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一話 アニキ、大地に立つ
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コンビニからの帰宅途中、ハイエースされた。
見慣れない、いやよく街で見るけど……見るからに怪しいっていう。
とにかく、シュっとしてバァ―ンって感じで搬送されてしまった。
手足を縛られた上に注連縄を口にくわえさせられるという真新しいプレイ。
こんな、地味なイヤがらせをする連中には覚えがある。
秘密結社セコイヤ。
数々の怪人を開発しては世間の皆さまに多大なる迷惑をかけていた悪のプロフェッショナルだ。
別名、真正のクズとも呼ばれていた連中の組織は五年前、ボクたち一体戦隊ドウナッテンジャ―の手によって壊滅した。
これからは、人として真っ当に生きると誓った小悪党どもは、こうして立派な極悪人となり帰ってきちゃった。
お兄さんは悲しいけれど、奴らからすればイキナリ職をうしなった上に前科者だ。
再度、新たな定職につくのは、さぞかし絶望的だったのだろう。
世界に平和が訪れて、同じく無職の路を辿ったボクだから分かる。
いくら、戦闘能力が高くとも社会が求めるのはコミュニケーション能力だ。
その辺りのことは他のドウナッテンジャーメンバーに頼りきっていたせいで、崩壊的なレベルで終わっていた。
ボクなんか毎回、カレーを食べて戦っていた記憶しかない。
しょせん、イエローなんて戦隊、男メンバーの中でも一番下の序列だ。出待ちするファンなんてできやしない。
場合によっては「女子でも良いんじゃねぇ?」とか言われてしまう始末だ。
今も昔も、世知辛い世の中だが、防衛機関で働いていた頃がボクの全盛期だ。
悪が消え去り、ドウナッテンジャーも出動することもなくなった。
運良く第二,第三の悪党がセカイを脅かすことなど都合よくあるわけがない。
自然と一人、二人と脱退しボクらは解散した……というか、売れねぇ豚に払う給料はねぇと、バッサリ解雇された。
他のメンバーはタレントや弁護士、経営者などで成功しているらしい。
イエローだったボクには、詐欺師か怪しい宗教団体しか声をかけてくれなかった。
当然、正義のヒーローとして悪の片棒を担ぐわけにはいかない。
甘言などには見向きせずに突っぱねていたら、この有様だ。
本当に、誰一人からも相手にされない一般人に成り下がっていた。
本当は気づいていた。
イエローになる以前も後もボクは新庄久一以外の何者でもないと。
正義の味方なんて思い上がりもいいところだ。
単に自分に酔いしれていただけさ……。
「おい、起きろ!」
背中を棒のような物で突かれバンから降ろされた。
もはや、荷物と変わらない扱いである。そこら辺に放り出された。
手首につけた変身ブレスレットを見ると時刻は23時を過ぎていた。
悲しいかな、変身機能を失ったブレスレットは、腕時計となんら変わりのないモノと化してしまっている。
――――そうだ! 通信。通信さえできれば誰かにこの危機を知らせ助けを求められるはずだ……。
こんな時に限り頭が冴えてくれるのは有難いが、結束バンドで両手の親指が縛られている状態でどうやってブレスレットを操作すればいいのだろうか?
肝心な部分の答えが見つからず、ボクという名のジグソーパズルはいつになっても完成はしない。
「さっさとコッチに来い」
手下の一人が強引にボクの腕をひっぱり、真夜中の廃屋へと連行しようとする。
もとは製造工場だったのだろうか? 心もとない照明の光が照らす室内には、これといって目を引く物もなくヤケにだだっ広い。
「ひさぶりやな、新庄!」
ボクの前に、人型のシルエットが現れるのと、同時にパッパッと追加のスポットライトが光彩を放つ。
闇の中から浮き出てきたのは、半そでYシャツと海パン姿をファッションと勘違いした変態野郎の後ろ姿だった。
「ドーモ、キンニクモメンでーす! ――――はい! 今日は何とスペシャルなゲストとして、元ドウナッテンジャーの一人、ドカグイイエローの新庄久一君に来て貰いましたぁ―――」
キンニクモメン……奴とは少なからず面識がある。
悪の組織、セコイヤの元幹部が一人。
登場してすぐ、レッドからフルボッコに粛清され、それ以降は時折、ファミレスで見かけていた。
結局、最後まで戦隊と結社の抗争に関わらなかった。
傍観しているだけで終わったヘタレマッチョだ。
よって奴と、ちゃんとした言葉を交わすにはコレが初めてである。
「どどどっどおどどど、どうしてキミがここにいるんだ?」
「緊張しているのかい? 大丈夫、最初は皆そうだから。新庄……今日、ここに呼んだのは、君を新たなる戦士としてデビューさせるためなんや。恐がらなくてええよ! 痛いのは先っぽだけだから」
笑顔の爽やさが打ち消されるほど、言葉のチョイスが卑猥で気持ち悪く思えた。
怖すぎる……何の最初なのかも想像すら及ばない。
新たなる戦士とか、パワーワードすぎる……完全に一度、上げてから落とすフリーフォール式の話術じゃないか!
