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二章、前編 聖地への訪問
32話 神官
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扉を開けると、新しい家屋の匂いがした。
生きた木材の香りに包まれたまま私は、教会内で発狂しそうになった。
入ったその先にある礼拝堂には、教会とは思えないほどの贅の極みで埋め尽くされていた。
いかにも値が張りそうな美麗な彫像。
天井に吊り下げられた王族顔負けの豪華絢爛な照明。
土足が躊躇われるほどに磨き上げられた床板。
どれ、一つとっても上質な一級品だが……なによりも私の心を抉ってきたのは、清めの場とかいう水の流れる小さな泉があることだった。
普通、ここまでやる者はいない……ここの神官は、どれだけ見栄を張りたいのだろうか?
その答えに至るのは、今、私の前にいるチョビ髭を生やした、この小太りのオッサンだけだ。
「ようこそ、神官ディズ・ジーニス殿。当教会を担当する神官ムッグと申します、して今回はいかがなご用件で?」
「ログワークの依頼を受けて近隣にある遺跡の調査にやって参りました。近頃、この村で変わったことなどありませんでしたか?」
「変わったことですか……」
神官ムッグは考え込む素振りをしながら、目を細めた。
その視線は私ではなく、後ろにいるソフィーに対し放たれた不快感のようなモノ。
ソフィーの話が正しければ、ムッグ殿は悪魔つきに対する偏見が強い。
彼らとのイザコザが一つ、二つとあってもおかしくはない話だ。
「特になにも……と言いたい所ですが、ワタシも神に仕える身です。虚偽など許されはしません……実は最近、遺跡の方で魔物の大群を目撃したという情報がありまして、調査したばかりなのです」
「それで、なにか掴めましたか?」
「大群には遭遇しませんでしたが、遺跡の最奥につながる通路を塞いでいるキングオークを発見しましてな。浄化専門のワタシでは、コヤツがどうしても駆除できなくて、手を焼いていた次第です」
「キングオークですか……」
ムッグ殿の話はどこまで本当なのか? 同じ神官の身でありながらも、私は懐疑的な立場で考えてしまった。
元来、ヴィンセント遺跡には魔物避けの結界が張られていたはずだ。
魔物どころか、大群すら入り込める余地はなかったはずだ。
仮に、本当にキングオークがいたとして、それは結界が機能していない事になる。
ならば、なおさら辻褄が合わない。
魔物が出てきたという時点で、このメボ村に何らかの被害が及んでいるはずだ。
生きた木材の香りに包まれたまま私は、教会内で発狂しそうになった。
入ったその先にある礼拝堂には、教会とは思えないほどの贅の極みで埋め尽くされていた。
いかにも値が張りそうな美麗な彫像。
天井に吊り下げられた王族顔負けの豪華絢爛な照明。
土足が躊躇われるほどに磨き上げられた床板。
どれ、一つとっても上質な一級品だが……なによりも私の心を抉ってきたのは、清めの場とかいう水の流れる小さな泉があることだった。
普通、ここまでやる者はいない……ここの神官は、どれだけ見栄を張りたいのだろうか?
その答えに至るのは、今、私の前にいるチョビ髭を生やした、この小太りのオッサンだけだ。
「ようこそ、神官ディズ・ジーニス殿。当教会を担当する神官ムッグと申します、して今回はいかがなご用件で?」
「ログワークの依頼を受けて近隣にある遺跡の調査にやって参りました。近頃、この村で変わったことなどありませんでしたか?」
「変わったことですか……」
神官ムッグは考え込む素振りをしながら、目を細めた。
その視線は私ではなく、後ろにいるソフィーに対し放たれた不快感のようなモノ。
ソフィーの話が正しければ、ムッグ殿は悪魔つきに対する偏見が強い。
彼らとのイザコザが一つ、二つとあってもおかしくはない話だ。
「特になにも……と言いたい所ですが、ワタシも神に仕える身です。虚偽など許されはしません……実は最近、遺跡の方で魔物の大群を目撃したという情報がありまして、調査したばかりなのです」
「それで、なにか掴めましたか?」
「大群には遭遇しませんでしたが、遺跡の最奥につながる通路を塞いでいるキングオークを発見しましてな。浄化専門のワタシでは、コヤツがどうしても駆除できなくて、手を焼いていた次第です」
「キングオークですか……」
ムッグ殿の話はどこまで本当なのか? 同じ神官の身でありながらも、私は懐疑的な立場で考えてしまった。
元来、ヴィンセント遺跡には魔物避けの結界が張られていたはずだ。
魔物どころか、大群すら入り込める余地はなかったはずだ。
仮に、本当にキングオークがいたとして、それは結界が機能していない事になる。
ならば、なおさら辻褄が合わない。
魔物が出てきたという時点で、このメボ村に何らかの被害が及んでいるはずだ。
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