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十五話 アニキ、お迎えされる
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人を刺した感触はなかった。
なぜなら、サガワ博士が両脇でコスモブレイドを挟んでいたからだ。
さすがに悪の組織で幹部をしているだけはある、往生際だけは悪い。
それでもボクは、良かったと思っていた。
今の一撃は自分の意志で放ったものではない。
ドブさんに身体を操られて老人を殺傷してしまったなんて、洒落にならない。
ボクたちヒーローの鉄則として敵は倒す時は爆散させ一撃で仕留めることしか認められない。
このブレイドの出力では、中途半端に苦しめてしまう。
そうなると世間の眼は冷ややかになる……子供に悪影響を及ばすのじゃないかと避難されてしまうわけだ。
やるなら、汚さず消す! これがプロフェッショナルのやり口だ。
『んはははぁ、それで防いだつもりかい?』
「んぎぎぎぎ、効くぅぅぅぅぅ!!」
ブレイドにコーティングされた謎のエネルギー波によって、サガワ博士の身体がビクンビクンと痙攣を起こしていた。
『これがゲルマニウムの力だよぉ~』
なら、ダメージどころか、血行が促進され健康になってしまうのではないのか? という懸念を他所にサガワ博士は絶頂しながらレッサーパンダに変身してしまった。
「なぜに……レッサーパンダ?」
愛くるしいの姿になった博士を見て、手なずけたくなるが、汚らしい爺さんだったことを思い出すと触れるに触れられない。
『ピュアコスモブレイドに斬られた者は、萌えキャラになるのだわ。これぞ、モデル吟遊詩人の能力の一端よ』
「あの~、理屈が通っていない気がするんですけどぉ。どうして斬られて変身するんですか?」
『ちっ、これだからトシローは……こまけぇことは気にすんなよぉ―――!』
「あ―――、逃げた」
答えられないと判断すると、ドブさんは話を濁してしまう。
しっこく、追求しても質が悪くダンマリのままだ。
まぁ、それは追々としてレッサーパンダとなった博士をどうするべきか? などと思案していると雑木林の方に目掛けて博士は走り出した。
この後に及んで、逃走をはかろうとするは、もちろん見逃せるわけがない。
急ぎ、捕まえようとするも変身が解けて元の制服姿に戻ってしまっていた……。
マズイ、何とか博士を取り押さえないと男に戻る方法が完全に途絶えてしまう。
焦るボクの背後から突然、けたたましい轟音が聞こえてきた。
ブオブォォオオン!! とマフラーを響かせながら黒い影が宙を舞った。
ボクの頭上を飛び越えて駐車場に着地したのは大型バイク、ハーレーダビッドソンだ。
「眩しいぃぃぃ」セコイヤが用意していた照明機材よりも強烈なヘッドライトの光で視界がチカチカとする。
誰かが、コチラを向いているが逆光でよく見えない。
「よぅーやっと、見つけた。アンタ、どこへ行こうとしていたんだい?」
聞き覚えのある声に近づいてみるとハーレーに跨っていたのは麺次郎の女将、チエコさんだった。
どうやら、ボクを探していたらしく不機嫌そうにコチラを見ていた。
このままでは、脱走したと誤解されてしまう。
ボクは懸命に連れさらわれそうになったことを説明した。
「んで―――? さらった奴はどこに消えたんだい? まさか、そこにあるライオンの玩具じゃないよね?」
「え――っと、そこにいるというか……何と言うか」
「あん? このタヌキがか?」
停車しているバイクの前で縮こまっている博士をつまみ上げ、女将さんは怪訝そうに睨んでいた。
あまりの気迫に恐怖したのか、レッサーパンダの博士は終始、抵抗することなく大人しくしていた。
「ワン、キャォ~ン!」媚を売るようにして鳴いてみせているが、女将さんは無言のままだ。
「黒だな。コイツ、タヌキしてはヘンだ。おっ! 丁度、イイ感じの檻があるじゃないか。コイツをそこの玩具に乗せて牽引すればいいか?」
「良くねぇよ! 婆さん。オレは自力で帰れるから帰るぜ! じゃあな――がっぁああああ!!」
「はい、ステイ!! ワタシから逃れようなんざ百年早ぇええよ。キュイ、コイツはナニモンだ?」
「高性能AI……つまり、人工知能搭載した獣型ロボットです」
「AIか……コイツは使えるな」
どこからか、持ちだしてきた縄をクビかけられたガゥは、力づくで縄を引っ張ろうするがビクとも動かない。
涼しい顔をした女将さんがガゥに声をかける。
「コイツはよ、縄自体が特殊なワイヤで出来ていて機械の力でも引き千切ることはできねぇぞ。それに、このリールをロックすれば、どれほどの力が加わろうが長さは変わんのよ」
うん、、説明自体がズレている。
問題なのは、どうしてリールを手にしている女将さんが引っ張られないかという事だ。
単純に考えれば、ガゥの動き以上の腕力を持っていることになる。
この人類最強がいるというのに……どうしてセコイヤのような悪の組織が世に蔓延っているのか不思議でならない。
「ほら、ササッと乗りな!」
「そ、ういえば、どうしてボクの居場所が分かったんです?」
「ん、それな。GPSで追ってきたんよ、前にウチの制服を盗んだオッサンがいたからよぉ~。以来、盗難防止の為に発信機をつけてあるのさ」
常人とは思えない極端な思考にボクは何も言えなかった。
