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三百十七話
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怒り狂った仮面の闘士、それは滅多に見せないパスバインの一面だった。
とにかく相手を八つ裂きにしたい。その為ならば、いかなるリスクも問わない。
そういった相手は、クドからすればカッコウの獲物だ。
逆上しているから基本、動作が単調になる。その上、全力で攻撃を仕掛けてくるからペース配分を誤る。
そこへ駄目出しの挑発でもすれば、一発で引っかかる。
すでに戦う前から、主導権はクドが握っていた。
パスバインは腰元にぶら下げてある瓢箪筒を手に取りコルクの栓を抜いた。
そして、仮面の顎下を少しだけ持ち上げて筒の先端を射し込んだ。
「酒――――か?」
神妙な面持ちになるクドが察した通り、中身は清酒である。
パスバインは酔えば酔うほどに強くなる、バトルドランカーだった。
――――笑えない、もっとも面倒な相手だ。
パスバインに対する第一印象は、クドのとっては好ましくない。
身内に似たような能力を持つ者がいる。
万が一、彼女と同様に底が見えないのであれば……後に大きな壁となる。
不安要素は、いち早く排除したいというのが彼の本音だ。
「偽装練功、干将莫邪!!」
闘気をまとい対のショーテルが姿を変えた。
肉厚で幅広い翡翠と黒曜の剣となった二本の剣は、扱う者に属性の恩恵を与える。
風属性の干将は淡い緑色の刀身に亀裂紋様のレイライン(気を流す道)を浮かべる。
対の莫邪は闇属性を宿した漆黒の剣で水波模様の刃紋を鈍く煌めかせていた。
「二属性持ち……しかも一方は上位属性」
「悪いがパフォーマンスじゃないんだ。手加減は期待するなよ」
「貴方こそ、私に力負けしても言い訳しないようになさい!」
二つの属性を同時に使用する人間は稀有であると云われつつも、パスバインとっては特段、珍しいものではない。
同行者である元帝国魔術師のジャスベンダーが多属性持ちに該当するからだ。
「おかげで見慣れてしまいしたよ、叔父様……」
「ハアァァァ―――!!」猛りながら、南軍の将が矢のごとく飛びかかって来た。
それに合わせ演武を披露するかのごとくクドが剣を構えた。
半身になり左足を前にカカトをつける。
上げた右腕を曲げて頭上に干将をかかげる。
水平に伸ばした左腕の先で莫邪が鋭い刃を立てている。
「黒覇翔撃・十六夜」
莫邪からドス黒い闘気が放出された。たちまち視界が遮られパスバインはクドを見失ってしまった。
一瞬、動きが鈍る彼女をどこからともなく斬撃が襲ってくる。
一撃一撃が三日月の型の弧を描くクドの連続攻撃。
パスバインの官服が斬り裂かれ、そこから血がにじみ出ている。
圧倒的に彼女の方が押されていると思われたが、未だ致命的な一撃を喰らってはいない。
実際、パスバインの戦闘モーションは不規則すぎてクドには読めない。
回避したり退避したかと思いきや、距離を詰めたり無意味な動きまで見せる。
体力消耗は激しいはずなのに……動き回る速度は遅くなるどころか加速している。
無尽蔵ではないかと疑いたくなる相手の体力に、クドの方が気負いするハメとなった。
「そこぉ―――!」
逆立ちしたままの体勢からパスバインが水平に蹴り込んでくる。
一本槍ごとき反撃を干将で受けとめたものの、威力を抑えきれずクドの身体が宙に浮いた。
「馬鹿力め……これだから、パワータイプは嫌なんだ」
敵の攻撃が止まった隙を狙い、全身をクルリと回転させてパスバインが一気に間合いを詰めてきた。
旋回春蘭撃はコマのように身体を回転させながら高速のハイキックと後ろ回蹴りを交互に打ち込んでゆく技だ。
強烈な衝撃音が部屋全体に駆け巡った。
確かな手応えを感じたであろう彼女は三度蹴り込んだ後、足を止めた。
「翠翼滅翔・雲雀東風」
自身の攻撃力を過信したパスバインは痛恨のミスを犯した。
相手との距離を詰めた状態で、攻撃を停止してしまった。しかも、確認を怠ったせいで何を蹴ったのかも分からない。
そのため、今度は自分がカウンター攻撃を受けることとなった。
「遮空!」瞬時に練功で反応速度を上げるが、返し刃ではなく返し盾がパスバインを突き跳ばす。
干将から放たれる風は頑強な層となり鉄鎚のごとき破壊力を誇る。
広域で攻撃を展開させられては、回避する術はない。
渾身の振り落しで雲雀東風を打ち抜くが単発では逆に拳を痛めてしまうだけだ。
「ぐあぁああああ!! 乾坤砕爆砲」
壁際に押し寄せられ後退してゆく中、パスバインは右手の指先に闘気を集中させた。
攻撃面積を減らすことで威力を高める理屈なのだが、乾坤爆砕砲とは名ばかりで単なるデコピンと何ら変わりない。
ただ、強いモノは壊れ易く、弱いモノは頑丈というクドの定義が皮肉なカタチで合致した。
