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二章、後編 聖地の落とし物

37話 卵焼き

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 ソフィーと話し込んでいる内に、陽がすっかり傾いてしまった。
 宿を取るにしても、今からでは難しいと彼女に言われ一晩、泊めて貰うこととなった。

 せめてもの礼にと、私も夕食の支度を手伝うことに決めた。
 料理は、得意な方ではないけれど、食べれるぐらいのモノは作れる。

 幸いにも私たちには、御者のオヤジさんから買い取った食材がある。
 遺跡でキャンプすることを見越して、準備したモノが早速、役に立った。

 キッチンで野菜を刻むソフィーの動きを、キィーナは昼間に買った虫メガネごしにジッと眺めていた。
「迷惑だからやめなさい」と注意しても、言った傍からソフィーが許してしまう。
 ソフィーいわく、子供は大人の動きを真似て物事を覚えるそうだ。
 だから、興味を持っているモノには極力、見せたり触れさせたりした方が効果があるらしい。
 上手いこと、言い包められたような気分ではあるが、何かに興味を持つこと自体は悪いことではない。

 ならば、私も一石を投じて、この小さな探偵をかく乱してみせよう。
 カン、カン……パカッとリズムを刻む音にキィーナの耳がピンと立った。
 私が卵の殻を割り始めると途端、こちらへと方向転換してきた。

「卵! 卵! 卵焼きぃ!! 卵! 卵! 卵焼きぃ!!」
 催促する歌を口ずさみながら、私が調味料を加え、卵を撹拌かくはんするのを見入っている。

「お砂糖たっぷり卵焼きぃ! バターもたっぷり卵やきぃ! くださいなぁ~」

「わりかし、ハードなものを要求してくるね、お客さん」

 卵焼きはキィーナの大好物だ。
 しかも、私の作った物でないと駄目らしい。
 この子にとって卵焼きは特別な物で、私にとっては初めて誰かのために作った思い出だ。

 熱したフライパンでバターを溶かし、卵液を流し込む。
 すると、キッチンに甘い香りが拡がってゆく。
 その匂いをキィーナは吸い込むようにして嗅いでいた。

「よし、出来た!」

「私のほうも終わりました」

 燭台で灯るロウソクの光が食卓に並べられた料理を優しく照らす。
 暖かな、テーブルを囲って、私たちは天の恵みと命の有難さに感謝し祈りを捧げる。
 慎ましくとも、ちゃんと料理ができる人がいてくれる分、いつもよりも豪勢な夕食だった。
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