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一章 神官とケモ耳娘
14話 上空からのパノラマ
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二日目の朝を迎えた。
山小屋を出た私の視界に飛び込んできたのは、どこまでも続く蒼穹の世界だった。
圧巻の景色に、言葉を失っていた。
私たちが暮らす大地はかくも、広大で色鮮やかなことか。
こうして遠方まで見渡していると、自身が天上世界の住人になったような錯覚を覚える。
もちろん、気のせいすぎないことは分かっている。
けれど、ここまで美しいモノを見せられれば興奮がおさまるわけがない。
下方に見える、開拓村がミニチュアサイズになっている。
目を凝らせば、私たちの家も見えるかもしれない。
キィーナとともに、そんなことを話しながら、私たちは次の峰をめざした。
「魔物の気配が色濃くなってきたな……」
少しずつ霧が立ち込める中、ラグースさんが周囲を警戒し始めた。
彼の言うとおり、霧に混じって瘴気が流れでている。
「二人とも、加護をほどこすので私の近くに」
このまま、先に進めば瘴気は、ますます濃くなってくる。
瘴気は人体に有害だ。
長時間、浴び続ければ毒となり眩暈や頭痛、吐き気を催し、悪化すれば神経系を狂わせる。
そうなる前に、浄化の術をかけて対処しておく。
これで、しばらくは安心して進めるだろう。
次第に雲行きが怪しくなってきた。
出発前は暖かな陽気だったのに、今は肌寒い。
隣を歩くキィーナも肩をさすりながら、身震いしている。
「あたたかい~。ディの匂いがする」
着ていたケープを彼女にかけてやると、ほっこりとした笑みが返ってきた。
寒いのは変わらずとも、キィーナの嬉しそうな顔を見ると心の中がじんわりと熱を帯びるから不思議だ。
「神官殿、向こうの藪の中を見てみろ!」
少し先を進む、ラグースさんが叫んでいた。
言われたとおり、目を凝らすと漆黒の穴が見えている。
「異界だ……」
そう呟く私にラグースさんが血相を変えて問いただす。
「異界? 何だ、それは? 神官殿はアレが何か、知っているのか!?」
「あれは……いけない! すでに気づかれてしまっている」
「なっ、足が地面に沈んでゆく」
気づくのが遅すぎた。
私たちは、知らず知らずのうちに魔物の領域に踏み込んでしまっていた。
空間が歪められ穴の中に引きずり込まれる。
ゲートの中の魔物が、私を獲物とみなし捕獲しようとしている。
「ううっ、気持ち悪い……ディ、助けて」
流されてゆくキィーナを空かさず抱きとめた。
この危機を脱するには、ゲートの主を退治するほかない。
私は手にした聖杖に魔力を込め、迫り来る闇に立ち向かった。
山小屋を出た私の視界に飛び込んできたのは、どこまでも続く蒼穹の世界だった。
圧巻の景色に、言葉を失っていた。
私たちが暮らす大地はかくも、広大で色鮮やかなことか。
こうして遠方まで見渡していると、自身が天上世界の住人になったような錯覚を覚える。
もちろん、気のせいすぎないことは分かっている。
けれど、ここまで美しいモノを見せられれば興奮がおさまるわけがない。
下方に見える、開拓村がミニチュアサイズになっている。
目を凝らせば、私たちの家も見えるかもしれない。
キィーナとともに、そんなことを話しながら、私たちは次の峰をめざした。
「魔物の気配が色濃くなってきたな……」
少しずつ霧が立ち込める中、ラグースさんが周囲を警戒し始めた。
彼の言うとおり、霧に混じって瘴気が流れでている。
「二人とも、加護をほどこすので私の近くに」
このまま、先に進めば瘴気は、ますます濃くなってくる。
瘴気は人体に有害だ。
長時間、浴び続ければ毒となり眩暈や頭痛、吐き気を催し、悪化すれば神経系を狂わせる。
そうなる前に、浄化の術をかけて対処しておく。
これで、しばらくは安心して進めるだろう。
次第に雲行きが怪しくなってきた。
出発前は暖かな陽気だったのに、今は肌寒い。
隣を歩くキィーナも肩をさすりながら、身震いしている。
「あたたかい~。ディの匂いがする」
着ていたケープを彼女にかけてやると、ほっこりとした笑みが返ってきた。
寒いのは変わらずとも、キィーナの嬉しそうな顔を見ると心の中がじんわりと熱を帯びるから不思議だ。
「神官殿、向こうの藪の中を見てみろ!」
少し先を進む、ラグースさんが叫んでいた。
言われたとおり、目を凝らすと漆黒の穴が見えている。
「異界だ……」
そう呟く私にラグースさんが血相を変えて問いただす。
「異界? 何だ、それは? 神官殿はアレが何か、知っているのか!?」
「あれは……いけない! すでに気づかれてしまっている」
「なっ、足が地面に沈んでゆく」
気づくのが遅すぎた。
私たちは、知らず知らずのうちに魔物の領域に踏み込んでしまっていた。
空間が歪められ穴の中に引きずり込まれる。
ゲートの中の魔物が、私を獲物とみなし捕獲しようとしている。
「ううっ、気持ち悪い……ディ、助けて」
流されてゆくキィーナを空かさず抱きとめた。
この危機を脱するには、ゲートの主を退治するほかない。
私は手にした聖杖に魔力を込め、迫り来る闇に立ち向かった。
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