異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百二十二話

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 悪意の予感、世界のざわめき――――
 人は雑踏の中に紛れる時、迷子になる。
 そこは誰の居場所なのだろうか? 誰が優先されるのだろうか?
 少なくとも、人ではない何かによって彼らは動かされている。
 運命などといった小洒落れたモノではなく、もっと確信に迫る人の側の内にソイツは潜んでいる。

 時に誘惑、時にズレた歯車……自らの意思の狂いを人は猛省し、次は間違いなく進もうとする。

「ああ、神よ……どうして、傍観しているんだ? 世界はこんなにも素敵に狂っているというのに主催者が不在などとは、なんと味気ない。もし出てこないというのであれば、俺がすべて喰らってしまうぞ!!」

「お前、何を悠長に!! くらえ、臥龍方天撃破!!」

 薙刀のような長物はなくとも、ウイングランチャーを代用しガリュウの必殺技を真似ることはできる。
 オッドの放つソレは、オリジナルをアレンジしたものであったが、本物と比較しても劣らない一撃だった。

 けれど、それはガリュウ自身を殺めた技でもある。

「スティール・ストレージで空間ごと切り取れば、いかに強大な力でも俺を傷つけることはできない! 今度はお前だぁああ」

 方天撃破の先に、手をかざすクドの姿があった。
 全身を覆う、タオウ―の甲殻でできた鎧が小刻みに震え出していた。
 主、なくとも罪を宿した魔物の魂は覚えていた。その少年がいかに危険な存在であるのかを……。
 あの技を破るには、何か特殊な方法があるはずだと。
 それをオッドに伝えるべく、振動というリアクションが生じている。
 何となくだが、このままでいくは不味い……オッドは咄嗟にエネルギー波の軌道を逸らし、クドを囲むように左右へと二手に分けた。

 左右同時に攻撃すれば、クドであっても対応はできない。
 安易な考えであろうとも、そこに賭けるしか方法はなかった。
 先のことに一喜一憂していても仕方がないというのがオッドの信条だが、鎧の反応を見て、この時ばかりは危険視せざるを得なかった。

「そいいうのを何と言うのか、知っているか? スケアクロウ! 無駄な悪足掻きなんだよ――――スティール・ストレージ!!」

「待っていたぜっぇええ! カウンター・ハック」

 視界から臥龍方天撃破が消失した。
 そのタイミングを見計らって先に動いたのはオッドの方だった。
 タオウ―が持てる最大限の加速力を応用してクド目掛けて突進してゆく。
 カウンター・ハックなどと大それた名前をつけているが、相手との距離を詰めることにより、カウンター攻撃をさせないようにする単純な対処法だ。
 しかし、それを可能にしたのはスピードを誇るタオウ―の能力とオッドの合わせ方だ。
 一瞬でもタイミングが狂えば、反撃の刃の餌食となる。

「これで、打ち返しはできないはずだ! この距離ではオメーも巻き添えをくらうからな」

「それで? まさか、俺の攻撃がこれで終わると思っているのか!? やはり、カカシはカカシだな……マガイモノでしかない。姿カタチを真似ても、中身が伴わない。俺に応戦できているのはガリュウのおかげに過ぎない」

「な、んだとぉぉおお!! もう―――――がはぁあああ!!」

 クドの蹴りがいつの間にかオッドの脇腹に食い込んでいた。
 瞬時に鎧の隙間から血飛沫が舞う。ガイサイに刺された傷口が完全に開き切ってしまった。

「庇っているのが丸分かりなんだよ。お前は戦うことの意味をはき違えている……だから、迂闊に俺の間合いに飛び込んでくる。カウンター以上に危険な場所に自分から、まんまと入ってしまったんだよ」

 冷淡に笑うクドの形相に、オッドの背筋が凍った。
 笑っているのに笑うのとは何かが違う。
 弱者を踏みにじることで得られる優越感に酔いしれるソレは……悪意以外のナニモノでもない。
 そうすることで、自分の価値や有用性を再確認する。
 ただ、それだけで……そのためだけに……クドという少年は刃を人に向ける。
 彼にとって暴力は手段だ。安寧あんねいを得るためには、他者の犠牲は必須だと当然のように考えている。
 クドにとって他者とは糧である。奪うことで自分の心を満たしてくれる素晴らしき存在。
 干将莫邪の猛攻が幾度となく、オッドの身体を打ち付ける。
 外殻の鎧によって致命傷は避けているが確実に身体へのダメージは蓄積されている。

 チリン―――チリン チリン――――

 微かな鈴の音が響く。
 攻撃の手を止め懐からと小さな鈴を取りだすと、鈴は自然とクドの手のひらを転がり鳴っていた。

「呼び出しか? スケアクロウ、運が良かったな……。目的は達したが、クズのせいでここを陥落しても意味がなくなった。アイツがいなければ、王位継承戦の大義の名目が成り立たないからな。このままでは東軍の一方的な侵略になってしまう」

「くっ、ここまでやって……おいて引き下がるのかよ!?」

「満願など所詮、ドルゲニアの一部に過ぎない。落とそうと思えばいつでも落とせる。それに、お前とあの女はもう少し熟成させたほうが面白そうだ……クハッ! アッハアアアア――――!!」

 ガリュウの城に邪悪な歓声がこだました。
 既に消え去ったクド。独り残されたオッドは虚無感に苛まれていた。
 おそらく、アイツは本気すら出していない……そんな相手にどう立ち向かえというのだ。
 それとなく察知してしまった現実に項垂れるだけだった。
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