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三百二十三話
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クドの魔の手がガリュウの城を震撼させていた、その頃……。
満願の都を背にした、もう一つの戦いが街道にて繰り広げられていた。
南軍の援護にかけつけたギデオンとクドの部下であるチルルとヒューズ――――
そして、彼らの後続に控えた、およそ三万もの兵士。
さしもギデオンも勝算は見えずにいた。未だかつてない大群を一斉に相手しなければならないとなると、ガリュウ軍をアテにしなければならない。
時間との戦いでもあるが、ここを退くことはできない。
ヘイガンたち、遠征組が戻ってくることを期待するにしても、まだまだ時間がかかるだろう。
「おい! オマエ、まさかこの人数を相手に単独で戦うつもりか?」
「だったら、なんだ? こっちには魔獣と聖獣がいる。僕だけだと侮ると痛い目を見るぞ」
ギデオンを凝視しながら、チルルは何か、考えを巡らせているようだった。
しばらく、沈黙が続く中で救いを得たヒューズが強気になり、兵士たちに命じる。
「奴を殺さず生け捕りにしろ! これはクド将軍からの命令だ。捕らえた者には、金一封を授けるぞ!」
東軍の兵士たちは、指示された通りギデオンに詰め寄ろうと移動する。
誰一人として士気は高くないものの、動きは機敏で無駄がない。
まるで、機械人形のようだ。人間であるのにも関わらず、エイル以上に自由意思を感じない。
「何を勝手に命じているんだ? 馬鹿、ヒューズ!!」
「えっ? でも、クドの命令ですぜ。チルルの姉御」
横目で睨みを利かせるホビットの少女に、ヒューズが顔色を青くし狼狽え始めた。
外見とは真逆の立場。年下のチルルに対して大人であるヒューズの方が彼女のご機嫌を伺っているような関係だった。
「無しナシ! 今の命令は取り消しだ。 チルル様の命令が下るまで全員、その場で待機せよ!」
両手を広げながら、叫ぶヒューズを尻目にチルルが前へ出てきた。
首元のチョーカーにぶら下がる鈴と肩にかけた羽衣の鈴たちをガシャガシャと鳴らしながら、愛想なき顔でギデオンの手前までやって来た。
「その無謀さ、気に入ったぞ! さすが、クドが欲しがる人材だ」
「クド……アンタもアイツの関係者か? なら、聞きたいことがある」
「質問は受け付けないが、我々は数年前までは傭兵団として活動していた。いまはドルゲニア公国の王の下で、軍人のような事をしている」
「なぜ、そんなことを……? アイツほどの実力があれば、個人でもやっていけるはずだろう?」
「…………クドは、そうは思わなかったみたいだ。すべては理想を実現する為、その為にはどんなことでもやる。クドとは、そういう男だ」
スッと右腕をあげて、チルルがステップを踏む。
急に踊り出す少女に、ギデオンは毒気を抜かれてしまいそうになるも、身体は銃化したスコルを手にしてトリガーを引いていた。
ギュ――ン! 魔法弾が空を切りチルルの真横を通り過ぎた。
「のわぁ! いきなり何をする!? チルルは踊っているだけだぞ!」
「あっ…………そりゃなぁ。巧妙に殺気を隠していたら、何となく撃つだろう?」
「こ、コイツ――――なんとなくで撃つな!!」
怒りをあらわにし、地団太を踏むチルル。
こうしていると普通の少女にしか見えないが、ギデオンが感知した通り、踊れば踊るほど彼女の力は増大してゆく。
ただし、車輪と同じくペダルを踏み続けなければ、自然と元の状態に戻ってゆく。
カイとの戦いから、かなり時間が経過していた。
ここで助走をつけておきたいチルルではあるが、ギデオンは依然として銃口を下げようとはしない。
「ヒューズ、お前が時間を稼げ!」
「うぇぇええええっ!? 自慢じゃないですけど、俺なんかじゃ瞬殺ですよ。だったら、兵を動かしましょうよ!」
「ダメだ。思っていたよりもミューティスたちが苦戦している……それにオレノアの方でも怪しい動きをあるらしい……」
「はぇ~、あの共和国の? にしてもオルドレールの奴は何をしているんですかねぇ~。あのデカブツ、ちっとも役に立っていないじゃないの」
「お前よりは使える。それに、第二王子たちの軍勢が戻ってきた時のことも想定しなければならない」
「ったく、我々は損な役回りですなぁー」
愚痴をこぼしながらもヒューズは鞘からダガーナイフを引き抜いた。
トボトボと背を丸めたまま歩いてくる、その姿に覇気はなく闘気も微弱にしか流れていない。
話し通り、彼は何の変哲もない傭兵だった。
