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開幕 ディズ・ジーニス

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 カァン! カァン! 木槌の音が法廷に響く。

静粛せいしゅくに。これより開廷といたします。被告人は証言台に移動し着席してください」

 裁判官に従い、私は稲穂のように首をたれながら歩いてゆく。

「被告人、名乗りなさい」

「ディズ・ジーニスです」

 その日の傍聴席は満員御礼だった。
 百人以上は入る、そこは人で埋め尽くされていた。
 不適切な表現だとしても、私にはそうとしか思えない。
 彼らは、この異端神官の末路を見届けようとしているのだ。
 好機の目にさらされるコチラの気持ちも考えてほしいものだ。

 周囲の雑音を拾いながら、吐息をはく。
 さすがに精神的に堪えるものもあるが、まだ抗う気力は残されている。

「被告人、ディズ・ジーニスの罪状を読み上げる。被告人は一昨日未明、ラスラ侯爵の屋敷に忍び込み、金品を物色、その際に侯爵と遭遇し襲撃した模様。なお、ラスラ侯爵の意識を未だ、昏睡状態、よって検察は、被告人ディズの事件について住居不法侵入罪および強盗致傷罪を申し立てます! 裁判長、審議ほど、お願いいたします」

 検察官が声高らかに起訴状を朗読する。
 眼鏡をかけた、いかにも聡明そうな女性で、年齢も私と大差ない二十代前後といった感じだ。
 検察側から罪状を言い渡され、自身が深刻な立場に追い詰められていることを、より強く実感した。

 状況証拠的には明らかに不利だった。
 真犯人の罠にまんまと引っかかってしまった私に情状酌量の余地すら与えないと司法は意気込んでいる。
 何せ、私は聖職者でありながら教会からうとまれている人間だ。
 この機会に世間から抹消しようというのが、連中の本音だろう。

 黙秘権の告知を受けるながらも、不安がブワッとこみ上げてきた。
 今更ながらと自分でも情けなく思うが、ここで尻込みするわけにもいかない。

「大丈夫だよ、ディ」

 こちらの心情を察してか、隣で座る彼女が優しく手を握ってくれた。
 わざわざ私のために、身を粉にしてまで弁護人を務めてくれる。
 その小さな手から伝わる温もりが、再度、困難に立ち向かうための勇気を与えてくれる。
 
 彼女の握り返し私は決意した。
 ここままでは終われない……。
 この小さな探偵の努力とひたむきな思いを壊すわけにはいかない。
 必ず、この法廷で自身の潔白を証明して勝ってみせる。
 必要な証拠は、ここ数日ですべて揃えてきた。
 あとは、弁護人であるケモ耳の探偵が上手くやってくれるはずだ。
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