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一章 神官とケモ耳娘
7話 耳を澄まして
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「耳をすまして、ホラ! 聞こえてきたよ」
キィーナが先導するように、村の中を駆けだしてゆく。
走り去ろうとする、その背を追いかけてゆくと目の前に荷馬車が飛び込んできた。
「本当にちゃんと見張っていたんですか? ラグースさん」
「無論だ。ここまで一度たりとも持ち場を離れたことはない! ハルツ、お前のカン違いじゃないのか?」
馬車のそばで言い争う二人の男性がいた。
一人は、黒い鎧を装備した剣士。もう一人は帳簿を手にした行商人のような若者だった。
彼らのやり取りをキィーナは、ジッと眺めていた。
思えば、この二人は井戸の前に集まっていなかった。
私は、ハッと思い知らされた。
状況に追われ、狭い視野で物事を判断しようとしていた。
よくよく冷静に考えてみれば、村の中には様々な人々が集まっている。
誰も彼もが神官である私に興味を持つわけでもなく、ましてや村人ですらない彼らのような外部の者もいる。
可能性としては低いと、みなして無意識に除外していたけれど、この人たちなら協力を求められるかもしれない。
すがる思いではあるも、一考してみる価値はあると思う。
「何だ? 嬢ちゃん。こいつは見世物じゃないぞ、さっさと去れ」
「子供相手に大人気ないんじゃないんですか?」
「お前がそれを言うのかよ……」
剣士が呆れ顔で、行商人を見ていた。
そこに、キィーナがトタトタと小走りで近づいていく。
「オジサン、何か困っているの? 謎解きならまかせて! キィ、推理得意だから」
「ほぅ、こいつは驚いた。ちょうど困っていたところだ、自慢の推理とやら披露してもらおうじゃないか!?」
「ちょっと! ラグースさん。この娘……」
行商人の若者が剣士に耳打ちしていた。
聴こえなくても何を話しているのか容易に想像がつく。
キィーナの容姿を見て、悪魔憑きだと語っているのだろう。
そろそろ、私の出番だ。
騒ぎに発展する前に話をつけなければ……。
「すみません。ウチの子がお騒がせしたようで。私は、神官のディズと申します。失礼ですが何かトラブルに見舞われています?」
「し、神官様のご家族の方でしたか! こちらこそ、お見苦しいところ見せてしまい申し訳ありません」
手につけていた聖印の指輪を見せると、行商人の彼はかしこまってしまった。
国に認められた聖職者だけが所持することを許される指輪は、信仰心が厚い者には絶大な効力を発揮する。
キィーナが先導するように、村の中を駆けだしてゆく。
走り去ろうとする、その背を追いかけてゆくと目の前に荷馬車が飛び込んできた。
「本当にちゃんと見張っていたんですか? ラグースさん」
「無論だ。ここまで一度たりとも持ち場を離れたことはない! ハルツ、お前のカン違いじゃないのか?」
馬車のそばで言い争う二人の男性がいた。
一人は、黒い鎧を装備した剣士。もう一人は帳簿を手にした行商人のような若者だった。
彼らのやり取りをキィーナは、ジッと眺めていた。
思えば、この二人は井戸の前に集まっていなかった。
私は、ハッと思い知らされた。
状況に追われ、狭い視野で物事を判断しようとしていた。
よくよく冷静に考えてみれば、村の中には様々な人々が集まっている。
誰も彼もが神官である私に興味を持つわけでもなく、ましてや村人ですらない彼らのような外部の者もいる。
可能性としては低いと、みなして無意識に除外していたけれど、この人たちなら協力を求められるかもしれない。
すがる思いではあるも、一考してみる価値はあると思う。
「何だ? 嬢ちゃん。こいつは見世物じゃないぞ、さっさと去れ」
「子供相手に大人気ないんじゃないんですか?」
「お前がそれを言うのかよ……」
剣士が呆れ顔で、行商人を見ていた。
そこに、キィーナがトタトタと小走りで近づいていく。
「オジサン、何か困っているの? 謎解きならまかせて! キィ、推理得意だから」
「ほぅ、こいつは驚いた。ちょうど困っていたところだ、自慢の推理とやら披露してもらおうじゃないか!?」
「ちょっと! ラグースさん。この娘……」
行商人の若者が剣士に耳打ちしていた。
聴こえなくても何を話しているのか容易に想像がつく。
キィーナの容姿を見て、悪魔憑きだと語っているのだろう。
そろそろ、私の出番だ。
騒ぎに発展する前に話をつけなければ……。
「すみません。ウチの子がお騒がせしたようで。私は、神官のディズと申します。失礼ですが何かトラブルに見舞われています?」
「し、神官様のご家族の方でしたか! こちらこそ、お見苦しいところ見せてしまい申し訳ありません」
手につけていた聖印の指輪を見せると、行商人の彼はかしこまってしまった。
国に認められた聖職者だけが所持することを許される指輪は、信仰心が厚い者には絶大な効力を発揮する。
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