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三百二十四話
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「ほえぇえええ――――い!!」
緩慢な動きで、ダガーを振り回す。
その姿に、ギデオンも絶句していた……。
弱い、弱いといいながらも実は隠された能力を持っているのか!?
そう、思って警戒していたのに的外れもいいトコロだ。
ヒューズはとことん弱かった、ギデオンが知る限りダントツの弱さだ。
何かがあったわけでもないのに、振ったナイフは手元からすっぽ抜けて近くにあった木の幹に突き刺さっていた。
「ほら、言ったじゃないですか! 俺が戦っても時間は稼げないって」
「ウルサイ。踊りの邪魔だから、アイツの身体に飛びつけ、そして撃たれろ!」
「うわあっ……酷っ! そういうの何て言うか知ってます。ロリータハラスメントって言うんですよ! 略してロリハラ!」
「なんだか知らんけど、うちを侮辱していないか、お前?」
「いや……そんなこと、あわわわっ!」
ギデオンの蹴りが空を切る。
慌てたヒューズは仰け反りながら、地面に倒れ後頭部を強打した。
「アイタタアアアア――――――!!! 死んじゃう、死んじゃうから!!」
見事なまでに自爆をキメて地面を転がり回る。
無様な仲間の姿にチルルも冷めたような表情を浮かべて舞い踊る。
「なぁ、どうしてアイツを仲間にしているんだ?」
「クドが決めたことだ。面白いからだそうだ……あと、逃げ足だけは異常に速い」
ヒューズが大騒ぎしている中で、ようやくチルルの準備が整ったようだ。
腰元をクネらせつつも軽やかに飛び跳ねて、不規則なリズムを刻む。
徐々に加速してゆくのと同時に、チルルの右膝がギデオンの顔の前に飛んできた。
避けるのではなく、拳を作りガードする。
膝と拳が交わりドンと重い音が響いたが両者ともに、変わりはない。
そこから逆足のカカトを落とすが、再度ギデオンの拳がそれを防いだ。
その直後、チルルは眼を見開いた。
コメカミに銃口が突きつけられると発砲音が周囲に飛び交う。
オートで射撃されたことに、驚きつつもチルルは尋常ではない素早い動作で銃口に噛みつき狙いを逸らした。
空かさず、反撃の蹴り上げがギデオンの肩を直撃した。
数歩ほど後退しながらも、彼は純白のライフルを手にし分裂する銃弾を撃ち込んでみせた。
「よく分からないけど避けるの面倒臭い、タンバールカット」
身につけた羽衣を一振りすると鈴の音色が超振動波となりハーティの銃弾をすべて粉々に粉砕した。
「魔道具か? 厄介なモノを持っている。その上、獣のような素早さだ」
「くぅうう―――――耳がキンキンする! オマエ、目が良いな。チルルの動きを追える奴は、そうそういない」
「そろそろ、速度を上げてもいいか? アンタもまだ、全然本気ではないんだろう?」
「うちは戦いには興味ない。オマエに合わせる気もない……ただ、満願の兵を引き寄せ減らすのが目的だ」
その言葉にギデオンは後方を振り向いた。
満願の正門が開かれ、その中から騎龍に跨った数万の兵士たちが続々と溢れ出てくる。
間に合った……しかし、それは正しい選択なのか?
ギデオンの額から汗がしたたり落ちる。
今の、敵将の口ぶりだとガリュウ軍が陽動させられていることになる。
いくら街中の警備が強固だとはいえ、クドの居場所が分からない以上、都を開けるのは危うい気がしてならない。
ハンターとしての直感が働いていた。
しかしながら、その予感は予期せぬ方向へと向けられることとなる。
「伏兵を動かすぞ! 全軍に伝達しろ!!」
いつの間にか、ヒューズが兵士たちに命を出していた。
今まで、その存在に気づかなかったことは……ギデオンにとって信じられないことだった。
満願の周囲から砲撃の轟音が鳴り響く。
それを皮切りに、どこからともなく東の大軍が押し寄せてきた。
砲撃により都は破壊され、空に黒煙が立ち昇っていた。
ここからでは、詳細をうかがい知ることはできないが全体的に満願が集中砲火を受けているようだ。
出陣した騎兵部隊の先頭に軍は左右に散開してゆく。
街道方面にも歩兵の一団が駆けつけてきたが、道中で左右から敵軍の挟撃を受け、すぐに身動きが取れなくなってしまった。
「ツミだな。知略とは、入念な準備に準備を重ねた上で行われるものだ。その場しのぎの対応しかできないガリュウ軍では、程度が知れているわ! ガハハハハッ」
腰に両手をあて得意気に豪語するヒューズを狙い、投擲斧が飛来してきた。
チルルが、タンバールカットで弾き返すと、斧は投げつけてきた本人の足下へ落ちた。
「あひゃ、ひぃぃぃぃ!! こんな物騒なモノを誰が―――――」
「ずいぶんと舐めた真似をしよってからに!! この六鬼衆たる獏王が貴様らの首を貰い受けに来たぞ! んあ?」
満を持して参上した獏王だったが、傍にいたギデオンを見て思わず目を丸くしていた。
「お主、見たところ敵兵ではないようだが、どこかで会ったことはないか?」
そう呟く彼は少し前に、ギデオンが足蹴にした南の将であった。
「いや、知らないな?」当人は覚えてすらいなかった。
緩慢な動きで、ダガーを振り回す。
その姿に、ギデオンも絶句していた……。
弱い、弱いといいながらも実は隠された能力を持っているのか!?
