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二章、後編 聖地の落とし物

46話 地下の先には……

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「ありました、入口です」

 ハリボテと何ら変わりない柱時計は非常に軽く私一人でも容易に動かせた。
 時計の位置を横にずらすと壁に人一人が通れる穴が空いていた。
 やっぱり、存在した隠し通路。

 早速、ランプ片手に中へと入り調査を開始する。
 穴の裏側にまわると時計の背中に取っ手がついていた。
 中に入って引き戸の感覚で時計を元の位置に戻す。
 余分な物が置かれないようにわざとベッドの傍に配置していたわけだ。
 他者のベッドの周囲に物を置くことは、なかなか無いシチュエーション。
 病人のものなら、ことさら勝手できるわけもない。

「一体、ここは何なんでしょう?」

 ソフィーが地下へと続く階段を覗き込みながら不安気に言った。
 何が、この先にあるのか? 私も知りたいぐらいだ。

「行ってみないことには……何とも」

 無難な回答しかできない。
 そんな私をそっちのけでキィーナが軽快に階段を下りてゆく。
 コの字に曲がった先は一直線の通路が続いていた。

「結構な距離があるみたい。どう、ソフィ? 何か、気づいたこととかある」

「すみません。そういう能力はあまり……私にできるのはお裁縫と料理ぐらいですから」

「えっ? 充分、凄いよ? 私はどっちとも得意じゃないからね。今でこそ何とかできるようになったけど、それだって悪戦苦闘してやっとだよ」

「ディズ様――さんも苦手なことがあるのですね……!」

「そりゃ~、神様ではないですからね」

 おどけた私の口調に、少しだけソフィの固い表情が緩くなった。
 まだ、普段通りとはいかないが、それもお婆様が見つかるまでの辛抱。
 彼女はこの通路の先にきっといる。
 私の予感がそう告げていた。

「……川の音だ! 二人とも、このちかくに川があるよ」

 先を進むキィーナが大声をあげた。
 川が近いのなら、もうすぐ外へと出られるはずだ。
 さらに歩いてゆくと、地上に向かって伸びる階段を発見した。
 私たちは大急ぎで、階段をかけ上がり、ついに屋外へと出た。

 地上にでると、澄んだ空気と優しい木漏れ日が私たちを包み込んでくれた。
 この清浄なる空間は間違いなく聖域だ。アビスと対になる神聖なる場所。
 そこにいるのは悪鬼などではなく、神々に祝福された存在または神様自身である。

「お、お婆ちゃん!!」

 間近でソフィーの周章しゅうしょうする姿があった。
 その隣には身を丸くしたまま、項垂れる老齢の女性がいた。 
 ソフィーのお婆様だ……苦しそうな彼女の様子に私は急ぎかけ寄った。
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