ける上でガイドモードを使用する機会は多々あるだろう。
その為には膨大な魔力消費というガイドモードのクソ燃費をどうにかしないといけない。
現状、一度の使用で魔力がゴリゴリ削り取られ疲労感が半端ないのだ。
どうすればいいのか思考する私だったが、つい先日出会ったサンタクノースの事を思いだし閃いた。
アストラル体、魂は触媒に宿り実体を得る。
ならば、器さえ用意できれば、移し替えが可能じゃないかと。

「ふふっん、この方法なら上手くイケる。異界から魂を召喚する魔法、異魂召喚様様よね」


翌日――――――――

まだ、ベッドに潜りまどろんでいるさなか。
奇妙な揺れが突如として私を襲った。

「ぬわっ!」と驚いた私が飛び起きるように上体を動かすと……。

「朝だよ! 早く、起きなオラァ――」

齢70のババアが意気揚々とベッドの脚にローキックをかましていた。

「なん……なん? 婆ちゃん、まだ陽が昇ってきたばかりだよ」

「何って萌知、フランクから聞いちゃいないのかい? 私がアンタの面倒をみるかわりにアンタは村に滞在中、畑仕事を手伝うことになってんだよ」

「へぇ~。じゃ、おやすみなさい」

「寝るな、バカ垂れ。畑の野菜はアンタを待っちゃくれないんだよ」

この婆様はいったい何を言っているのだろうか?
畑で野菜が待ち構えているなんて、それこそホラーだ。行きたくないに決まっている。

「ぶつくさ、言ってないで。さっさと着替えな、畑の場所教えるから」

半ば強引に急かされるも昨晩のモリスンの件もあって夜更かししてしまった身には堪える。
身体は硬直したまま、頭の中では回転木馬が飛び跳ねている。
それでも、アリシアお婆ちゃんのアグレッシブさは変わらない。
たとえ相手が何一つ聞いていなくとも、どんなに反発して、いかなる悪態をついても攻めに徹してくる姿勢は年の功がなせるわざとも言える。

「モリすーん、説明聞いておいてぇ~」

『御意。おはようございます、マダム』

畑の道筋を説明されたが、未だ眠気が勝り会話が頭に入ってこなかった。
仕方ないのでモリスンを呼んだけど、縫いぐるみの彼を見て婆ちゃんは目を丸くしていた。

「なっ、なんだい! そのキュウカンチョウは?」

『きゅっ! 我はクロムウェルアーカイブス司書にして萌知様の従者モリスンです、以後お見知りおきを』

「ひゃー、ずいぶん流暢りゅうちょうに話す鳥だね」

どうやら、婆ちゃんにはモリスンが鳥にしか見えないらしい、認識阻害魔法とか一切使用してないんだけど……。
ああ、アレだ。飛んでる生き物は全部、鳥と見なしている感じのヤツだ。

「いいかい、萌知。畑仕事は地味だし汚れるし疲れるけど、畑にはロマンがあふれているんだよ。私が若いころなんか、それこそしょっちゅう爺さんと……って何言わせんだい、この娘は」

「……勝手にトップギア入っているみたいだけど、もう畑に向かうよ」

カゴを背うと私は力強くドアを開いた。
ロマンって……畑に何を求めているのやら?
年甲斐もなく熱烈に青春時代を語ろうするアリシアお婆ちゃん。
その話に最後まで付き合う覚悟はさらさら無い。

農家の朝は早いというフレーズがある。
これは、決して農業の大変さを物語りたい為ではなく、農作物を良質のまま収穫するのには早朝の時間が適しているからである。
うんちくは置いておくとして、ここいらでジップ村について説明の一つでも述べておきたい。
……と思っていたけど実は言う事が何もない。
所詮、私はこの村で生まれ育ったわけでもない、よそ者。
だから、ジップ村の詳細を語れといわれても、のどかで良い感じの村ですね~ぐらいのおべっかしか出てこない。
アーカイブスで調べたところでジップ村の情報は今のところマップ関連しか解析できていない。
つまり、初見。
基本アーカイブスは所持者が得た知識、情報を元に差異がないか精査される。
その上で問題がないと判断が下されれば更新が行われる。
マッピング自体、どうやっているのか? その仕組みは定かではないが、それ以上を求めると所持者が自力で調べないとならない。

『また、考え事ですか?』

「まぁね……おそらく、区画分けしているせいだろうね。農村っていってるわりに畑をちっとも見かけないや。この人口だ、大農園でもなければ供給が追いつかないはずだよ。昨日、商店を見てまわった限りだと食料は十二分にまかなえているみたいだけどさ」

『マダム・アリシアがおしゃった通り、村の奥となる南方まで向かえばその謎も解けましょう。ささっ、このまま商店通りを過ぎれば、目的地はすぐそこです』

「もう、人だかりができているけど、場所は……合っているんだよね? なんで皆、一ヶ所にとどまっているんだろう?」

指定された場所には私と同様のカゴを背負った村の大人たちが整列し並んでいた。
ざっと100人ちかくはいるであろう、その先頭には昨日のビーンズ一家が引き連れていたような兵士の姿がある。
どうみても今から農作業する光景には見えない。
むしろ、このままモンスターハントに変更されてもおかしくはない気がする。
それもこれも周りの農民共が解き放つ血肉に飢えたような熱気のせいだ。

「諸君、畑にいきたいかあ――――!」

頃合いを見計らった中年の兵士が声高らかに発破をかける。
それまで温まっていた場が一瞬にしてシーンと静まり返ってしまった。
あまりにも突拍子もない言葉は時として、人の気持ちを遠ざける。
たとえ場の空気が読めなかったとしても、この兵士に罪はない……そう願いたい。

「…………これより、農園への門を開く。押し合いにならぬよう、くれぐれも落ち着いて列を崩さぬよう行動するように、いいか?」

完全に息の根を絶たれたのか? 不貞腐れた兵士の態度は完全に事務的なモノになっていた。
扉を開くといっていたが、周囲は人の身長をゆうに越える土壁に囲われていて、この先に進む道なんてないように思う。

「こ、これは魔法陣!」

何もなかった土壁、その正面の空間から浮き上がるようにして眩い閃光が走った。
光の魔法陣、私達の前に突如として出現したのは大人一人が難なく通り抜けできるほどの扉型転移陣だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...