追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

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二章、後編 聖地の落とし物

39話 獣人害

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 カップの中の水面に映るソフィーはとても気落ちしていた。
 誰にでも過去を思い返す度に、胸が痛くなることはある。

 だから、私は聞いてあげなければならない。彼女の過去の清算を、辛い思い出との決別を。
 神官として、想いや言葉をそのまま受け止めてあげないと、この呪縛からは解放されない。

 テーブル置いたままのカップに手を添えて、ソフィーは立て続けに語る。

「それは、突然に始まったんです……酒場で飲んでいた仲間の一人が、いきなり発狂して雄叫びをあげたんです。最初は酔った勢いでの悪ふざけだと思ったのですが……無関係な人に襲い掛かる様はどう見ても尋常とは思えませんでした」

「彼女は、温厚な性格で意味もなく人を襲ったりしたことは一度もありません。なのに、人が変わってしまったかのように狂暴化したんです……ディズ様、私もいづれ、ああなってしまうのかと考えると不安で夜も眠れないんです」

「ソフィー……落ち着いて、今は私がいるから心配しないで」

 強張り震える両手をそっと包むように握ってあげた。
 恐怖で帰り道を見失った迷子ように、その手は誰かに引っ張って貰いたいと訴えていた。

「それから……その人は―――」

「うん、辛いなら無理しなくてもいいよ。その先は私も知っているから、獣人害はその当時、世界三大奇病としてメディアに連日、持ち上げられていたからね」

 獣人害を発症したのは悪魔憑きと世間では言われているが、実は違う。
 悪魔つきの有無、関わらず、この病は発症している。
 いくら、医師団が原因を調査しても特定にまでは至らなかったと聞いている。
 分からないことを、認めてしまえば世論がパニックを起こす。
 それを危惧きぐして、教会と医師会は悪魔つきがもたらした獣人害という病だと、でっち上げの報告をしたのだ。

「ねぇ? ソフィー、今現在は獣人害は発症していないんでしょう?」

「はい、幸いにも。もっとも、この村にいた仲間たちは村の人たちと険悪になり、皆で村を出ていってしまいましたけど」

「残念だけど、この病気……おそらく、まだ解決していない。貴女のお婆様が罹患りかんしているんでしょう?」

 私の言葉に彼女の馬耳がピンと立った。
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