だが、その光なき灰色の瞳には怯えも迷いも見られず、不気味さだけが漂っていた。
満願の都を背にした、もう一つの戦いが街道にて繰り広げられていた。
南軍の援護にかけつけたギデオンとクドの部下であるチルルとヒューズ――――
そして、彼らの後続に控えた、およそ三万もの兵士。
さしもギデオンも勝算は見えずにいた。未だかつてない大群を一斉に相手しなければならないとなると、ガリュウ軍をアテにしなければならない。
時間との戦いでもあるが、ここを退くことはできない。
ヘイガンたち、遠征組が戻ってくることを期待するにしても、まだまだ時間がかかるだろう。
「おい! オマエ、まさかこの人数を相手に単独で戦うつもりか?」
「だったら、なんだ? こっちには魔獣と聖獣がいる。僕だけだと侮ると痛い目を見るぞ」
ギデオンを凝視しながら、チルルは何か、考えを巡らせているようだった。
しばらく、沈黙が続く中で救いを得たヒューズが強気になり、兵士たちに命じる。
「奴を殺さず生け捕りにしろ! これはクド将軍からの命令だ。捕らえた者には、金一封を授けるぞ!」
東軍の兵士たちは、指示された通りギデオンに詰め寄ろうと移動する。
誰一人として士気は高くないものの、動きは機敏で無駄がない。
まるで、機械人形のようだ。人間であるのにも関わらず、エイル以上に自由意思を感じない。
「何を勝手に命じているんだ? 馬鹿、ヒューズ!!」
「えっ? でも、クドの命令ですぜ。チルルの姉御」
横目で睨みを利かせるホビットの少女に、ヒューズが顔色を青くし狼狽え始めた。
外見とは真逆の立場。年下のチルルに対して大人であるヒューズの方が彼女のご機嫌を伺っているような関係だった。
「無しナシ! 今の命令は取り消しだ。 チルル様の命令が下るまで全員、その場で待機せよ!」
両手を広げながら、叫ぶヒューズを尻目にチルルが前へ出てきた。
首元のチョーカーにぶら下がる鈴と肩にかけた羽衣の鈴たちをガシャガシャと鳴らしながら、愛想なき顔でギデオンの手前までやって来た。
「その無謀さ、気に入ったぞ! さすが、クドが欲しがる人材だ」
「クド……アンタもアイツの関係者か? なら、聞きたいことがある」
「質問は受け付けないが、我々は数年前までは傭兵団として活動していた。いまはドルゲニア公国の王の下で、軍人のような事をしている」
「なぜ、そんなことを……? アイツほどの実力があれば、個人でもやっていけるはずだろう?」
「…………クドは、そうは思わなかったみたいだ。すべては理想を実現する為、その為にはどんなことでもやる。クドとは、そういう男だ」
スッと右腕をあげて、チルルがステップを踏む。
急に踊り出す少女に、ギデオンは毒気を抜かれてしまいそうになるも、身体は銃化したスコルを手にしてトリガーを引いていた。
ギュ――ン! 魔法弾が空を切りチルルの真横を通り過ぎた。
「のわぁ! いきなり何をする!? チルルは踊っているだけだぞ!」
「あっ…………そりゃなぁ。巧妙に殺気を隠していたら、何となく撃つだろう?」
「こ、コイツ――――なんとなくで撃つな!!」
怒りをあらわにし、地団太を踏むチルル。
こうしていると普通の少女にしか見えないが、ギデオンが感知した通り、踊れば踊るほど彼女の力は増大してゆく。
ただし、車輪と同じくペダルを踏み続けなければ、自然と元の状態に戻ってゆく。
カイとの戦いから、かなり時間が経過していた。
ここで助走をつけておきたいチルルではあるが、ギデオンは依然として銃口を下げようとはしない。
「ヒューズ、お前が時間を稼げ!」
「うぇぇええええっ!? 自慢じゃないですけど、俺なんかじゃ瞬殺ですよ。だったら、兵を動かしましょうよ!」
「ダメだ。思っていたよりもミューティスたちが苦戦している……それにオレノアの方でも怪しい動きをあるらしい……」
「はぇ~、あの共和国の? にしてもオルドレールの奴は何をしているんですかねぇ~。あのデカブツ、ちっとも役に立っていないじゃないの」
「お前よりは使える。それに、第二王子たちの軍勢が戻ってきた時のことも想定しなければならない」
「ったく、我々は損な役回りですなぁー」
愚痴をこぼしながらもヒューズは鞘からダガーナイフを引き抜いた。
トボトボと背を丸めたまま歩いてくる、その姿に覇気はなく闘気も微弱にしか流れていない。
話し通り、彼は何の変哲もない傭兵だった。
だが、その光なき灰色の瞳には怯えも迷いも見られず、不気味さだけが漂っていた。
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