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三百十九話
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パスバインたちの窮地に駆けつけたのは、オッドとウネだった。
想定していたよりも相手側の抵抗が激しい。クドは思わぬカタチで足止めを喰らうことになった。
ガリュウの暗殺……既に目的は達している。
クドの能力なら、いつでもここから逃れられるのに彼はそうしない。
自分に対して敵意を向けてくる者がいると、胸の中で渦巻く靄が晴れない。
悪い癖だと思いつつも、敵という存在を抹消したいという欲求がクド自身を支配していた。
悪魔に執着される中、当然の再会にフキ姫が慌てふためいて声を上げた。
「その姿、オッドなの? 貴方、獣身化の能力を使ったのね!」
「カナッペ!! お前、今までどこにいたんだ? って……そんなことは後回しだ! あの野郎、なんかヤバイぞ!! 俺たちが時間を稼ぐから二人とも、さっさとここから非難しろ」
「君は、確か幽玄導師の……」
「おうさ! 幽玄のカイの一番弟子オッドだ。コイツは妹分のウネだ!」
「うにゅううう!! よろしくなの」
「俺たちが来たからにはもう安心だ。師匠直伝の奥義で、あの赤頭を蹴散らせてやる」
片膝をついたままのパスバインが、オッドの言葉に希望を見出し再度、立ち上がる。
歩くのも辛そうなその身体を、カナッペが肩を貸して支えとなる。
彼女たちはもう満足には動けない。
「少しの間だけ持ちこたえて!」とカナッペから命運を託された。
女の子たちがいる手前、盛大に強がってみせたものの……相手は、あのガリュウを討ち取っている。
どう足掻いてもオッドたちには、勝てる見込みはない。
それでも―――――
ここで引いたら男が廃る。これは負けられない戦いというやつだ。
どんなに無様でも、どれほど無惨でも譲れないものがある。
彼の場合は英雄願望であった。
子供っぽいと他者から笑われるかもしれないがいつしか世界を救う、おとぎ話のような英雄に憧れて彼は勇士学校の試験を受けた。
片田舎の農村出のオッドはこれまで争いとは無縁の平穏な生活を送ってきた。
平和なのは決して悪くはない。
奪われることも傷つくこともなく、生活も安定するから大歓迎だ……。
なのに、心の片隅には常に空虚さがあるのを感じていた。
不安だったのだ、先が見えてしまう生き方が―――――。
このまま、何も変わりなく年老いてしまう。そうなることを恐れて、オッドは両親を説得して外の世界へと飛び出した。
勇士学校では、なんら目立った成果は上げられなかったが、仲間たちには恵まれた。
それで満足したはずだった。
もう無理に英雄を目指さなくとも、自分の代わりはいくらでもいる。
このまま、皆とともに学生生活を満喫し、冒険者にでもなって適当に稼げばいい。
そう、諦めがついた矢先……聖王国から留学生がやってきた。
自分と変わらない年齢のソイツは、最初から他の連中とは違う強烈な存在感を放っていた。
何かしら困っていれば、先輩としてレクチャーでもしてやろうかと思っていた。
そんな自分が恥ずかしく思えるほど、留学生は他を圧倒していた。
人並み外れた戦闘センスと鍛え上がられた肉体、そして年齢には不相応なほどに場慣れしていた。
どうでも良かったずなのに、知らないうちに巻き込まれて気づくと感化されていた。
無くしていた何かが戻ってきたような感覚を覚え、ソイツに負けていられるかと感情が揺さぶられていた。
「アイツならぜってー、逃げろっていうだろうな。ギデの真似なんかして仕方なって…………ん? アイツって誰っけ?」
「オッド、次の一歩で仕掛けてくるの、アイツ!」
「グリフォンに植物系魔人とは珍しい組み合わせだな。雑兵がぁぁ! どれだけ集まろうとも、俺を止められるわけないのが分からないのか!?」
超速で間合いを詰めた攻撃が飛び交う。
漆黒の剣が十字を斬りオッドの胴体を射抜こうとする。
「その身に戒めとし刻め、カルバリ!」
「速すぎ―――だろっ!!」
莫邪刀の斬撃を辛うじて止めたのは、肥大化した植物の種だった。
弾丸のように発射されたソレはウネの蔦によって弾き飛ばされたものである。
クドの動きを制限しようとするが、効果があったのは最初の一発目だけだ。
「スティール・ストレージ」
敵の姿が忽然と消えた。
次の瞬間、グリフォンの背に跨るウネの頭上から干将が突き出し彼女を襲った。
「そう易々と、させるかよ!」
咄嗟の機転を利かせオッドが後ろ足を蹴り上げ身体を浮かせた。