そう、思って警戒していたのに的外れもいいトコロだ。
ヒューズはとことん弱かった、ギデオンが知る限りダントツの弱さだ。
何かがあったわけでもないのに、振ったナイフは手元からすっぽ抜けて近くにあった木の幹に突き刺さっていた。
「ほら、言ったじゃないですか! 俺が戦っても時間は稼げないって」
「ウルサイ。踊りの邪魔だから、アイツの身体に飛びつけ、そして撃たれろ!」
「うわあっ……酷っ! そういうの何て言うか知ってます。ロリータハラスメントって言うんですよ! 略してロリハラ!」
「なんだか知らんけど、うちを侮辱していないか、お前?」
「いや……そんなこと、あわわわっ!」
ギデオンの蹴りが空を切る。
慌てたヒューズは仰け反りながら、地面に倒れ後頭部を強打した。
「アイタタアアアア――――――!!! 死んじゃう、死んじゃうから!!」
見事なまでに自爆をキメて地面を転がり回る。
無様な仲間の姿にチルルも冷めたような表情を浮かべて舞い踊る。
「なぁ、どうしてアイツを仲間にしているんだ?」
「クドが決めたことだ。面白いからだそうだ……あと、逃げ足だけは異常に速い」
ヒューズが大騒ぎしている中で、ようやくチルルの準備が整ったようだ。
腰元をクネらせつつも軽やかに飛び跳ねて、不規則なリズムを刻む。
徐々に加速してゆくのと同時に、チルルの右膝がギデオンの顔の前に飛んできた。
避けるのではなく、拳を作りガードする。
膝と拳が交わりドンと重い音が響いたが両者ともに、変わりはない。
そこから逆足のカカトを落とすが、再度ギデオンの拳がそれを防いだ。
その直後、チルルは眼を見開いた。
コメカミに銃口が突きつけられると発砲音が周囲に飛び交う。
オートで射撃されたことに、驚きつつもチルルは尋常ではない素早い動作で銃口に噛みつき狙いを逸らした。
空かさず、反撃の蹴り上げがギデオンの肩を直撃した。
数歩ほど後退しながらも、彼は純白のライフルを手にし分裂する銃弾を撃ち込んでみせた。
「よく分からないけど避けるの面倒臭い、タンバールカット」
身につけた羽衣を一振りすると鈴の音色が超振動波となりハーティの銃弾をすべて粉々に粉砕した。
「魔道具か? 厄介なモノを持っている。その上、獣のような素早さだ」
「くぅうう―――――耳がキンキンする! オマエ、目が良いな。チルルの動きを追える奴は、そうそういない」
「そろそろ、速度を上げてもいいか? アンタもまだ、全然本気ではないんだろう?」
「うちは戦いには興味ない。オマエに合わせる気もない……ただ、満願の兵を引き寄せ減らすのが目的だ」
その言葉にギデオンは後方を振り向いた。
満願の正門が開かれ、その中から騎龍に跨った数万の兵士たちが続々と溢れ出てくる。
間に合った……しかし、それは正しい選択なのか?
ギデオンの額から汗がしたたり落ちる。
今の、敵将の口ぶりだとガリュウ軍が陽動させられていることになる。
いくら街中の警備が強固だとはいえ、クドの居場所が分からない以上、都を開けるのは危うい気がしてならない。
ハンターとしての直感が働いていた。
しかしながら、その予感は予期せぬ方向へと向けられることとなる。
「伏兵を動かすぞ! 全軍に伝達しろ!!」
いつの間にか、ヒューズが兵士たちに命を出していた。
今まで、その存在に気づかなかったことは……ギデオンにとって信じられないことだった。
満願の周囲から砲撃の轟音が鳴り響く。
それを皮切りに、どこからともなく東の大軍が押し寄せてきた。
砲撃により都は破壊され、空に黒煙が立ち昇っていた。
ここからでは、詳細をうかがい知ることはできないが全体的に満願が集中砲火を受けているようだ。
出陣した騎兵部隊の先頭に軍は左右に散開してゆく。
街道方面にも歩兵の一団が駆けつけてきたが、道中で左右から敵軍の挟撃を受け、すぐに身動きが取れなくなってしまった。
「ツミだな。知略とは、入念な準備に準備を重ねた上で行われるものだ。その場しのぎの対応しかできないガリュウ軍では、程度が知れているわ! ガハハハハッ」
腰に両手をあて得意気に豪語するヒューズを狙い、投擲斧が飛来してきた。
チルルが、タンバールカットで弾き返すと、斧は投げつけてきた本人の足下へ落ちた。
「あひゃ、ひぃぃぃぃ!! こんな物騒なモノを誰が―――――」
「ずいぶんと舐めた真似をしよってからに!! この六鬼衆たる獏王が貴様らの首を貰い受けに来たぞ! んあ?」
満を持して参上した獏王だったが、傍にいたギデオンを見て思わず目を丸くしていた。
「お主、見たところ敵兵ではないようだが、どこかで会ったことはないか?」
そう呟く彼は少し前に、ギデオンが足蹴にした南の将であった。
「いや、知らないな?」当人は覚えてすらいなかった。
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