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三百二十話
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揺れるガリュウの居城。
その中でクドの気配を察知したオッドは一人困惑していた。
未だ何かを蹴った感触が素足に残っている。クドだと思って反射的に足が出た。
だが、それは人体ではなく硬い甲羅のようなものだった。
さらに難解なのは、こちらが攻撃を加えた直後、クドの気配をまったく感じられなくなったことだ。
「まさか……!! あの野郎、チクショーめ!」
胸騒ぎを感じたオッドは、急いで渡り廊下へと出て走り出した。
「どうしたの? オッド」
「アイツ、最初から俺のことなんざ眼中にいれてなかったんだ――――!!」
すぐそこにフキ姫とパスバインの背中が見えた。
できれば杞憂であって欲しいと願うオッドだが、自分の前にクドがいないことが最悪の答えを導きだしていた。
「テイク・ア・ストレージ……」
空を裂くようにして、剣をを持った右手が少女たちの真後ろから出現した。
翡翠色のソレは、躊躇なく二人の命を狩り取ろうとしていた。
嫌な予感が当たってしまった。
「二人とも、後ろだぁぁ!!!」
攻撃を阻止しようにも距離が遠すぎた。気の念波で敵の動きを阻害したくとも集中力と時間を要する。
グリフォンの素早い動きも、狭い室内では思うように活かせない。
オッドができることは、せいぜい警告を発することぐらいだ。
「クカハハハハァッ!! ―――――神の下へと誘ってやろう」
少女たちの背後を取るようにクドが姿を現した。
出てきたのと同時に、フキ姫の背中をバッサリと斬りつけた。
「うぐぅ、あああ…………あっ」
「カナッペぇぇええ――――!!」
力なく、その場で崩れ落ちてゆく友の姿にオッドの悲痛な叫びが虚しく廊下に響き渡る。
いくら、わめいても何も変わりはしない。
非力な自身では守らなければならない者さえ守りきれない。
こんなで様で英雄になろうなどと、よく言葉にできたものだ。
オッドは己を責め立てられずにはいられなかった。
「俺の知っている英雄は、いつ、いかなる時も皆を守りきれる奴のことだ。俺には無理だ……誰も救えない。この場にいること自体が分不相応なんだ!」
抗えない結末に直面し、オッドの心に亀裂が生じた。
今までのことが全部、無駄になってしまう。
頭では、そう理解していても絶望感が重く圧し掛かり彼の歩みを止めようとする。
すべて放棄して楽になれればどれだけいいことか……。
『なら、捨てちまえよ。迷うってことは、さほど大事なことではないってことだろうよ』
不意に師であるカイの言葉が聞こえた気がした。幻聴なのかもしれないが、オッドは問わずにいられなかった。
「なぁ、師匠……俺はどうするのが正解だったんだ?」
『それが正解だ。迷って悩んで困れ、悔いなき道は懸命に考え選択した上で見つかるモンだ。それでも後悔が消えないのならパァ―――と豪遊でもすればいい!! 人生に完璧なんてねぇ、どんなに偉大なる賢人も歴戦の勇者ですらも赤ん坊の時は皆、ウンコを漏らしていただろう? その時点で、汚点はついているんだからよぉ』
もちろん、実際に声が聞こえたわけではない……以前、師匠たるカイが言っていた言葉を記憶の底からすくい上げただけだ。
「ったく……ヒデェー、物の喩え方だぜ。けどよ、そうだよな。ここで突っ走らなければ俺はきっと、自分が許せないまま終わっちまう」
破天荒なカイのアドバイスがオッドに一縷の光を照らした。
脆弱な光は横たわるフキ姫の傍で人知れず輝いていた。
「オッド、ウネがいるからダイジョウブ。ウネがオッドのこと助ける!」
「ウネ、あの二人のことを頼めるか? お前の能力で二人を城の外へと運んでくれないか!」
「うにゅ、オッドはどうする?」
「俺は今度こそ、アイツを止めて見せる! そのための答えがようやく見えてきた」
ウネを背中から下ろすと、オッドは翼を拡げて低空飛行した。
この場で飛ぶことは速度調節が利かない以上、何かに激突するのはまぬがれない。
その上、隙だらけで攻撃されたら軽傷では済まされない。
当然、覚悟はできている。
もう犠牲者を出したくないという強い気持ちで彼は捨て身を選択した。
ただ、身代わりなるわけではない……わずかな希望に賭けてクドの前に迫る。
「余程、早死にしたいようだね……」
「ざけんな! 俺はお前には……お前だけには負けねェェェ――――!!」
「能書きは、あの世ですればいい!!」
振り下ろされる刃……避けなければ切り刻まれてしまう。
にもかかわらず、オッドは一歩たりとも引かずに特攻を仕掛けてきた。
もっと加速し場を乱さないと時間稼ぎにならない。
負傷していた脇腹の傷が今になって開いてきても、意識は常に一点に向いている。
床に転がる小さな石。それはガリュウが残した置き土産だった。
漆黒の剣が空を斬った。
間違いなく、グリフォンのままだったら即死だった……オーブに向かって前足を伸ばした途端、獣の姿が解除されオッドは元に戻っていた。
まるで、吸い込まれるように手の平の中におさまる玉石には膨大なる力が秘められている。
