24 / 55
二章、前編 聖地への訪問
23話 ヴィンセントの遺跡
しおりを挟む
「申し遅れました。私はソフィー、この国境門を越えた先にある農村で暮らす仕立屋です。あの……神官様のおかげで無事に薬を購入できました」
「それは、良かったです」
仕立屋のソフィーが深々とお辞儀をすると、会食が始まった。
私としては、他愛のない世間話で済ませたいところだったが、そう上手くはいかない。
話の内容は悪魔憑きについて持ち切りだった。
ソフィ―的には、どうして私が庇ってくれたのか不思議が仕方なかったらしい。
地元の神官でさえ、彼女への接し方は冷ややかなものだったという。
稀にそういう堕落した輩もいるが、こればかりは運が悪かったとしか言いようがない。
その旨を伝えると彼女は肩の力を抜いて頷いた。
一見すると落胆したように映るが、私にはそれが、ある種の納得であるように思えた。
諦めとは違う。それ相応の答えを得てからの完結の仕方とでもいうべきか……。
この世界の教会が、どれほど強大な権威を持っていても人類すべてを救済することなど夢物語でしかない。
どれほど、期待を寄せられたとしても限界はある。
人は区切りをつけることで未練を断ち切る。
信仰もまた同じく、有能であっても万能ではない。
必ずしも信徒を救えるとは言い難い。
もし、それを可能にするのなら奇跡を起こす必要がある。
「あの、失礼を承知でお願いしたいのですが……神官様さえ、宜しければ一度、私たちの村に視察にきてもらえないでしょうか? あなた様の話聞けば、村の仲間たちも希望が持てる気がするんです」
唐突なソフィーの申し出に私は、言葉を飲んだ。
「希望」それが意味するところは、様々であるが今回の場合は、あまり好ましくない方の案件のようだ。
キィーナの方に目を動かすと、彼女はデザートのプディングを夢中になって食べていた。
偶然の一致か、はたまた神の導きか?
その農村には、少なからず因縁があるみたいだ。
「ヴィンセント遺跡……ソフィーさん、貴女の村の傍にそう呼ばれる遺跡があるのを知っていますか?」
「遺跡ですか。確かに、村の近くに遺跡はありますが、どうかしましたか?」
「お気になさらず、確認のために聞いただけですので」
ヴィンセント遺跡、奇しくもそこはログワークが指定してきた次の依頼場所だった。
彼らに従う理由はないけれど、こうも偶然が重なると気が気でなくなる。
幸い、村はここから遠くではないらしいし、それなりに身支度は整っている。
あとは、この子次第だ。なるべく、キィーナの意見を尊重してあげたい。
「キィーナ、これから数日の間、このお姉さんの村に出掛けようと思うんだけど、いいかな?」
「それは、良かったです」
仕立屋のソフィーが深々とお辞儀をすると、会食が始まった。
私としては、他愛のない世間話で済ませたいところだったが、そう上手くはいかない。
話の内容は悪魔憑きについて持ち切りだった。
ソフィ―的には、どうして私が庇ってくれたのか不思議が仕方なかったらしい。
地元の神官でさえ、彼女への接し方は冷ややかなものだったという。
稀にそういう堕落した輩もいるが、こればかりは運が悪かったとしか言いようがない。
その旨を伝えると彼女は肩の力を抜いて頷いた。
一見すると落胆したように映るが、私にはそれが、ある種の納得であるように思えた。
諦めとは違う。それ相応の答えを得てからの完結の仕方とでもいうべきか……。
この世界の教会が、どれほど強大な権威を持っていても人類すべてを救済することなど夢物語でしかない。
どれほど、期待を寄せられたとしても限界はある。
人は区切りをつけることで未練を断ち切る。
信仰もまた同じく、有能であっても万能ではない。
必ずしも信徒を救えるとは言い難い。
もし、それを可能にするのなら奇跡を起こす必要がある。
「あの、失礼を承知でお願いしたいのですが……神官様さえ、宜しければ一度、私たちの村に視察にきてもらえないでしょうか? あなた様の話聞けば、村の仲間たちも希望が持てる気がするんです」
唐突なソフィーの申し出に私は、言葉を飲んだ。
「希望」それが意味するところは、様々であるが今回の場合は、あまり好ましくない方の案件のようだ。
キィーナの方に目を動かすと、彼女はデザートのプディングを夢中になって食べていた。
偶然の一致か、はたまた神の導きか?
その農村には、少なからず因縁があるみたいだ。
「ヴィンセント遺跡……ソフィーさん、貴女の村の傍にそう呼ばれる遺跡があるのを知っていますか?」
「遺跡ですか。確かに、村の近くに遺跡はありますが、どうかしましたか?」
「お気になさらず、確認のために聞いただけですので」
ヴィンセント遺跡、奇しくもそこはログワークが指定してきた次の依頼場所だった。
彼らに従う理由はないけれど、こうも偶然が重なると気が気でなくなる。
幸い、村はここから遠くではないらしいし、それなりに身支度は整っている。
あとは、この子次第だ。なるべく、キィーナの意見を尊重してあげたい。
「キィーナ、これから数日の間、このお姉さんの村に出掛けようと思うんだけど、いいかな?」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる