追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
12 / 64
一章 神官とケモ耳娘

11話 山奥に潜むモノ

しおりを挟む
「ラグースさん、こちらの手違いで疑ってしまい、すみません。ディズ様にも、ご迷惑をかけてしまいましたね」

 探していたモノが見つかった途端、ハルツ氏は私たちの前で深々と頭を下げた。
 その潔さは信用を重んじる商人らしいとも言える。
 無論、そこまで真摯に謝罪されたら誰だって、つい許してしまうだろう。
 強面のラグースさんでさえ、自分が疑われていたのにも関わず、ハルツさん肩を叩いて励ましているくらいだ。

 謝罪の気持ちとしてハルツ氏から、高価そうなスカーフを二枚も頂いてしまった。
 もちろん、遠慮はしたものの……。

「それでは、僕の気持ちが晴れません。どうか、人助けだと思い受け取ってください」
 などと、言われてしまったら立場状、断りきれなかった。

 去ってゆく馬車を見送りながら、ふと気づいた。
 この村での仕事はまだ、手つかずのままだと……。
 いけない、現状に満足して危うく帰路につくところだった。

 引き受けると話してしまったのだ。白紙に戻すわけにもいかない。
 危険な場所にキィーナを連れてゆくのは忍びないが、誰かに預けたりする方がよほど心配だ。
 ただでさえ、近頃は悪魔憑きの子供を誘拐し、売り飛ばす悪人もいるという噂だ。
 よほど、信頼にたる人物でなければ、この娘を任せることなどできない。

「ふあぁ~、終わった、終わった。礼金もたんまり色つけてもらったし、一杯ひっかけるか! なぁ、神官さんよ」

 大あくびをしながら、手にした革袋をジャラジャラと鳴らすラグース氏。
 どういうわけか、私たちは飲みに誘われているようだ。

「お気持ちは有難いのですが……私たちは、これから一仕事がありますので失礼します」

「ちょっと、待ちな」

 早々に立ち去ろうとしたが、ガッと肩をつかまれ引き戻されてしまう。
 神官とは、こうも非力なのか? それとも彼の腕力が異常なのか?
 分からないまま、とりあえずラグース氏の話を聞くことにした。

「ハルツから聞いたぜ。アンタ、この村を井戸を浄化するために派遣された神官なんだって?」

「まぁ、そうなりますね……今から、私たちで山奥の何処かに潜んでいる魔物を退治することになるかもしれませんが……」

「アンタと嬢ちゃんだけでか? ククック! 正気かよ。いくら、神官でも護衛も付けないつもりかよ」

 豪快に笑い飛ばす彼に、私はムスッとした。
 私だって好きで単身乗り込もうとしているわけではない。
 この村にギルドがないから冒険者もろくにいないし、依頼をだすこともできない。
 協力を求めても、さっきのように応じてはもらえない。

「そんな顔すんなって、別に馬鹿にするつもりで笑ったわけじゃないんだ。嫌いじゃないぜ、アンタみたいな滅茶苦茶な奴は。そうだな……よしっ! 俺が協力してやる」

「いいのですか? 礼金は、大して払えないですよ?」

「んなモン、気にすんな。アンタと嬢ちゃんには、無実を証明してもらったんだ。今度、俺の番だろっ!」

 ラグース氏の好意に、思わず息を飲んでしまった。
 これが推理がもたらす奇跡の力なのか?
 待ち望んでいた助っ人は、意外なところで見つかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...