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冒険者が統べる村
旅の心得 買い物の賭け引き編
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「路を見れば文化の度合いが分かるとは、大昔の賢人様もよくいったものだ」
地面に埋められた大小様々な石たちが幅広い一本の線を描いている。
村里の割にちゃんと道の舗装がなされているのが少し驚きだ。
人の往来もそこそこに多い中で時折、目につく出店の誘惑。
自制心よりも勝る好奇心は今の私には毒である。
寄り道せず目的の店にたどり着けるか心配だ。
『これはこれは麗しき乙女。ささっ、こちらへどうぞ。貴女様の忠実なる犬ことモリスンが、貴女様を華やかな舞台にエスコートいたしますぞ!』
いったい、この犬はどこに連れていくつもりなのだろうか?
アーカイブスのガイドモードを起動させる為には、ある事を成さなければならない。
それはクロムウェルアーカイブスの鍵を保有する私の魔導回路と異空間書庫にあるラプラス回線を接続すること。
コンタクトに成功すればアーカイブスの書士との連絡が可能となる。
このモリスンは、先々代の保持者の時からアーカイブスの書士を務めるというセクハラ悪魔である。
とにかく彼は女癖がわるく若い女性をみれば、真っ先に口説こうしてくる。
私も何度も、この悪魔からセクハラを受けてきた。
その上で悟った……可能ならばコイツには関わりを持たない方がいいって。
前回、起動させてからかなりの月日が経つ。
しかし、モリスンはモリスンだ、キャラ的に何一つ進歩していない。
『普段もキュートですが、町娘の恰好もなんか……グッときますなぁ。貴女様の純白な肌を際立てるフリルのブラウスと大人びた緑のロングスカート、いい! とてんも、いっ~い! 実にエレガントなコーディネートぉ――あっ、匂いをかいでも宜しいですかな?』
それどころか、孤独で病んでしまった彼は、もはや何人も追随させない変態の境地に至っていた。
「らっしゃい! おや、見ないお嬢さんだね」
何とも、きな臭い悪魔の囁きに耐えながら、どうにか最初の目的地に辿り着いた。
モリスン曰く、ここは物の買い取りを専門とする商店、質屋と違い買い戻すことはできないけど金策するのには信用のおける店だそうだ。
先立つにはまず、お金。
ここに来るまでの間、素寒貧だった私が暖かいスープを得るには路銀が必要なのだ。
これも、モリスンに教わった情報だが、この世界の通貨の単位はニーゼル。
その価値を例えると一人一泊の宿で150ニーゼル、一食につき30ニーゼルあればそこそこお腹が満たされる具合だそうだ。
ここでの物価は、現世のものに比べて50分の1程度。
安いといえば違いないけど、お世辞にも品物の状態が良いとは言い難い。
にしても……隠世の人々の常識で考えれば、こんな文無し状態で現れた女魔導士をどう思うのだろうか?
こちらの事情すら彼らは知らない、頭がおかしいヤツと疑われても不思議じゃない。
かといって、アルバイト経験すらない私にいきなりの労働は厳しい。
こちらの労働基準法はどうなっているのか? など気にはなる所だけど……やはり、当面は手持ちの物を売ってやりくりするしかない。
幸いにも森のサンタクノースは素敵なプレゼントをくれた。
『ちょっ、待ってください! 邪霊の刃ですか!』
石のケースで保護された呪いのダガーナイフを取り出そうとする私をモリスンが呼び止める。
「うん? 問題ないはずだよ。呪われた武器でも性能がよければ値がつくから」
『残念ながら、モンスターの所持していた物は市場では売れません。モンスター武器とされる物は大抵、特別な力を秘めています。ゆえに取り引き値が高価すぎて一般のお店では扱えない品です。貴女様がどうしても売りに出したいのであれば、この店ではなく裏側をあたることを推奨します』
「くわえて、表に出せば本物かどうか疑われる……か。だね、面倒ごとになるのなら止めとこっと」
「あのぅ~」換金屋の店主が申し訳なさそうな表情をこちらに向けていた。
悲しいかな所詮、彼にとって私は客ですらなく店のど真ん中で突っ立ったまま、ぶつくさと独りごとをいっている怪しい女でしかない。
奇行を注意できないがゆえ、こちらの真意を計り兼ね困惑している。
とまぁ、概ね、そんな感じなんだろう。
「ゴホン、魔道具の買い取りをお願いしたいのですけど」
