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二章、前編 聖地への訪問

34話 ソフィーの工房

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「宜しければ、ここを宿泊の場として利用してください。客間もありますので」
 ムッグ神官にそう勧められたが、私は「宿を取りますので」とやんわりと断った。

 これ以上、この教会の派手さを見せつけられるのも嫌だし、自慢話を聞くのもうんざりだ。
 感想を求めれる度に体力がゴリゴリと削られていくのは確実だ。

 それに、ムッグ殿から感じるソフィーへの威圧感が気に入らない。
 そのせいでソフィーは教会に入ってからずっと委縮したままのようだった。

「大丈夫? ソフィー」
 教会を出て、すぐに彼女に尋ねてみた。

「はい? な、何の話ですか?」
 言葉足らずで、こちらの意図が伝わらなかったようだ。
 ソフィーは、何度も瞬きしながら愛想笑いを浮かべていた。
 遅かれ早かれ、この話題には一度触れなければならない。
 だとしたら、先送りにしない方がいい。事態が急変してからでは、話を聞けるタイミングもないだろう。
 例え、可能性のレベルでも流れ的にはここがベストだ。

「ムッグ神官と何かあったようだね?」

「どうして……急に、そんな話を?」

「貴女の態度を見れば分かるよ、ずっと神官に怯えていたでしょ? 良かったら話してくれないかな」

 私の言葉に、それまで先頭を歩いていた彼女の馬耳がピクリと動いた。
 こちらを向く彼女は少し俯き加減で気持ちが沈んでいるようだった。

「ねぇ? ねぇ? ソフィーおねぇさん」
 キィーナが花飾りのついた帽子を揺らしながら、彼女のもとに駆け寄る。

「ん?」と小さく返事するソフィーに「おねぇさんの、お家はどこにあるの? キィ見てみたぁーい!」とおねだりしている。

 子供らしい無邪気な質問に、か細くて長い指先を口元に添えてソフィーは微笑した。
 貴婦人のような上品ささえ漂う所作に、これまで彼女の心を縛りつけていた緊張が解けたのが分かった。

「話、私の工房で聞いて貰っても構いませんか?」
 声のトーンが少し明るくなった彼女に「勿論です」と答えた。

 村の奥、小川を渡った、その先にポツンと一軒家が建っている。
 そこがソフィーの工房だった。
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