追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
7 / 64
一章 神官とケモ耳娘

6話 堂々魔

しおりを挟む
 難色を示す村人の態度に、私は苛立ちを覚えていた。
 以前なら、村がどうなろうとも知らないと依頼を破棄するレベルの酷さだ。
 今はキィーナがいるから、かろうじて耐えている。
 だが、魔物を退治するとなると本当に護衛が必要不可欠だ。

「誰も、協力して下さる方は居ないようですね。一応、調査のほうは継続しますが期待はしないでください、私は魔物退治のではないので」

「誠に申し訳ございません、神官様。なにぶん村として成り立ったのは、つい最近。皆、ここに永住するのか、決めかねているのです」

 村長の言い分は、分からなくもない。
 この村には物資も充分に確保できていない上、本格的な開拓はこれからだ。
 村の者たちが、汗水を流し動いていかないことには発展の目途はたたない。
 現状、安定していないこの村を誰が危険を冒してまで守ろうというのか?
 こう考えれば、納得もいく。
 ただし、理解はできない……。

 楽して得たモノに果たしてどれほど価値があるのか、疑問の天秤にかける意味もない。
 価値など見いだせるわけもない。
 価値は、苦の代価だ。
 夢や希望は、困難だからこそ叶えたいと、誰しも強く想う。
 彼らは無駄と努力を同一視してしまっている。
 だからこそ、面倒事で片づけてしまうんだ。

 これが、英雄の冒険譚なら勇敢なる剣士がタイミング良く名乗りを上げてくれたのかもしれない。
 でも、現実はそう都合良くは出来ていない、欠陥だらけだ。

「ディ、こんな時こそ推理だよ」途方に暮れる私の腕をつかみ、キィーナが進言した。

「推理って何を――――」そう言いかけた私だったが、ふと昔読んだ探偵小説を思い出した。
 内容こそ、ありきたりな一般ウケを狙った作品だった。
 トリックの設定の奇抜さもなく、犯行動機も当たり障りのないもの。
 ただの凡作でしかなかったが、一点だけ刺さるモノがあった。
 それは、探偵である主人公の台詞だった。

『推理とは、事実から答え導き出すものである。そこに時間軸は存在しない、推理のことわりを用いれば過去だけはなく未来すら見えてくる』

 キィーナは、時間があれば、よく読書をしていた。
 今、思い返すとアレはすべて私が愛読して探偵小説だった。
 彼女は、その内容をしっかりと覚えていた。
 だからこそ、私に伝わるカタチでと表現したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...