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三百二十八話
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「あっ……ギデ殿!」
城内に入ろうとするギデオンを出迎えたのは、ガリュウではなくコハクだった。
妹であるアゲットではなく、彼がここにいるということは既に配置替えを行ったことになる。
「何があったんだ?」
察しの良いギデオンはすぐに違和感を覚えた。
人の気配がまったくもってない……これほどに規模を持つ城にとっては考えられないことだ。
「はい、大元先生がお待ちです。医務室にて皆、治療を受けておりますです」
どうしてコハクが大元導士を満願に連れてこられたのか?
それは、ひとえにトクシャカ様の計らいによるものである。
東軍の動きを事前に察知していた彼女は、南のみならず北の都邑、閑泉の危機もギデオンたちに伝えていた。
フキ姫の付き人にアゲット。
ランドルフたち北軍には、コハクが同行するカタチとなった。
トクシャカ様がそうしたのも、このような事態が見えていたからだろう。
皆が治療を受けているということは、すでにクドが暴れた後ということになる。
よく持ちこたえたものだと言うべきだが、ギデオンはそこまで冷静にはなれなかった。
当然、フキ姫たちの安否が気がかりだ。
それに加え顔見知りの犯行、どうにかできるわけでもなかったが、あの時にパスバインやフキ姫たちについてゆくべきだった。
わずかな、読み違えがニアミスを産んでしまった、そう思うとギデオンは心穏やかではいられない。
「先生、ギデ殿を連れて参りました!」
コハクがドアを開けると、中は薬品の臭いが立ち込めていた。
声を聞きつけ部屋の奥の暗幕の中から大元が姿を見せた。
「先生、皆は無事ですか!?」
「ああ、軽傷ではないが無事だよ。ガリュウ守護代を除いてはね……」
目元に隈を作ったその顔は疲弊しきっていた。
ガリュウが討たれたこともショックではあるが……大元のそれは、北の現状を告げるものでもあった。
北域内での大規模な徴兵や西の蓬莱渠から援軍を送ってもらったことで北の兵数は10万ほどに増加したはず、なのに大元導士には余裕が見られない。
戦況はあまり芳しくなさそうだ。
「彼の処置は終わっている、こっちに来たまえ」
大元が隣の部屋を指さした。
そのあとに続き、部屋に入ると全身、敷布でくるまれた遺体が安置されていた。
顔をにかけられた布を取り外し大元が呟く。
「彼がガリュウだ。私が駆けつけた時はすでに手遅れだった……ヒドイ有り様だよ」
目蓋を閉じたガリュウの顔は綺麗に洗浄され死化粧が施されていた。
本当に遺体なのか、疑いたくなるほど活き活きとした肌の色つやだ。
「ギデ君、城の兵士たちにガリュウの死を告げないと、じきに戦後処理を終わらせ、ここに戻ってくるはずだ」
「いや、公表するのはヘイガンが戻ってきてからにしましょう。僕たちよそ者ではなく、南の代表者であるアイツが言わなければ誰もなっとくいかないだろうし。それに……城の中がもの抜け空だというも異常すぎる。おそらく犠牲者は他に大勢いるはずです」
「そうか、君がそういうのなら、そうした方が良いのだろう」
二人で話し合い、一先ずガリュウの亡骸はこの部屋に隠すこととなった。
とはいえ、ギデオンの想像通り消失した人間がいるとすれば戻ってきた兵士たちは血眼になって探すだろう。
だとしても、この城が攻められ君主が命を落としたと知った時の方が、彼らの失意と絶望は半端ないものとなるだろう。それに、主不在の逆座を乗っ取ろうする輩もいないとは言い切れない。
何事も万全を期して然るべきタイミングで行わなければならない。
それほどまでに、デリケートな問題である。
「ガリュウのことは分かりました、それで他の皆はどうなったのです? カナ……フキ姫とパスバインがいたはずです」
「彼女、パスバインは治療を終えているよ。軽傷ではないから、完治にはもう少しかかるがね……。フキ姫の方が問題だ、命こそ取り留めているが呪術をかけられている。解かなければ、徐々に生命力を奪われて衰弱して死に至るという厄介なものだ」
「クドの奴……僕を逃さないために、ここまで布石を打っていたのか?」
「相手に心当たりがあるのかい!?」
唇を噛みしめるギデオン。呪いを解くには術者を倒せばいい。
相手が特定できているのは、術をかけられた者を救える可能性が格段に上がる。
これはクドからの挑戦状だ。カナッペを救いたいのなら、俺を追って来いと誘っている。
「その話、俺にも聞かせてくれや」
城内に入ろうとするギデオンを出迎えたのは、ガリュウではなくコハクだった。
妹であるアゲットではなく、彼がここにいるということは既に配置替えを行ったことになる。
「何があったんだ?」
察しの良いギデオンはすぐに違和感を覚えた。
人の気配がまったくもってない……これほどに規模を持つ城にとっては考えられないことだ。
「はい、大元先生がお待ちです。医務室にて皆、治療を受けておりますです」
どうしてコハクが大元導士を満願に連れてこられたのか?
