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二章、前編 聖地への訪問
22話 風の吹く方向
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柄にもなく、人前で説法してしまった。
神官だから、それぐらいは出来なければいけない。
昔、何度も司祭様から言い聞かされてきたことだが、こればかり苦手だ。
もとから人前で話しをすることは得意ではない。
面談の時でさえ、緊張で胃が痛くなる私が、険悪なあの場をどうにか諌めたのだ。
疲労感が半端ない。
今すぐ「疲れた」と言って大の字になって寝そべりたい。
キィーナの手前、そうもいかないけど、休憩しないとすり減った気力は回復しそうにない。
市場でのゴタゴタから解放されたと思いきや、説法後の懺悔タイムが始まった。
私が神官なのを良いことに、皆こぞって自分の罪を告白しにきた。
償おうという気持ちは実に素晴らしいと思う。
神官として頼られるのは悪いきがしない。
一点、不満を述べるとしたら、どうして全員、私に懺悔したがるのかということだ。
神官などは各地域で活動しているはずだ。
それこそ珍しくもない。探そうと思えば、すぐに見つかるはずだ。
大事なのは、告白する相手ではない。罪を償おうとする気持ち。
私が罪を赦しても、その人の罪を消すことはできない。
その辺を理解するように、話したつもりだ。
とにかく、私もキィーナも長時間の屋外活動を行ったせいでクタクタになっている。
英気を養うために、こうして国境門の中にある飲食店に足を運んだのだ。
雰囲気こそ、落ち着いてはいるものの、店内は昼食の時間を過ぎても来客であふれていた。
ここのレストランは、一度に大人数が入れるほどの規模を持つ有名店だ。
人が少ないところ狙ったわけだが……どうやら、選択を見誤ったらしい。
即座に踵を返そうとするとキィーナが神官服の袖を引っ張ってきた。
「私たちのこと、だれかが呼んでいるよ」
「――様。神官様、こちらです」
少し離れたテーブルから手を振る女性の姿が確認できた。
呼ばれるがまま、近づくと私達を呼んでいたのは、悪魔憑きと非難されていた馬耳の彼女だった。
「さきほどは、有難うございました。相席で宜しければ、座ってください」
「えっ? でも順番待ちが……」
「問題ありません。神官様たちをもてなそうと、あらかじめ取っておいた席ですので」
「そうですか。では、ご厚意に甘えさせていただきます」
屈託のない笑みを浮かべてみせる彼女と一緒に席についた。
後にして思えば、この時点で私とキィーナは、運命という名の風に吹き流されていたのかもしれない。
神官だから、それぐらいは出来なければいけない。
昔、何度も司祭様から言い聞かされてきたことだが、こればかり苦手だ。
もとから人前で話しをすることは得意ではない。
面談の時でさえ、緊張で胃が痛くなる私が、険悪なあの場をどうにか諌めたのだ。
疲労感が半端ない。
今すぐ「疲れた」と言って大の字になって寝そべりたい。
キィーナの手前、そうもいかないけど、休憩しないとすり減った気力は回復しそうにない。
市場でのゴタゴタから解放されたと思いきや、説法後の懺悔タイムが始まった。
私が神官なのを良いことに、皆こぞって自分の罪を告白しにきた。
償おうという気持ちは実に素晴らしいと思う。
神官として頼られるのは悪いきがしない。
一点、不満を述べるとしたら、どうして全員、私に懺悔したがるのかということだ。
神官などは各地域で活動しているはずだ。
それこそ珍しくもない。探そうと思えば、すぐに見つかるはずだ。
大事なのは、告白する相手ではない。罪を償おうとする気持ち。
私が罪を赦しても、その人の罪を消すことはできない。
その辺を理解するように、話したつもりだ。
とにかく、私もキィーナも長時間の屋外活動を行ったせいでクタクタになっている。
英気を養うために、こうして国境門の中にある飲食店に足を運んだのだ。
雰囲気こそ、落ち着いてはいるものの、店内は昼食の時間を過ぎても来客であふれていた。
ここのレストランは、一度に大人数が入れるほどの規模を持つ有名店だ。
人が少ないところ狙ったわけだが……どうやら、選択を見誤ったらしい。
即座に踵を返そうとするとキィーナが神官服の袖を引っ張ってきた。
「私たちのこと、だれかが呼んでいるよ」
「――様。神官様、こちらです」
少し離れたテーブルから手を振る女性の姿が確認できた。
呼ばれるがまま、近づくと私達を呼んでいたのは、悪魔憑きと非難されていた馬耳の彼女だった。
「さきほどは、有難うございました。相席で宜しければ、座ってください」
「えっ? でも順番待ちが……」
「問題ありません。神官様たちをもてなそうと、あらかじめ取っておいた席ですので」
「そうですか。では、ご厚意に甘えさせていただきます」
屈託のない笑みを浮かべてみせる彼女と一緒に席についた。
後にして思えば、この時点で私とキィーナは、運命という名の風に吹き流されていたのかもしれない。
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