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一章 神官とケモ耳娘

4話 依頼

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 手紙を持つ私の指先が震えていた。
 読んだそばから不快感を覚える……その内容は明らかに脅しを臭わせていた。
 キィーナが三か月後の認定試験を受けるためには、どうやら教会の推薦状が必要らしい。
 こんな厄介事を持ち掛けてくるのは、私を追放した教会のお偉方だ。
 彼女が悪魔憑きだと知っていて、わざわざ自分たちに恩を売っておけと遠巻きに忠告してきたのだ。

 これは聖職者としての責務だ。
 断じて聖女として依頼されたからではない。
 私も、もう子供ではない。
 いくら、しゃくに触ろうとも、私情と役目のぐらいはできている。
 
「キィーナ、出かけるよ」と早速、うながす。

 ログワーク経由でやってきた依頼を果たすためにわざわざ、数キロ先の開拓村まで歩いて行かなければならない。
 こんな面倒な仕事、放棄してやりたいと思いもする。
 けれど、こればかりは私にしかできない仕事なのだ。
 キィーナの件の有無に関わらず、嫌だと駄々をこねれば、最悪、大勢の民の命を脅かす可能性がある。
 
 たとえ目覚めの悪い話でも、事実だから否定はできない。
 もっとも、その事を知っているのは教会でも一部の人間だけだ。
 世に真実が明かされてしまえば、民衆が大パニックを起こすのは容易に想像できる。

「わぁあ~、お日様の匂いがする」

 数週間ぶりの地上は灼熱の地獄と化していた……これだから、引きこもりは止められない。
 親の苦悩を知ってか、知らずか、久しぶりの、おでかけにキィーナは上機嫌だ。
 炎天下の中、元気一杯に蝶々を追いかける姿は見ていて微笑ましいのか? ハッキリ言って微妙なところだ。

 スカートの裾部分に青いラインの入った、クリーム地の半そでワンピース。
 ツバの広い日よけ帽子。
 彼女の装いを見ながら、涼しそうだと羨ましがる私がいる。
 それらを用意したのは他の誰でもない自分のはずなのだが……。
 そう思えてしまうほど、官服の風通しの悪さに滅入っていた。

 徒歩で一時間、ようやく目的地であるクザの開拓村が見えてきた。

 悪魔憑きのことは問題ないかと問われれば、抜かりはない。
 ここの村の連中とは、すでに面識があり、私とキィーナのことも知っている。
 私がいる限り、彼女を悪魔憑きと非難する者は誰一人としていない。
 もし、そんな輩がいたら即刻で村八分に処されてしまうだろう。

 彼らには前回、訪問した際に充分叩き込んでやった。
 キィーナが悪魔憑きではないことと、私を聖女扱いしてはいけないという二つの鉄則。
 決してパワハラではなく神様の有難い教えにより、ようやく村人たちは一致団結した。

 だだし、他所の土地から来たわけありの者も多い。
 一癖も二癖もある人柄には注意が必要だ。
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