RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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還らずの森

魔法の糸

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誰もが皆、幼いころ周りの大人たちに言われただろう言葉。
食べ物を粗末してはいけません!
道徳的な観念からすれば、何と尊き教えか……私も、今日も変わらず清廉潔白でありたいと日々願い続けている一般人の一人だ。
キノコに関して、アレは投げ捨てたわけじゃない。
食べ物を粗末にするどころか、食べ物だったもの始末しただけである。

対岸に到達するとキノコだった物体は肉眼では見えにくい何かにぶつかった。
同時に「ギャッーーーー!」という悲鳴があがり、闇の中でソレはドサッと音をたてて地面に落下した。
顔面への直撃だ、当然無事で済むわけがない。
闇の中で何が起きたのか? 粗方、見当はついている。
どうやら、ここの魔物どもは狩人気質なようだ、集団で獲物を追い回すのが得意らしい。
ここで全員が一斉に空間転移という洒落た魔法を使用してくるなんて鬼畜の所業としか言いようがない。
転移魔法自体は、過去に師から教わった事もあり、すぐ様気づけた。
まあ、その時は精霊ではなく式神だったんだけど。
とにかく、身を隠し気配を絶っても川辺を包囲されてしまっている以上、無駄な行為だったと言える。

「よ、四匹も相手にするのは、さすがに厳しいかな。でも…………やらなきゃ、さもないと狩られてしまう!」

神眼ブレッシングアイズ――――私の生まれ持つ金色の眼が異能の力を発揮する。
魔力を宿せば、生物、非生物問わず目に映る万物すべての本質を見通し解析することができる瞳。
はっきり言って神の御業に近しい能力だが、おかげで闇に潜んでいた魔物の全身がはっきりと視認できる。
さらに眼元に魔力を込める、その先に見えるのは――――

叡智の大図書館クロウェルアーカイブス

神眼の力が全面解放されると封鎖されていた書庫の扉にアクセスコードが入力される。
私だけが知覚できる圧縮された異なる次元の空間、知識の宝物庫。
ここには歴代の神眼所持者たちの知識と記憶が集約されデータとして眠っている。
嘘か真か? 司書の話では、その保存数はゆうに一億を超えているらしい。
過去の賢人たちが議論し尽くし現在までつむがれた知恵の集大成、それらは未だ完成に到達せず未来へと託された課題となっている。
一度、書庫に保管された情報は、どれほどの年月が経とうとも消えることはない。
知りたい情報も、ここに保管されてさえいれば神眼の解析に連動して開示される。
また、先ほどの夜空に浮かぶ星ユナテリオンのようにアーカイブスから無意識で取り出してしまった情報が流れてくることも珍しくはない。
アーカイブスを継承した者は、代価として人生の中で得た情報すべてを書庫に提供しなけれならない義務が生じる。
プライベートな部分も赤裸々につづられてしまうので多少は抵抗がある。
それでも、ルールを守らないと書庫出禁にされてしまうのでやむなしだ。

解析結果は瞬時に頭の中へ流れ込んできた。
種族 邪霊 個体名称 サンタクノース
邪悪なる意志に支配された人型精霊。動物の血や臓器を好むため農家の家畜をさらい無慈悲に解体する。
弱点 光
備考 トナ飼いに飼われている。自身の力量以上の仕事を押し付けられるとプレッシャーで立ち直れなくなる。

ん? うーんん?
妙な情報が混ざっているけど……まぁ、いいか。
敵の正体が判明した。
初めて目にする名ではあるも精霊の類だ。
先に述べたが魔導士にとっては苦手な魔物。
とにかく話し合いが通じず、本能のまま行動する彼らに理性があるのかすら疑わしい。
転移してきたばかりなのに、邪霊たちは早くも動き出していた。
岸辺に倒れている一匹を除くと、向かって右側から二匹、左は一匹。
私を挟むようにして三秒後に同時攻撃を仕掛けてくる。

「さ、行くよ!」

地面を一歩踏み込んだ私の足下が空気の層に包まれ、そこから強烈な反発力が生じる。
空気の層が弾けると私の身体が風をきり加速しはじめる。
風属性の下位魔法エアーブラスト――本来、攻撃として用いられる魔法である。
ただ、私とってそれは何ら面白味に欠ける使用法。
せっかくだから、魔法を試すのなら、もっと自分が閃いたアイデアを積極的に取り込みたい……というコンセプトのもと生み出されたピーキーな活用法である。

「そうよ、この加速度合いなら間違いない!」

予想していた通りの文句なしの性能。
エアーブラストは高速移動する為の推進力として使用するのがもっとも効果的だ。

邪霊サンタクノースが攻撃態勢に入る前に、私は空中へ飛び上がった。
相手の頭上を取ると、そこから三連でファイアアローを撃ち込んだ。

「げっ! 全部弾かれた」

着弾はするものの、サンタクノースの身体に触れるとファイアアローはあっけなく飛散してしまった。
無論、ノーダメージというわけではない。いくらかは燃える。
それでも決定打にはならない威力だ。
サンタクノースとはここまで異常に高い魔法耐性を持っているというのか?
物理攻撃は望めない以上、魔法が効かなければ攻撃手段がないに等しいのだが……。
参ったなぁ、こうなる事態をちっとも考えていなかった……奴らを倒すには永続的に魔力を流し込む必要がある。
となると――――
魔法を加工して即興で武器を作るしかない!
指先から、極細の線が何本も放出され空を切る。半透明なそれは糸そのもの。
速度をころすことなく長く伸び続けた、ソレらは一つにまとまると目前の獲物を絡み取った。
糸の網に身動きを封じられ、ジタバタと抵抗する人に近い姿をした黒いもや、神眼にはサンタクノース(肥満型)と映ってみえる。
どうみても実体のない魔法生物にしかみえないが、さすが肥満型と銘打つに納得の重量だ。
重みに腕を引っ張られ、つい耐えきれず網ごと小川近くの岩肌へサンタクノース叩きつける。
それでも糸は切れることはない。
なぜなら、糸の正体は物質ではなく、風属性魔法を応用したもの。
糸を断ち切る為には魔力による干渉しか方法はない。
成功だ、魔法を武器化したことにより魔法耐性でも防げない属性ダメージが通っている。
もし、サンタクノースの奴が属性耐性も持ち合わせていたらマジでアウトだった。

「ん……抜け目がないな。ダウンバースト」

ダウンバーストはエアーブラストを応用し生み出した中位クラスの魔法。
奇襲攻撃対策に編み出した魔法である。
肥満体の相手をしている私の隙をうかがって、横脇から現れた子供ぐらいの背格好をした奴がブレス攻撃を仕掛けてきたので制御が可能か? 試し撃ちも兼ねて、自身の少し手前で暴発させてみた。
察するに、あのヘドロのようなブレスは猛毒か状態異常を引き起こす類のモノだろう。
触れただけでもヤバそうだ。
初撃のエアーブラストで勢いがついていた分、宙で緊急回避するのは難しい。
防御魔法を併用しなければならないのが手間ではあるが、ここは風魔法で自身を後方へと弾き飛ばすのが無難だと判断した。
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