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一章 神官とケモ耳娘

3話 聖女とは呼ばせない

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「それで、どうしてキィーナが手紙を持っているの?」

 人一倍、感受性が高いキィーナは、他者の気持ちをすぐに悟ってしまう。
 互いに気分を落ち着かせるために、私たちは応接間へと移動した。

 ソファーにちょこんと座り、キィーナは膝上に手紙を置く。
 テーブルにココアが入ったカップを並べながら、私は事情を尋ねた。

「認定シケンを受けたいって、ログワークに手紙を送ったの。キィ……探偵になりたい。ディも言っていたよね、将来の夢は持ったほうがいいって」

 あどけない表情でキィーナは答えた。
 思いもしなかった言葉に頭を殴られたような衝撃が走っていた。
 覚えはある、確かに私はこの娘にそう教えた。
 将来を見据えて、やりたいことを見つけたほうが良いよと、人生の先輩としてアドバイスした。
 すぐに、それを決めたことにも驚いたけれど、探偵を希望するとは想像もしていなかった。
 そして、それがどれほど高い壁なのか。キィーナは知らない。

「キィーナ、封を開けてごらん。おそらく、認定試験の開催される日時や場所が記されていると思うよ」

 彼女はすぐに封を切り便せんを取り出した。
 二人で確認してみると、やはり試験ついての概要が記載されている。
 キィーナが認定試験を受けるためには都にあるログワークの本部まで行く必要がある。
 ここから都まで、馬車で丸二日かかるが行けない距離ではない。
 残された問題は、彼女が悪魔憑きであることをどう隠すのかという点だ。
 下手を打って即刻バレてしまったら、試験どころではない。
 最悪、警官に捕まってしまう可能性もある。

「ん? もう一枚、重なっているな。どれどれ……こ、これは」

 二枚目に記されていた文書を食い入るように見つめ、私は絶句した。
 ようやく、ここでキィーナがコソコソしていた理由が判明した。

「私の名前を使ったのかい? それはダメだよって前々から言っていたよね?」

「ディ……笑顔が怖い」

 手にしたカップをソーサーの上で震わせて、彼女は目に涙を浮かべていた。
 泣き脅したところで、私は甘ちゃんではない。
 罰として、あとで礼拝堂の掃除でも手伝わせよう。

 手にした便せんに再度、目をむけ頭を抱えた。
 二枚目というより二通目だ、これは……。
 なぜなら、手紙の内容が私に向けられたものだったからだ。
 拝啓、聖女様の文言だけで虫唾が走りそうなる。

 私は神官だ、決して聖女などではない。
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