38 / 55
二章、後編 聖地の落とし物
37話 卵焼き
しおりを挟む
ソフィーと話し込んでいる内に、陽がすっかり傾いてしまった。
宿を取るにしても、今からでは難しいと彼女に言われ一晩、泊めて貰うこととなった。
せめてもの礼にと、私も夕食の支度を手伝うことに決めた。
料理は、得意な方ではないけれど、食べれるぐらいのモノは作れる。
幸いにも私たちには、御者のオヤジさんから買い取った食材がある。
遺跡でキャンプすることを見越して、準備したモノが早速、役に立った。
キッチンで野菜を刻むソフィーの動きを、キィーナは昼間に買った虫メガネごしにジッと眺めていた。
「迷惑だからやめなさい」と注意しても、言った傍からソフィーが許してしまう。
ソフィーいわく、子供は大人の動きを真似て物事を覚えるそうだ。
だから、興味を持っているモノには極力、見せたり触れさせたりした方が効果があるらしい。
上手いこと、言い包められたような気分ではあるが、何かに興味を持つこと自体は悪いことではない。
ならば、私も一石を投じて、この小さな探偵をかく乱してみせよう。
カン、カン……パカッとリズムを刻む音にキィーナの耳がピンと立った。
私が卵の殻を割り始めると途端、こちらへと方向転換してきた。
「卵! 卵! 卵焼きぃ!! 卵! 卵! 卵焼きぃ!!」
催促する歌を口ずさみながら、私が調味料を加え、卵を撹拌するのを見入っている。
「お砂糖たっぷり卵焼きぃ! バターもたっぷり卵やきぃ! くださいなぁ~」
「わりかし、ハードなものを要求してくるね、お客さん」
卵焼きはキィーナの大好物だ。
しかも、私の作った物でないと駄目らしい。
この子にとって卵焼きは特別な物で、私にとっては初めて誰かのために作った思い出だ。
熱したフライパンでバターを溶かし、卵液を流し込む。
すると、キッチンに甘い香りが拡がってゆく。
その匂いをキィーナは吸い込むようにして嗅いでいた。
「よし、出来た!」
「私のほうも終わりました」
燭台で灯るロウソクの光が食卓に並べられた料理を優しく照らす。
暖かな、テーブルを囲って、私たちは天の恵みと命の有難さに感謝し祈りを捧げる。
慎ましくとも、ちゃんと料理ができる人がいてくれる分、いつもよりも豪勢な夕食だった。
宿を取るにしても、今からでは難しいと彼女に言われ一晩、泊めて貰うこととなった。
せめてもの礼にと、私も夕食の支度を手伝うことに決めた。
料理は、得意な方ではないけれど、食べれるぐらいのモノは作れる。
幸いにも私たちには、御者のオヤジさんから買い取った食材がある。
遺跡でキャンプすることを見越して、準備したモノが早速、役に立った。
キッチンで野菜を刻むソフィーの動きを、キィーナは昼間に買った虫メガネごしにジッと眺めていた。
「迷惑だからやめなさい」と注意しても、言った傍からソフィーが許してしまう。
ソフィーいわく、子供は大人の動きを真似て物事を覚えるそうだ。
だから、興味を持っているモノには極力、見せたり触れさせたりした方が効果があるらしい。
上手いこと、言い包められたような気分ではあるが、何かに興味を持つこと自体は悪いことではない。
ならば、私も一石を投じて、この小さな探偵をかく乱してみせよう。
カン、カン……パカッとリズムを刻む音にキィーナの耳がピンと立った。
私が卵の殻を割り始めると途端、こちらへと方向転換してきた。
「卵! 卵! 卵焼きぃ!! 卵! 卵! 卵焼きぃ!!」
催促する歌を口ずさみながら、私が調味料を加え、卵を撹拌するのを見入っている。
「お砂糖たっぷり卵焼きぃ! バターもたっぷり卵やきぃ! くださいなぁ~」
「わりかし、ハードなものを要求してくるね、お客さん」
卵焼きはキィーナの大好物だ。
しかも、私の作った物でないと駄目らしい。
この子にとって卵焼きは特別な物で、私にとっては初めて誰かのために作った思い出だ。
熱したフライパンでバターを溶かし、卵液を流し込む。
すると、キッチンに甘い香りが拡がってゆく。
その匂いをキィーナは吸い込むようにして嗅いでいた。
「よし、出来た!」
「私のほうも終わりました」
燭台で灯るロウソクの光が食卓に並べられた料理を優しく照らす。
暖かな、テーブルを囲って、私たちは天の恵みと命の有難さに感謝し祈りを捧げる。
慎ましくとも、ちゃんと料理ができる人がいてくれる分、いつもよりも豪勢な夕食だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる