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二章、前編 聖地への訪問

25話 野盗ゲゲル一派

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 キィーナの耳が、帽子の中でモゾモゾと動いている。
 それだけ、大人数での動きがあるということだ。
 街道周囲を取り囲むように人影が現れた。
 野盗だ。魔物ばかりに気を取られていてコイツらの存在を忘れていた。
 忘れいるときに限って、張り切って出てくるから面倒で仕方ない。

「うおぃ! そこの馬車、荷台の積み荷をぜんぶ置いて行け」

 どうも、前の馬車が目をつけられたらしい。
 野盗の一人が馬車の手綱をひく老人を恐喝している。
 御者である彼は、なぜか遠方を見渡すような素振りをしつつ野盗に告げた。

「馬車なんか、一台もねぇぺ」

「おまっ……ふっ、ざけてんのか!? 馬車ったら、この馬車しかねえだろうよぉ」

「…………実はだな」

「ん? 何だ? はよう、言え」

「はて? 何を言おうとしていただ、ワスは…………オメエさ、知っとるか?」

「知るかよ! クソジジイ、昼間からボケかましてんじゃねぇぞ」

 何というか……とても豪胆な御仁だった。
 おおかた、ボケたフリをして難を逃れようとしているようだけれど、あれでは逆効果だ。
 運転手の挑発に逆上した野盗が、長くも短くもないハンドソードを鞘から引き抜いた。

 間髪入れず、ズダァ――ン! と銃声が平野に響き渡った。
 同時に宙を飛び去る、長くも短くもないハンドソード。

「ああっ、俺の……長くも短くもないハンドソードが……」

「小童、顔を洗って出直してきんさい」

 硝煙たちこめる銃口を野盗に向け、運転手はニヒルに笑ってみせた。
 気取っているところ申し訳ないが、馬車だけでなく私たちも含め野盗の集団に包囲されている。
 老人一人がキメ顔を見せたところで、状況的にこちらが不利だ。

「ほぉ~、威勢のいいジジイがいるじゃんよ」
 集団の中から頭にターバンを巻いた、長髪の男が飛び出してきた。
 中肉中背、鍛えられた筋肉によって引き締まったボディラインを維持する、中年男性。
 何もかも、わりと平均的な男が、天に向かって中差し指を突き立てる。
 すると他の野盗たちから歓声が沸きあがり、全員で彼の名を叫んだ。

「ゲゲルさん、来たぁあああああ――――!!」

「馬鹿野郎がァアアア――――俺は、ミゲルだぁあああ――――――!!!」    
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