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二章、後編 聖地の落とし物

47話 綿あめ、コロコロ

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「どうなさいましたか? お怪我はありませんか?」

 ラクーン(アライグマ)の小さな耳を持つ人の良さそうな老婆。
 彼女は「痛ったたた」と苦痛をうったえながら、しきりに腰をさすっていた。

「お婆ちゃん! 何があったの? まさか、獣人害の発作が!? お願いです、ディズさん……祖母の治療を!」

「落ち着いて、ソフィー。お婆様は大丈夫、私が治すから」

「でも、とても苦しそうです……わ、私にできることはありませんか!?」

「不安になる気持ちは分かるけど、貴女が不安がるとお婆様も心細くなってしまうから……だからソフィ、貴女はお婆様の手をにぎってあげて」

「は、はい!」

 何とか、ソフィーを落ち着かせると私はお婆様の診察に取り掛かった。
 診察というと、お医師さんみたいな感じで大げさに聞こえてしまうが、私の診察はそういった物質的なモノではない。
 人の魔力の流れを感知し、循環がとどこおっている箇所を見つけ出す。
 病なら大抵、それで見つけられるし、怪我ならなおのこと容易に探れる。
 状態によっては応急処置も可能だ。

「……腰を悪くしていらっしゃるのですか?」

 私の問いに彼女は何度も頷いた。
 これといって目立った外傷もなく、どうやらギクリ腰をやってしまったようだ。
 ギクリ腰だからといって、侮ってはいけない。
 腰を痛めるのは、かなり辛い。
 治癒魔法を使っても、なかなか完治せず、治ったと思えば再発に至る不治の病だ。

「主よ、かの者に癒しの導きを。聖なる救済を与え給え、キュア」

 回復魔法を唱え、患部を癒してゆく。
 痛みがひいてきたのか? 乱れていた呼吸が整い、険しかった表情がゆるんでゆく。
 現状、これ程度しかできないけれど、これでどうにか家に戻れるだろう。

「神官様、ありがとうございます。おかげで、だいぶ楽になりました。ソフィーも心配かけたわね、ごめんなさいね」

「お婆ちゃん……無事なのね、良かったぁ」

「ひとまず、応急処置しただけなので無理はなさらないでください。帰ったら、お医者様に診てもらってくださいね」

「ええっ、そうします。ところで……あの子は?」

 お婆様が指さした方を見ると、緑がおおい茂る草むらの奥でキィーナが夢中になって、何かを追いかけていた。
 コロコロと転がりながら、ときおり飛び跳ねるソレは、大きな綿あめにも見えた。
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