タオウ―の魂は未だ戦いを求めていた。
その中でクドの気配を察知したオッドは一人困惑していた。
未だ何かを蹴った感触が素足に残っている。クドだと思って反射的に足が出た。
だが、それは人体ではなく硬い甲羅のようなものだった。
さらに難解なのは、こちらが攻撃を加えた直後、クドの気配をまったく感じられなくなったことだ。
「まさか……!! あの野郎、チクショーめ!」
胸騒ぎを感じたオッドは、急いで渡り廊下へと出て走り出した。
「どうしたの? オッド」
「アイツ、最初から俺のことなんざ眼中にいれてなかったんだ――――!!」
すぐそこにフキ姫とパスバインの背中が見えた。
できれば杞憂であって欲しいと願うオッドだが、自分の前にクドがいないことが最悪の答えを導きだしていた。
「テイク・ア・ストレージ……」
空を裂くようにして、剣をを持った右手が少女たちの真後ろから出現した。
翡翠色のソレは、躊躇なく二人の命を狩り取ろうとしていた。
嫌な予感が当たってしまった。
「二人とも、後ろだぁぁ!!!」
攻撃を阻止しようにも距離が遠すぎた。気の念波で敵の動きを阻害したくとも集中力と時間を要する。
グリフォンの素早い動きも、狭い室内では思うように活かせない。
オッドができることは、せいぜい警告を発することぐらいだ。
「クカハハハハァッ!! ―――――神の下へと誘ってやろう」
少女たちの背後を取るようにクドが姿を現した。
出てきたのと同時に、フキ姫の背中をバッサリと斬りつけた。
「うぐぅ、あああ…………あっ」
「カナッペぇぇええ――――!!」
力なく、その場で崩れ落ちてゆく友の姿にオッドの悲痛な叫びが虚しく廊下に響き渡る。
いくら、わめいても何も変わりはしない。
非力な自身では守らなければならない者さえ守りきれない。
こんなで様で英雄になろうなどと、よく言葉にできたものだ。
オッドは己を責め立てられずにはいられなかった。
「俺の知っている英雄は、いつ、いかなる時も皆を守りきれる奴のことだ。俺には無理だ……誰も救えない。この場にいること自体が分不相応なんだ!」
抗えない結末に直面し、オッドの心に亀裂が生じた。
今までのことが全部、無駄になってしまう。
頭では、そう理解していても絶望感が重く圧し掛かり彼の歩みを止めようとする。
すべて放棄して楽になれればどれだけいいことか……。
『なら、捨てちまえよ。迷うってことは、さほど大事なことではないってことだろうよ』
不意に師であるカイの言葉が聞こえた気がした。幻聴なのかもしれないが、オッドは問わずにいられなかった。
「なぁ、師匠……俺はどうするのが正解だったんだ?」
『それが正解だ。迷って悩んで困れ、悔いなき道は懸命に考え選択した上で見つかるモンだ。それでも後悔が消えないのならパァ―――と豪遊でもすればいい!! 人生に完璧なんてねぇ、どんなに偉大なる賢人も歴戦の勇者ですらも赤ん坊の時は皆、ウンコを漏らしていただろう? その時点で、汚点はついているんだからよぉ』
もちろん、実際に声が聞こえたわけではない……以前、師匠たるカイが言っていた言葉を記憶の底からすくい上げただけだ。
「ったく……ヒデェー、物の喩え方だぜ。けどよ、そうだよな。ここで突っ走らなければ俺はきっと、自分が許せないまま終わっちまう」
破天荒なカイのアドバイスがオッドに一縷の光を照らした。
脆弱な光は横たわるフキ姫の傍で人知れず輝いていた。
「オッド、ウネがいるからダイジョウブ。ウネがオッドのこと助ける!」
「ウネ、あの二人のことを頼めるか? お前の能力で二人を城の外へと運んでくれないか!」
「うにゅ、オッドはどうする?」
「俺は今度こそ、アイツを止めて見せる! そのための答えがようやく見えてきた」
ウネを背中から下ろすと、オッドは翼を拡げて低空飛行した。
この場で飛ぶことは速度調節が利かない以上、何かに激突するのはまぬがれない。
その上、隙だらけで攻撃されたら軽傷では済まされない。
当然、覚悟はできている。
もう犠牲者を出したくないという強い気持ちで彼は捨て身を選択した。
ただ、身代わりなるわけではない……わずかな希望に賭けてクドの前に迫る。
「余程、早死にしたいようだね……」
「ざけんな! 俺はお前には……お前だけには負けねェェェ――――!!」
「能書きは、あの世ですればいい!!」
振り下ろされる刃……避けなければ切り刻まれてしまう。
にもかかわらず、オッドは一歩たりとも引かずに特攻を仕掛けてきた。
もっと加速し場を乱さないと時間稼ぎにならない。
負傷していた脇腹の傷が今になって開いてきても、意識は常に一点に向いている。
床に転がる小さな石。それはガリュウが残した置き土産だった。
漆黒の剣が空を斬った。
間違いなく、グリフォンのままだったら即死だった……オーブに向かって前足を伸ばした途端、獣の姿が解除されオッドは元に戻っていた。
まるで、吸い込まれるように手の平の中におさまる玉石には膨大なる力が秘められている。
タオウ―の魂は未だ戦いを求めていた。
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