その一点から亀裂が生じると瞬く間に風の層が砕け散った。
とにかく相手を八つ裂きにしたい。その為ならば、いかなるリスクも問わない。
そういった相手は、クドからすればカッコウの獲物だ。
逆上しているから基本、動作が単調になる。その上、全力で攻撃を仕掛けてくるからペース配分を誤る。
そこへ駄目出しの挑発でもすれば、一発で引っかかる。
すでに戦う前から、主導権はクドが握っていた。
パスバインは腰元にぶら下げてある瓢箪筒を手に取りコルクの栓を抜いた。
そして、仮面の顎下を少しだけ持ち上げて筒の先端を射し込んだ。
「酒――――か?」
神妙な面持ちになるクドが察した通り、中身は清酒である。
パスバインは酔えば酔うほどに強くなる、バトルドランカーだった。
――――笑えない、もっとも面倒な相手だ。
パスバインに対する第一印象は、クドのとっては好ましくない。
身内に似たような能力を持つ者がいる。
万が一、彼女と同様に底が見えないのであれば……後に大きな壁となる。
不安要素は、いち早く排除したいというのが彼の本音だ。
「偽装練功、干将莫邪!!」
闘気をまとい対のショーテルが姿を変えた。
肉厚で幅広い翡翠と黒曜の剣となった二本の剣は、扱う者に属性の恩恵を与える。
風属性の干将は淡い緑色の刀身に亀裂紋様のレイライン(気を流す道)を浮かべる。
対の莫邪は闇属性を宿した漆黒の剣で水波模様の刃紋を鈍く煌めかせていた。
「二属性持ち……しかも一方は上位属性」
「悪いがパフォーマンスじゃないんだ。手加減は期待するなよ」
「貴方こそ、私に力負けしても言い訳しないようになさい!」
二つの属性を同時に使用する人間は稀有であると云われつつも、パスバインとっては特段、珍しいものではない。
同行者である元帝国魔術師のジャスベンダーが多属性持ちに該当するからだ。
「おかげで見慣れてしまいしたよ、叔父様……」
「ハアァァァ―――!!」猛りながら、南軍の将が矢のごとく飛びかかって来た。
それに合わせ演武を披露するかのごとくクドが剣を構えた。
半身になり左足を前にカカトをつける。
上げた右腕を曲げて頭上に干将をかかげる。
水平に伸ばした左腕の先で莫邪が鋭い刃を立てている。
「黒覇翔撃・十六夜」
莫邪からドス黒い闘気が放出された。たちまち視界が遮られパスバインはクドを見失ってしまった。
一瞬、動きが鈍る彼女をどこからともなく斬撃が襲ってくる。
一撃一撃が三日月の型の弧を描くクドの連続攻撃。
パスバインの官服が斬り裂かれ、そこから血がにじみ出ている。
圧倒的に彼女の方が押されていると思われたが、未だ致命的な一撃を喰らってはいない。
実際、パスバインの戦闘モーションは不規則すぎてクドには読めない。
回避したり退避したかと思いきや、距離を詰めたり無意味な動きまで見せる。
体力消耗は激しいはずなのに……動き回る速度は遅くなるどころか加速している。
無尽蔵ではないかと疑いたくなる相手の体力に、クドの方が気負いするハメとなった。
「そこぉ―――!」
逆立ちしたままの体勢からパスバインが水平に蹴り込んでくる。
一本槍ごとき反撃を干将で受けとめたものの、威力を抑えきれずクドの身体が宙に浮いた。
「馬鹿力め……これだから、パワータイプは嫌なんだ」
敵の攻撃が止まった隙を狙い、全身をクルリと回転させてパスバインが一気に間合いを詰めてきた。
旋回春蘭撃はコマのように身体を回転させながら高速のハイキックと後ろ回蹴りを交互に打ち込んでゆく技だ。
強烈な衝撃音が部屋全体に駆け巡った。
確かな手応えを感じたであろう彼女は三度蹴り込んだ後、足を止めた。
「翠翼滅翔・雲雀東風」
自身の攻撃力を過信したパスバインは痛恨のミスを犯した。
相手との距離を詰めた状態で、攻撃を停止してしまった。しかも、確認を怠ったせいで何を蹴ったのかも分からない。
そのため、今度は自分がカウンター攻撃を受けることとなった。
「遮空!」瞬時に練功で反応速度を上げるが、返し刃ではなく返し盾がパスバインを突き跳ばす。
干将から放たれる風は頑強な層となり鉄鎚のごとき破壊力を誇る。
広域で攻撃を展開させられては、回避する術はない。
渾身の振り落しで雲雀東風を打ち抜くが単発では逆に拳を痛めてしまうだけだ。
「ぐあぁああああ!! 乾坤砕爆砲」
壁際に押し寄せられ後退してゆく中、パスバインは右手の指先に闘気を集中させた。
攻撃面積を減らすことで威力を高める理屈なのだが、乾坤爆砕砲とは名ばかりで単なるデコピンと何ら変わりない。
ただ、強いモノは壊れ易く、弱いモノは頑丈というクドの定義が皮肉なカタチで合致した。
その一点から亀裂が生じると瞬く間に風の層が砕け散った。
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