そもそも、人前でダブルバイセップスをキメながら話すような内容ではない。
これ見よがしに、分厚い胸板を見せつけられてもボクの性癖には刺さらない。
見慣れない、いやよく街で見るけど……見るからに怪しいっていう。
とにかく、シュっとしてバァ―ンって感じで搬送されてしまった。
手足を縛られた上に注連縄を口にくわえさせられるという真新しいプレイ。
こんな、地味なイヤがらせをする連中には覚えがある。
秘密結社セコイヤ。
数々の怪人を開発しては世間の皆さまに多大なる迷惑をかけていた悪のプロフェッショナルだ。
別名、真正のクズとも呼ばれていた連中の組織は五年前、ボクたち一体戦隊ドウナッテンジャ―の手によって壊滅した。
これからは、人として真っ当に生きると誓った小悪党どもは、こうして立派な極悪人となり帰ってきちゃった。
お兄さんは悲しいけれど、奴らからすればイキナリ職をうしなった上に前科者だ。
再度、新たな定職につくのは、さぞかし絶望的だったのだろう。
世界に平和が訪れて、同じく無職の路を辿ったボクだから分かる。
いくら、戦闘能力が高くとも社会が求めるのはコミュニケーション能力だ。
その辺りのことは他のドウナッテンジャーメンバーに頼りきっていたせいで、崩壊的なレベルで終わっていた。
ボクなんか毎回、カレーを食べて戦っていた記憶しかない。
しょせん、イエローなんて戦隊、男メンバーの中でも一番下の序列だ。出待ちするファンなんてできやしない。
場合によっては「女子でも良いんじゃねぇ?」とか言われてしまう始末だ。
今も昔も、世知辛い世の中だが、防衛機関で働いていた頃がボクの全盛期だ。
悪が消え去り、ドウナッテンジャーも出動することもなくなった。
運良く第二,第三の悪党がセカイを脅かすことなど都合よくあるわけがない。
自然と一人、二人と脱退しボクらは解散した……というか、売れねぇ豚に払う給料はねぇと、バッサリ解雇された。
他のメンバーはタレントや弁護士、経営者などで成功しているらしい。
イエローだったボクには、詐欺師か怪しい宗教団体しか声をかけてくれなかった。
当然、正義のヒーローとして悪の片棒を担ぐわけにはいかない。
甘言などには見向きせずに突っぱねていたら、この有様だ。
本当に、誰一人からも相手にされない一般人に成り下がっていた。
本当は気づいていた。
イエローになる以前も後もボクは新庄久一以外の何者でもないと。
正義の味方なんて思い上がりもいいところだ。
単に自分に酔いしれていただけさ……。
「おい、起きろ!」
背中を棒のような物で突かれバンから降ろされた。
もはや、荷物と変わらない扱いである。そこら辺に放り出された。
手首につけた変身ブレスレットを見ると時刻は23時を過ぎていた。
悲しいかな、変身機能を失ったブレスレットは、腕時計となんら変わりのないモノと化してしまっている。
――――そうだ! 通信。通信さえできれば誰かにこの危機を知らせ助けを求められるはずだ……。
こんな時に限り頭が冴えてくれるのは有難いが、結束バンドで両手の親指が縛られている状態でどうやってブレスレットを操作すればいいのだろうか?
肝心な部分の答えが見つからず、ボクという名のジグソーパズルはいつになっても完成はしない。
「さっさとコッチに来い」
手下の一人が強引にボクの腕をひっぱり、真夜中の廃屋へと連行しようとする。
もとは製造工場だったのだろうか? 心もとない照明の光が照らす室内には、これといって目を引く物もなくヤケにだだっ広い。
「ひさぶりやな、新庄!」
ボクの前に、人型のシルエットが現れるのと、同時にパッパッと追加のスポットライトが光彩を放つ。
闇の中から浮き出てきたのは、半そでYシャツと海パン姿をファッションと勘違いした変態野郎の後ろ姿だった。
「ドーモ、キンニクモメンでーす! ――――はい! 今日は何とスペシャルなゲストとして、元ドウナッテンジャーの一人、ドカグイイエローの新庄久一君に来て貰いましたぁ―――」
キンニクモメン……奴とは少なからず面識がある。
悪の組織、セコイヤの元幹部が一人。
登場してすぐ、レッドからフルボッコに粛清され、それ以降は時折、ファミレスで見かけていた。
結局、最後まで戦隊と結社の抗争に関わらなかった。
傍観しているだけで終わったヘタレマッチョだ。
よって奴と、ちゃんとした言葉を交わすにはコレが初めてである。
「どどどっどおどどど、どうしてキミがここにいるんだ?」
「緊張しているのかい? 大丈夫、最初は皆そうだから。新庄……今日、ここに呼んだのは、君を新たなる戦士としてデビューさせるためなんや。恐がらなくてええよ! 痛いのは先っぽだけだから」
笑顔の爽やさが打ち消されるほど、言葉のチョイスが卑猥で気持ち悪く思えた。
怖すぎる……何の最初なのかも想像すら及ばない。
新たなる戦士とか、パワーワードすぎる……完全に一度、上げてから落とすフリーフォール式の話術じゃないか!
そもそも、人前でダブルバイセップスをキメながら話すような内容ではない。
これ見よがしに、分厚い胸板を見せつけられてもボクの性癖には刺さらない。
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