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二章、前編 聖地への訪問
23話 ヴィンセントの遺跡
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「申し遅れました。私はソフィー、この国境門を越えた先にある農村で暮らす仕立屋です。あの……神官様のおかげで無事に薬を購入できました」
「それは、良かったです」
仕立屋のソフィーが深々とお辞儀をすると、会食が始まった。
私としては、他愛のない世間話で済ませたいところだったが、そう上手くはいかない。
話の内容は悪魔憑きについて持ち切りだった。
ソフィ―的には、どうして私が庇ってくれたのか不思議が仕方なかったらしい。
地元の神官でさえ、彼女への接し方は冷ややかなものだったという。
稀にそういう堕落した輩もいるが、こればかりは運が悪かったとしか言いようがない。
その旨を伝えると彼女は肩の力を抜いて頷いた。
一見すると落胆したように映るが、私にはそれが、ある種の納得であるように思えた。
諦めとは違う。それ相応の答えを得てからの完結の仕方とでもいうべきか……。
この世界の教会が、どれほど強大な権威を持っていても人類すべてを救済することなど夢物語でしかない。
どれほど、期待を寄せられたとしても限界はある。
人は区切りをつけることで未練を断ち切る。
信仰もまた同じく、有能であっても万能ではない。
必ずしも信徒を救えるとは言い難い。
もし、それを可能にするのなら奇跡を起こす必要がある。
「あの、失礼を承知でお願いしたいのですが……神官様さえ、宜しければ一度、私たちの村に視察にきてもらえないでしょうか? あなた様の話聞けば、村の仲間たちも希望が持てる気がするんです」
唐突なソフィーの申し出に私は、言葉を飲んだ。
「希望」それが意味するところは、様々であるが今回の場合は、あまり好ましくない方の案件のようだ。
キィーナの方に目を動かすと、彼女はデザートのプディングを夢中になって食べていた。
偶然の一致か、はたまた神の導きか?
その農村には、少なからず因縁があるみたいだ。
「ヴィンセント遺跡……ソフィーさん、貴女の村の傍にそう呼ばれる遺跡があるのを知っていますか?」
「遺跡ですか。確かに、村の近くに遺跡はありますが、どうかしましたか?」
「お気になさらず、確認のために聞いただけですので」
ヴィンセント遺跡、奇しくもそこはログワークが指定してきた次の依頼場所だった。
彼らに従う理由はないけれど、こうも偶然が重なると気が気でなくなる。
幸い、村はここから遠くではないらしいし、それなりに身支度は整っている。
あとは、この子次第だ。なるべく、キィーナの意見を尊重してあげたい。
「キィーナ、これから数日の間、このお姉さんの村に出掛けようと思うんだけど、いいかな?」
「それは、良かったです」
仕立屋のソフィーが深々とお辞儀をすると、会食が始まった。
私としては、他愛のない世間話で済ませたいところだったが、そう上手くはいかない。
話の内容は悪魔憑きについて持ち切りだった。
ソフィ―的には、どうして私が庇ってくれたのか不思議が仕方なかったらしい。
地元の神官でさえ、彼女への接し方は冷ややかなものだったという。
稀にそういう堕落した輩もいるが、こればかりは運が悪かったとしか言いようがない。
その旨を伝えると彼女は肩の力を抜いて頷いた。
一見すると落胆したように映るが、私にはそれが、ある種の納得であるように思えた。
諦めとは違う。それ相応の答えを得てからの完結の仕方とでもいうべきか……。
この世界の教会が、どれほど強大な権威を持っていても人類すべてを救済することなど夢物語でしかない。
どれほど、期待を寄せられたとしても限界はある。
人は区切りをつけることで未練を断ち切る。
信仰もまた同じく、有能であっても万能ではない。
必ずしも信徒を救えるとは言い難い。
もし、それを可能にするのなら奇跡を起こす必要がある。
「あの、失礼を承知でお願いしたいのですが……神官様さえ、宜しければ一度、私たちの村に視察にきてもらえないでしょうか? あなた様の話聞けば、村の仲間たちも希望が持てる気がするんです」
唐突なソフィーの申し出に私は、言葉を飲んだ。
「希望」それが意味するところは、様々であるが今回の場合は、あまり好ましくない方の案件のようだ。
キィーナの方に目を動かすと、彼女はデザートのプディングを夢中になって食べていた。
偶然の一致か、はたまた神の導きか?
その農村には、少なからず因縁があるみたいだ。
「ヴィンセント遺跡……ソフィーさん、貴女の村の傍にそう呼ばれる遺跡があるのを知っていますか?」
「遺跡ですか。確かに、村の近くに遺跡はありますが、どうかしましたか?」
「お気になさらず、確認のために聞いただけですので」
ヴィンセント遺跡、奇しくもそこはログワークが指定してきた次の依頼場所だった。
彼らに従う理由はないけれど、こうも偶然が重なると気が気でなくなる。
幸い、村はここから遠くではないらしいし、それなりに身支度は整っている。
あとは、この子次第だ。なるべく、キィーナの意見を尊重してあげたい。
「キィーナ、これから数日の間、このお姉さんの村に出掛けようと思うんだけど、いいかな?」
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