さすがに邪霊の刃を出すわけにはいかない。
私は、代わりとして魔法のリングをカウンターに置いた。
コイツはフランクさんを助ける為に使った治癒の指輪とは違う、私が身に着けていた二つ目の指輪だ。
魔道具自体、文句なしの高値がつくとは思うが治癒の指輪は本当に希少な一品だ、手放すのはさすがに気が引ける。
そこで魔導士にとって必要のない祝福が施されているもう一方を売ることに決めた。
「支払いは?」と訊かれたら同等の価値を持つ品物と交換か、吊り合う額での現金交換、どちらかを選べということだ。
「現金で」と答えると店主はリングに刻まれた印をまじまじ眺め鑑定し始める。
「ふむ、精神操作系のリングですね。本物ならそれなりの値段になりますが……なにぶん、市場には大量の粗悪なコピー品が出回っている有様でしてね。工房の鑑定書などお持ちで? 提示していただければ本物だという証拠になるのですが」
「証明ですか? だったら必要ないですよ。本物か、どうかなんて実際に使用してみればわかることなんで」
店主から指輪を返してもらうと、さっそく指輪の効果を発動させる。
発動条件は何も難しいものではない、魔力さえ込めれば誰にでも使用可能だ。
指輪を軽く振るとどこからともなく出てきた複数のシャボン玉が宙を漂う。
これで終わりなら子供の玩具と大差ない。
しかし、これは魔道具だ。普通のシャボン玉がでてくるわけがない。
「素晴らしい!! これは間違いなく本物の一級品……これほどの品は滅多にお目にかかれません!! 是非とも当店で買い取らせていただきます!」
魔道具、真実を告げるリング――シャボンを見た者は本音でしか語れない。
いかなる嘘偽りも、この指輪の能力にかかれば容易に暴かれ、秘匿することも叶わず白日の下にさらされてしまう。
使い方次第では、とてつもなく危険なアイテムになる。
――――まぁ、使用できる回数は残り三回だけどね。
地面に埋められた大小様々な石たちが幅広い一本の線を描いている。
村里の割にちゃんと道の舗装がなされているのが少し驚きだ。
人の往来もそこそこに多い中で時折、目につく出店の誘惑。
自制心よりも勝る好奇心は今の私には毒である。
寄り道せず目的の店にたどり着けるか心配だ。
『これはこれは麗しき乙女。ささっ、こちらへどうぞ。貴女様の忠実なる犬ことモリスンが、貴女様を華やかな舞台にエスコートいたしますぞ!』
いったい、この犬はどこに連れていくつもりなのだろうか?
アーカイブスのガイドモードを起動させる為には、ある事を成さなければならない。
それはクロムウェルアーカイブスの鍵を保有する私の魔導回路と異空間書庫にあるラプラス回線を接続すること。
コンタクトに成功すればアーカイブスの書士との連絡が可能となる。
このモリスンは、先々代の保持者の時からアーカイブスの書士を務めるというセクハラ悪魔である。
とにかく彼は女癖がわるく若い女性をみれば、真っ先に口説こうしてくる。
私も何度も、この悪魔からセクハラを受けてきた。
その上で悟った……可能ならばコイツには関わりを持たない方がいいって。
前回、起動させてからかなりの月日が経つ。
しかし、モリスンはモリスンだ、キャラ的に何一つ進歩していない。
『普段もキュートですが、町娘の恰好もなんか……グッときますなぁ。貴女様の純白な肌を際立てるフリルのブラウスと大人びた緑のロングスカート、いい! とてんも、いっ~い! 実にエレガントなコーディネートぉ――あっ、匂いをかいでも宜しいですかな?』
それどころか、孤独で病んでしまった彼は、もはや何人も追随させない変態の境地に至っていた。
「らっしゃい! おや、見ないお嬢さんだね」
何とも、きな臭い悪魔の囁きに耐えながら、どうにか最初の目的地に辿り着いた。
モリスン曰く、ここは物の買い取りを専門とする商店、質屋と違い買い戻すことはできないけど金策するのには信用のおける店だそうだ。
先立つにはまず、お金。
ここに来るまでの間、素寒貧だった私が暖かいスープを得るには路銀が必要なのだ。
これも、モリスンに教わった情報だが、この世界の通貨の単位はニーゼル。
その価値を例えると一人一泊の宿で150ニーゼル、一食につき30ニーゼルあればそこそこお腹が満たされる具合だそうだ。
ここでの物価は、現世のものに比べて50分の1程度。
安いといえば違いないけど、お世辞にも品物の状態が良いとは言い難い。
にしても……隠世の人々の常識で考えれば、こんな文無し状態で現れた女魔導士をどう思うのだろうか?
こちらの事情すら彼らは知らない、頭がおかしいヤツと疑われても不思議じゃない。
かといって、アルバイト経験すらない私にいきなりの労働は厳しい。
こちらの労働基準法はどうなっているのか? など気にはなる所だけど……やはり、当面は手持ちの物を売ってやりくりするしかない。
幸いにも森のサンタクノースは素敵なプレゼントをくれた。
『ちょっ、待ってください! 邪霊の刃ですか!』
石のケースで保護された呪いのダガーナイフを取り出そうとする私をモリスンが呼び止める。
「うん? 問題ないはずだよ。呪われた武器でも性能がよければ値がつくから」
『残念ながら、モンスターの所持していた物は市場では売れません。モンスター武器とされる物は大抵、特別な力を秘めています。ゆえに取り引き値が高価すぎて一般のお店では扱えない品です。貴女様がどうしても売りに出したいのであれば、この店ではなく裏側をあたることを推奨します』
「くわえて、表に出せば本物かどうか疑われる……か。だね、面倒ごとになるのなら止めとこっと」
「あのぅ~」換金屋の店主が申し訳なさそうな表情をこちらに向けていた。
悲しいかな所詮、彼にとって私は客ですらなく店のど真ん中で突っ立ったまま、ぶつくさと独りごとをいっている怪しい女でしかない。
奇行を注意できないがゆえ、こちらの真意を計り兼ね困惑している。
とまぁ、概ね、そんな感じなんだろう。
「ゴホン、魔道具の買い取りをお願いしたいのですけど」
さすがに邪霊の刃を出すわけにはいかない。
私は、代わりとして魔法のリングをカウンターに置いた。
コイツはフランクさんを助ける為に使った治癒の指輪とは違う、私が身に着けていた二つ目の指輪だ。
魔道具自体、文句なしの高値がつくとは思うが治癒の指輪は本当に希少な一品だ、手放すのはさすがに気が引ける。
そこで魔導士にとって必要のない祝福が施されているもう一方を売ることに決めた。
「支払いは?」と訊かれたら同等の価値を持つ品物と交換か、吊り合う額での現金交換、どちらかを選べということだ。
「現金で」と答えると店主はリングに刻まれた印をまじまじ眺め鑑定し始める。
「ふむ、精神操作系のリングですね。本物ならそれなりの値段になりますが……なにぶん、市場には大量の粗悪なコピー品が出回っている有様でしてね。工房の鑑定書などお持ちで? 提示していただければ本物だという証拠になるのですが」
「証明ですか? だったら必要ないですよ。本物か、どうかなんて実際に使用してみればわかることなんで」
店主から指輪を返してもらうと、さっそく指輪の効果を発動させる。
発動条件は何も難しいものではない、魔力さえ込めれば誰にでも使用可能だ。
指輪を軽く振るとどこからともなく出てきた複数のシャボン玉が宙を漂う。
これで終わりなら子供の玩具と大差ない。
しかし、これは魔道具だ。普通のシャボン玉がでてくるわけがない。
「素晴らしい!! これは間違いなく本物の一級品……これほどの品は滅多にお目にかかれません!! 是非とも当店で買い取らせていただきます!」
魔道具、真実を告げるリング――シャボンを見た者は本音でしか語れない。
いかなる嘘偽りも、この指輪の能力にかかれば容易に暴かれ、秘匿することも叶わず白日の下にさらされてしまう。
使い方次第では、とてつもなく危険なアイテムになる。
――――まぁ、使用できる回数は残り三回だけどね。
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