同時に、その反動を活かした痛烈な蹴りが何もないはずの空間に直撃し部屋全体を激震させた。
想定していたよりも相手側の抵抗が激しい。クドは思わぬカタチで足止めを喰らうことになった。
ガリュウの暗殺……既に目的は達している。
クドの能力なら、いつでもここから逃れられるのに彼はそうしない。
自分に対して敵意を向けてくる者がいると、胸の中で渦巻く靄が晴れない。
悪い癖だと思いつつも、敵という存在を抹消したいという欲求がクド自身を支配していた。
悪魔に執着される中、当然の再会にフキ姫が慌てふためいて声を上げた。
「その姿、オッドなの? 貴方、獣身化の能力を使ったのね!」
「カナッペ!! お前、今までどこにいたんだ? って……そんなことは後回しだ! あの野郎、なんかヤバイぞ!! 俺たちが時間を稼ぐから二人とも、さっさとここから非難しろ」
「君は、確か幽玄導師の……」
「おうさ! 幽玄のカイの一番弟子オッドだ。コイツは妹分のウネだ!」
「うにゅううう!! よろしくなの」
「俺たちが来たからにはもう安心だ。師匠直伝の奥義で、あの赤頭を蹴散らせてやる」
片膝をついたままのパスバインが、オッドの言葉に希望を見出し再度、立ち上がる。
歩くのも辛そうなその身体を、カナッペが肩を貸して支えとなる。
彼女たちはもう満足には動けない。
「少しの間だけ持ちこたえて!」とカナッペから命運を託された。
女の子たちがいる手前、盛大に強がってみせたものの……相手は、あのガリュウを討ち取っている。
どう足掻いてもオッドたちには、勝てる見込みはない。
それでも―――――
ここで引いたら男が廃る。これは負けられない戦いというやつだ。
どんなに無様でも、どれほど無惨でも譲れないものがある。
彼の場合は英雄願望であった。
子供っぽいと他者から笑われるかもしれないがいつしか世界を救う、おとぎ話のような英雄に憧れて彼は勇士学校の試験を受けた。
片田舎の農村出のオッドはこれまで争いとは無縁の平穏な生活を送ってきた。
平和なのは決して悪くはない。
奪われることも傷つくこともなく、生活も安定するから大歓迎だ……。
なのに、心の片隅には常に空虚さがあるのを感じていた。
不安だったのだ、先が見えてしまう生き方が―――――。
このまま、何も変わりなく年老いてしまう。そうなることを恐れて、オッドは両親を説得して外の世界へと飛び出した。
勇士学校では、なんら目立った成果は上げられなかったが、仲間たちには恵まれた。
それで満足したはずだった。
もう無理に英雄を目指さなくとも、自分の代わりはいくらでもいる。
このまま、皆とともに学生生活を満喫し、冒険者にでもなって適当に稼げばいい。
そう、諦めがついた矢先……聖王国から留学生がやってきた。
自分と変わらない年齢のソイツは、最初から他の連中とは違う強烈な存在感を放っていた。
何かしら困っていれば、先輩としてレクチャーでもしてやろうかと思っていた。
そんな自分が恥ずかしく思えるほど、留学生は他を圧倒していた。
人並み外れた戦闘センスと鍛え上がられた肉体、そして年齢には不相応なほどに場慣れしていた。
どうでも良かったずなのに、知らないうちに巻き込まれて気づくと感化されていた。
無くしていた何かが戻ってきたような感覚を覚え、ソイツに負けていられるかと感情が揺さぶられていた。
「アイツならぜってー、逃げろっていうだろうな。ギデの真似なんかして仕方なって…………ん? アイツって誰っけ?」
「オッド、次の一歩で仕掛けてくるの、アイツ!」
「グリフォンに植物系魔人とは珍しい組み合わせだな。雑兵がぁぁ! どれだけ集まろうとも、俺を止められるわけないのが分からないのか!?」
超速で間合いを詰めた攻撃が飛び交う。
漆黒の剣が十字を斬りオッドの胴体を射抜こうとする。
「その身に戒めとし刻め、カルバリ!」
「速すぎ―――だろっ!!」
莫邪刀の斬撃を辛うじて止めたのは、肥大化した植物の種だった。
弾丸のように発射されたソレはウネの蔦によって弾き飛ばされたものである。
クドの動きを制限しようとするが、効果があったのは最初の一発目だけだ。
「スティール・ストレージ」
敵の姿が忽然と消えた。
次の瞬間、グリフォンの背に跨るウネの頭上から干将が突き出し彼女を襲った。
「そう易々と、させるかよ!」
咄嗟の機転を利かせオッドが後ろ足を蹴り上げ身体を浮かせた。
同時に、その反動を活かした痛烈な蹴りが何もないはずの空間に直撃し部屋全体を激震させた。
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