それは、ひとえにトクシャカ様の計らいによるものである。
東軍の動きを事前に察知していた彼女は、南のみならず北の都邑、閑泉の危機もギデオンたちに伝えていた。
フキ姫の付き人にアゲット。
ランドルフたち北軍には、コハクが同行するカタチとなった。
トクシャカ様がそうしたのも、このような事態が見えていたからだろう。
皆が治療を受けているということは、すでにクドが暴れた後ということになる。
よく持ちこたえたものだと言うべきだが、ギデオンはそこまで冷静にはなれなかった。
当然、フキ姫たちの安否が気がかりだ。
それに加え顔見知りの犯行、どうにかできるわけでもなかったが、あの時にパスバインやフキ姫たちについてゆくべきだった。
わずかな、読み違えがニアミスを産んでしまった、そう思うとギデオンは心穏やかではいられない。
「先生、ギデ殿を連れて参りました!」
コハクがドアを開けると、中は薬品の臭いが立ち込めていた。
声を聞きつけ部屋の奥の暗幕の中から大元が姿を見せた。
「先生、皆は無事ですか!?」
「ああ、軽傷ではないが無事だよ。ガリュウ守護代を除いてはね……」
目元に隈を作ったその顔は疲弊しきっていた。
ガリュウが討たれたこともショックではあるが……大元のそれは、北の現状を告げるものでもあった。
北域内での大規模な徴兵や西の蓬莱渠から援軍を送ってもらったことで北の兵数は10万ほどに増加したはず、なのに大元導士には余裕が見られない。
戦況はあまり芳しくなさそうだ。
「彼の処置は終わっている、こっちに来たまえ」
大元が隣の部屋を指さした。
そのあとに続き、部屋に入ると全身、敷布でくるまれた遺体が安置されていた。
顔をにかけられた布を取り外し大元が呟く。
「彼がガリュウだ。私が駆けつけた時はすでに手遅れだった……ヒドイ有り様だよ」
目蓋を閉じたガリュウの顔は綺麗に洗浄され死化粧が施されていた。
本当に遺体なのか、疑いたくなるほど活き活きとした肌の色つやだ。
「ギデ君、城の兵士たちにガリュウの死を告げないと、じきに戦後処理を終わらせ、ここに戻ってくるはずだ」
「いや、公表するのはヘイガンが戻ってきてからにしましょう。僕たちよそ者ではなく、南の代表者であるアイツが言わなければ誰もなっとくいかないだろうし。それに……城の中がもの抜け空だというも異常すぎる。おそらく犠牲者は他に大勢いるはずです」
「そうか、君がそういうのなら、そうした方が良いのだろう」
二人で話し合い、一先ずガリュウの亡骸はこの部屋に隠すこととなった。
とはいえ、ギデオンの想像通り消失した人間がいるとすれば戻ってきた兵士たちは血眼になって探すだろう。
だとしても、この城が攻められ君主が命を落としたと知った時の方が、彼らの失意と絶望は半端ないものとなるだろう。それに、主不在の逆座を乗っ取ろうする輩もいないとは言い切れない。
何事も万全を期して然るべきタイミングで行わなければならない。
それほどまでに、デリケートな問題である。
「ガリュウのことは分かりました、それで他の皆はどうなったのです? カナ……フキ姫とパスバインがいたはずです」
「彼女、パスバインは治療を終えているよ。軽傷ではないから、完治にはもう少しかかるがね……。フキ姫の方が問題だ、命こそ取り留めているが呪術をかけられている。解かなければ、徐々に生命力を奪われて衰弱して死に至るという厄介なものだ」
「クドの奴……僕を逃さないために、ここまで布石を打っていたのか?」
「相手に心当たりがあるのかい!?」
唇を噛みしめるギデオン。呪いを解くには術者を倒せばいい。
相手が特定できているのは、術をかけられた者を救える可能性が格段に上がる。
これはクドからの挑戦状だ。カナッペを救いたいのなら、俺を追って来いと誘っている。
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