追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

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二章、前編 聖地への訪問

28話 憑く者

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 こちらを向いたまま、ゲゲルがいやらしく笑いかけてきた。
 友好のサインなんかじゃない。その瞳は、私より後ろにいる彼女を捉えて離さなかった。

「悪魔憑きの女か。いいねぇ~、実に良い! 都で売れば、物好きな奴が高価で買い取ってくれんだろうよ」

 ソフィーのことだ。悪魔憑きと呼ばれる人々は、世俗では物珍しくみられている。
 人さらいに連れてかれるなんていう話はうんざりするほど聞いてきた。
 ゲゲルの反応からして、この野盗たちも、その手の輩だということになる。

 どうにかして、ソフィーの安全を確保しなければならない。
 このままでは、キィーナも悪魔憑きだとバレてしまう。
 私は決断に迫られていた。結界を張って彼女たちを守るにも、野盗の方が数で勝っている。

 だったら、残された手は限られている。

「オマエら、狩れ」
 冷たく言い放つゲゲルの合図により、待っていましたと言わんばかりに悪漢たちが猛り狂い始めた。
 中央の馬車と私たちを狙って、剣や斧を持って一斉に押し寄せてくる。

 その動きを確かめながらも、すぐさま私は叫んだ。

「二人と馬車に乗って! オヤジさん、合図したら馬車を走らせて!!」

「わがった。神官様の言葉を信じるべ」

 急いで私たちは馬車の荷台に飛び込んだ。
 できるだけ野盗を引き寄せるのが好ましい、なぜなら今から使用する術は、あまり長く持たないからだ。
 わずかな時間で意識を集中する。
 魔力をロッドに送り込むイメージが大事だ。

「今から光を開くよ。キィーナ、準備はできるかい?」

「うん、いつでも大丈夫。まかせて! お姉さんは私が守るから」

「キィーナちゃん……」

 ソフィーを怖がらせないよう、彼女なりの気づかいからだろう。
 キィーナは力強く頷いた。
 切迫した状況にも関わらず、気圧されていないのなら、問題はなさそうだ。
 ロッドを天にかかげると、眩い光が辺り一帯を支配する。


「オヤジさん! 馬車を」

「ほい、きたぁ―――!!」

 合図で馬車が走り出す。当然ながら、緩慢かんまんな馬の駆け足……いきなり速度がでるものではない。
 野盗の半数以上は、私が放った光を直視し、もだえていた。
 足を止めた彼らはもはや、恰好の的だ。
 キィーナの透き通った遠吠えが平野に響き渡った。 
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