彼女の方がよほど凄いヒーローなんじゃないかと、圧倒されながらもボクは帰路についた。
因みにガゥと博士も強制連行された。
なぜなら、サガワ博士が両脇でコスモブレイドを挟んでいたからだ。
さすがに悪の組織で幹部をしているだけはある、往生際だけは悪い。
それでもボクは、良かったと思っていた。
今の一撃は自分の意志で放ったものではない。
ドブさんに身体を操られて老人を殺傷してしまったなんて、洒落にならない。
ボクたちヒーローの鉄則として敵は倒す時は爆散させ一撃で仕留めることしか認められない。
このブレイドの出力では、中途半端に苦しめてしまう。
そうなると世間の眼は冷ややかになる……子供に悪影響を及ばすのじゃないかと避難されてしまうわけだ。
やるなら、汚さず消す! これがプロフェッショナルのやり口だ。
『んはははぁ、それで防いだつもりかい?』
「んぎぎぎぎ、効くぅぅぅぅぅ!!」
ブレイドにコーティングされた謎のエネルギー波によって、サガワ博士の身体がビクンビクンと痙攣を起こしていた。
『これがゲルマニウムの力だよぉ~』
なら、ダメージどころか、血行が促進され健康になってしまうのではないのか? という懸念を他所にサガワ博士は絶頂しながらレッサーパンダに変身してしまった。
「なぜに……レッサーパンダ?」
愛くるしいの姿になった博士を見て、手なずけたくなるが、汚らしい爺さんだったことを思い出すと触れるに触れられない。
『ピュアコスモブレイドに斬られた者は、萌えキャラになるのだわ。これぞ、モデル吟遊詩人の能力の一端よ』
「あの~、理屈が通っていない気がするんですけどぉ。どうして斬られて変身するんですか?」
『ちっ、これだからトシローは……こまけぇことは気にすんなよぉ―――!』
「あ―――、逃げた」
答えられないと判断すると、ドブさんは話を濁してしまう。
しっこく、追求しても質が悪くダンマリのままだ。
まぁ、それは追々としてレッサーパンダとなった博士をどうするべきか? などと思案していると雑木林の方に目掛けて博士は走り出した。
この後に及んで、逃走をはかろうとするは、もちろん見逃せるわけがない。
急ぎ、捕まえようとするも変身が解けて元の制服姿に戻ってしまっていた……。
マズイ、何とか博士を取り押さえないと男に戻る方法が完全に途絶えてしまう。
焦るボクの背後から突然、けたたましい轟音が聞こえてきた。
ブオブォォオオン!! とマフラーを響かせながら黒い影が宙を舞った。
ボクの頭上を飛び越えて駐車場に着地したのは大型バイク、ハーレーダビッドソンだ。
「眩しいぃぃぃ」セコイヤが用意していた照明機材よりも強烈なヘッドライトの光で視界がチカチカとする。
誰かが、コチラを向いているが逆光でよく見えない。
「よぅーやっと、見つけた。アンタ、どこへ行こうとしていたんだい?」
聞き覚えのある声に近づいてみるとハーレーに跨っていたのは麺次郎の女将、チエコさんだった。
どうやら、ボクを探していたらしく不機嫌そうにコチラを見ていた。
このままでは、脱走したと誤解されてしまう。
ボクは懸命に連れさらわれそうになったことを説明した。
「んで―――? さらった奴はどこに消えたんだい? まさか、そこにあるライオンの玩具じゃないよね?」
「え――っと、そこにいるというか……何と言うか」
「あん? このタヌキがか?」
停車しているバイクの前で縮こまっている博士をつまみ上げ、女将さんは怪訝そうに睨んでいた。
あまりの気迫に恐怖したのか、レッサーパンダの博士は終始、抵抗することなく大人しくしていた。
「ワン、キャォ~ン!」媚を売るようにして鳴いてみせているが、女将さんは無言のままだ。
「黒だな。コイツ、タヌキしてはヘンだ。おっ! 丁度、イイ感じの檻があるじゃないか。コイツをそこの玩具に乗せて牽引すればいいか?」
「良くねぇよ! 婆さん。オレは自力で帰れるから帰るぜ! じゃあな――がっぁああああ!!」
「はい、ステイ!! ワタシから逃れようなんざ百年早ぇええよ。キュイ、コイツはナニモンだ?」
「高性能AI……つまり、人工知能搭載した獣型ロボットです」
「AIか……コイツは使えるな」
どこからか、持ちだしてきた縄をクビかけられたガゥは、力づくで縄を引っ張ろうするがビクとも動かない。
涼しい顔をした女将さんがガゥに声をかける。
「コイツはよ、縄自体が特殊なワイヤで出来ていて機械の力でも引き千切ることはできねぇぞ。それに、このリールをロックすれば、どれほどの力が加わろうが長さは変わんのよ」
うん、、説明自体がズレている。
問題なのは、どうしてリールを手にしている女将さんが引っ張られないかという事だ。
単純に考えれば、ガゥの動き以上の腕力を持っていることになる。
この人類最強がいるというのに……どうしてセコイヤのような悪の組織が世に蔓延っているのか不思議でならない。
「ほら、ササッと乗りな!」
「そ、ういえば、どうしてボクの居場所が分かったんです?」
「ん、それな。GPSで追ってきたんよ、前にウチの制服を盗んだオッサンがいたからよぉ~。以来、盗難防止の為に発信機をつけてあるのさ」
常人とは思えない極端な思考にボクは何も言えなかった。
彼女の方がよほど凄いヒーローなんじゃないかと、圧倒されながらもボクは帰路についた。
因みにガゥと博士も強制連行された。
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