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二章、後編 聖地の落とし物

38話 メゾの闇

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 キィーナが寝静まるのを確認してから私たちは、テーブルについた。
 何分、話の内容が内容だ。幼い彼女に聞かせるのは忍びない。

 沸かした茶を、テーブルまで運びソフィーも椅子に腰をおろした。
 いよいよ、もって本題だ。一体、彼女の口からどんな話が聞けるのだろうか?

「神官様は、獣人害じゅうじんがいとのいうのを御存じでしょうか?」

「神官は堅苦しいから、ディズで良いよ。うん、悪魔憑きによって引き起こされる災いだよね」

「あっ、はい……ディズ様。その獣人害なのですが、一年ほど前にこの村で発生したのです」

 ソフィーの言葉に耳を疑った……そもそも獣人害なんて災いは存在しないからだ。
 実際、悪魔憑きの起源をさかのぼれば教会内の派閥争い、権力闘争から生じたプロパガンダである。
 悪しき存在がいる。ゆえに人々を救済するのが教会の役目。
 だから、平民たちは聖職者を敬いなさい。
 悲しいかな、本気でそう考えていた同胞が、過去に実在したという。
 この歴史を知る者は、ほとんどいない。
 一般市民は当然ながら、教会内部でも、ごく一部の上層にしか知れ渡っていない。
 私も過去、聖女という役柄を与えられなければ、教会の暗部を知ることはなかっただろう。

 これは教会の罪だ。聖職者たちの怠慢だ。
 事実を知っていてもなお、真実を口外することはできない。

 万が一、私が悪魔憑きの秘密について知っていることが教会に気づかれたら、向こうは刺客を差し向けてくだろう。
 そうなれば、私だけではなく、キィーナの身も危うくなる。
 ソフィーには悪いが、獣人害が存在するという呈で、話を進めるしかない。

「具体的には、どのような事が起きたのか説明して貰えるかな?」

「以前、この村には私以外にも数名の悪魔憑きが暮らしていました。他の村人から差別を受けたり暴力を振るわれることも多々ありましたが、同胞がいたおかげで、私たちは互いに協力し合い苦難を乗り越えてきました」

 重い口を開きながら、彼女は徐々に記憶の扉を開いてゆく。
 かつては、仲間とともに村人としてこの村で生活を送っていたこと。
 この村に麦畑はなく畑には、様々な野菜が育てられていたこと。
 それまで、村は平穏そのものであった。
 村全体の雰囲気が変わったのは、ムッグ神官がこの村に着任したのとほぼ同時期だという……。
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