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一章 神官とケモ耳娘

1話 宛先のない手紙

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 少し前の話をしよう。

 えっ? と思われるかもしれない。

 けれど、すぐに本を閉じないで欲しい。

 これは私と彼女の物語。
 君に語る、我々の歩み。

 希薄きはくな感情しか、持てなかった彼女が多く人々と出会い、学ぶ成長の記録。
 事件を解決するために、謎解きに挑む小さな探偵の冒険譚ぼうけんたん

 たわいもない思い出話だが、少しだけ付き合ってくれ。

 *

 ことの始まりは、一通の手紙から始まった。
 都から、この片田舎に遠路はるばる送られてきた、それには宛先がなかった。
 誰に送られてきたのかも分からない手紙が、どういうわけか私の手元にある。
 実に不可解な現象だが、これも神のおぼし召しと、とらえておくことにしよう。

 私、ことディズは不肖ながらも神官を務める身である。
 迷える人々の、よりどころでもある村のはずれの教会で、静かに祈りをささげながら日々、過ごしている。
 世俗から遠のき退屈ではないかと、人々から問われることもあるが、案外そうでもない。
 時折、こうしたカタチで不思議が届くことがある。

 私は大のミステリーマニアだった。
 幼い時分から、多くのミステリー小説を読みあさってきた。
 そのせいか、本の中の名探偵たちに憧れ、一時は本気で探偵になろうとした。
 けれど、いつしか興味は薄れ、意識はべつのものに向いてしまった。
 探偵という仕事は現実的ではない。
 そう自分に、嘘をついてきた。
 でも、本当は誰よりも分かっていた、自分には推理才能がないということを。

 ――話を戻そう。
 今朝がた届いたこの手紙。
 荒々しく、教会のポストに押し込まれていたものだ。
 四つ葉のクローバーと王冠をかたどったシーリングスタンプが特徴的な茶封筒。
 どうして、我が教会にこのようなものが送られてきたのか? には覚えがない。
 唯一、知っていることは、これがログワーク推理協会から送付された依頼書であることぐらいか。

 宛先がないので、誰に送られたものなのかも分からない。
 送る相手を間違えたのではないかと疑いもした。
 ……が相手は、この国でも名高いログワークという団体だ。
 洒落しゃれこんで、あえて無記載で手紙を届けたのかもしれない。
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