追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

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二章、後編 聖地の落とし物

42話 理想の生活

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 トントントン……小刻みリズムを取る木槌の音が心地よい。
 家屋の雨漏りを修理しているのだろうか?
 ケモ耳の若い男性が屋根の上で作業している。

 小鳥たちのさえずりにキィーナが耳をピンと立てていた。
 遺跡という世俗から離れた環境でも、人々はたくましく生活できる。
 この集落の人々は、自然と調和しながら穏やかな日々を過ごしている。

「素晴らしい……。うん、この感じだわ」

 一人で感心する私に、ソフィーが不思議そうに見つめていた。
 彼女には話していないので、不審がられても仕方ない。
 以前から私は自給自足の生活に憧れていた。
 今でも人里離れたヘンピな場所で暮らしているが、求めているのはそういうモノではない。

 もっと自由に、誰にもジャマをされず、世のシガラミから解放され私は日常を過ごしたいのだ。
 この地は、まさに我が理想そのもの。
 したい事をしたい時にできる素晴らしさ。
 例え、そこに不自由があろうとも問題を解決した時の達成がたまらない。
 くわえて、ここは神気に満ちている。
 すぐそばにある結界の影響もあるけど、そこに暮らす人々が幸せを感じている証だ。

「あの……ディズ様。あまり熱心に見られると村の者が驚いてしまいますので……」

「ディ、夢中になりすぎ」

「ああ……ゴメンね。アハハッ」

 いけない、あまりに感激しすぎて二人に注意されてしまった。
 スローライフのことは一旦、後回しにしてソフィーのお婆様の容態を診なければ……。
 こんな調子ではいけないと自身に自重するように言い聞かせた。

「この家です。どうぞ、入ってください」

 ソフィーに案内され到着したのは村の奥手にある一軒家だった。
 村長の家かと思うぐらいに他の建屋に比べ、一際大きく部屋数も多そうだ。

「宿屋みたいな感じだね」

「そうですね。ここは一番最初に建てられた家で皆で暮らせるように大きくしたんです……祖母の病もあって、皆、今は自分の家を持っていますが」

 過去の思い出を語るソフィーの声色が若干、寂しげに聞こえた。
 気のせいかもしれないけれど、それを確かめる勇気は私にはない。

「ただいま!」玄関ホールにソフィーの声が拡がってゆく。
 いつまで経っても返事はこない。
 鍵はかかっていないのにお婆様は不在なのか……室内は妙に静まりかえっていた。
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