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一章 神官とケモ耳娘
8話 小麦粉はどこに?
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「そんなに、お気になさらず。差し出がましいかもしれませんが、何かお力になれればと声をかけただけですから……」
私は、両手を広げて明るく振る舞った。
行商人とは正反対に、こちらの様子を見ていた剣士の男性が「フン」と鼻をならす。
どうやら、彼は聖職者に対して良い感情を抱いていないらしい。
露骨すぎる態度に気を病んだ行商人は、剣士を無視し話を続けた。
「お気遣い、ありがとうございます。僕は、行商人のハルツと言います、彼は……」
「ラグースだ。日雇いで用心棒をしている」
「実は積み荷である小麦粉の入った袋が見当たらなくて……つい、そこのラグースさんと口論になってしまったのです。来る前に、ちゃんと袋を積んだのは確認していますし、道中で紛失しとしか考えられなくて」
「それで二人は揉めていたと?」
「恥ずかしながら……」
チラリと視線を向けた先に、軽く舌打ちする剣士がいた。
私は彼に対し無言でうなづいた。
「ああ、そうさ! ハルツと揉めていたのさ。 俺は何も悪くない。ここまで、しっかりと荷を見張っていたんだ。なのに……コイツは、俺が仕事をサボっていたと抜かしやがる。まったく、やってられんわ」
面倒くさそうに、頭部を掻きながら彼は答えた。
積んだはずの荷物がない。
そう珍しい話ではなく、大抵は確認不足や思い違いが原因である。
とはいえ……行商人のハルツ氏は、紛失の線を疑っているみたいだ。
言葉には出さないだけで、最悪、盗難にあったとまで思っているのかもしれない。
まずは、その疑念を払拭しなければならない。
「オジサン、これ、ほろ馬車だよね? こわれている様子もないし、ちゃんとした屋根もついている。途中で、荷物を落としちゃうのは、むずかしいよね」
馬車の周りをグルグルと回り歩き、キィーナがラグース氏を呼んだ。
強面の彼も物怖じしない彼女に、少し戸惑っているように見える。
「分かっているじゃないか! 嬢ちゃん。これは商業用の馬車だ、ちっとの雨風じゃビクともしないはずだ」
自信たっぷりな顔をしながらラグース氏が、ハルツ氏の間違いを指摘する。
まったく、もって同感だ。ほろ馬車には荷を囲うようなアーチ状の屋根がしっかりとついている。
これで荷が落下するのは不自然すぎる。
私は、両手を広げて明るく振る舞った。
行商人とは正反対に、こちらの様子を見ていた剣士の男性が「フン」と鼻をならす。
どうやら、彼は聖職者に対して良い感情を抱いていないらしい。
露骨すぎる態度に気を病んだ行商人は、剣士を無視し話を続けた。
「お気遣い、ありがとうございます。僕は、行商人のハルツと言います、彼は……」
「ラグースだ。日雇いで用心棒をしている」
「実は積み荷である小麦粉の入った袋が見当たらなくて……つい、そこのラグースさんと口論になってしまったのです。来る前に、ちゃんと袋を積んだのは確認していますし、道中で紛失しとしか考えられなくて」
「それで二人は揉めていたと?」
「恥ずかしながら……」
チラリと視線を向けた先に、軽く舌打ちする剣士がいた。
私は彼に対し無言でうなづいた。
「ああ、そうさ! ハルツと揉めていたのさ。 俺は何も悪くない。ここまで、しっかりと荷を見張っていたんだ。なのに……コイツは、俺が仕事をサボっていたと抜かしやがる。まったく、やってられんわ」
面倒くさそうに、頭部を掻きながら彼は答えた。
積んだはずの荷物がない。
そう珍しい話ではなく、大抵は確認不足や思い違いが原因である。
とはいえ……行商人のハルツ氏は、紛失の線を疑っているみたいだ。
言葉には出さないだけで、最悪、盗難にあったとまで思っているのかもしれない。
まずは、その疑念を払拭しなければならない。
「オジサン、これ、ほろ馬車だよね? こわれている様子もないし、ちゃんとした屋根もついている。途中で、荷物を落としちゃうのは、むずかしいよね」
馬車の周りをグルグルと回り歩き、キィーナがラグース氏を呼んだ。
強面の彼も物怖じしない彼女に、少し戸惑っているように見える。
「分かっているじゃないか! 嬢ちゃん。これは商業用の馬車だ、ちっとの雨風じゃビクともしないはずだ」
自信たっぷりな顔をしながらラグース氏が、ハルツ氏の間違いを指摘する。
まったく、もって同感だ。ほろ馬車には荷を囲うようなアーチ状の屋根がしっかりとついている。
これで荷が落下するのは不自然すぎる。
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