異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
317 / 362

三百十七話

しおりを挟む
 怒り狂った仮面の闘士、それは滅多に見せないパスバインの一面だった。
 とにかく相手を八つ裂きにしたい。その為ならば、いかなるリスクも問わない。
 そういった相手は、クドからすればカッコウの獲物だ。

 逆上しているから基本、動作が単調になる。その上、全力で攻撃を仕掛けてくるからペース配分を誤る。
 そこへ駄目出しの挑発でもすれば、一発で引っかかる。
 すでに戦う前から、主導権はクドが握っていた。

 パスバインは腰元にぶら下げてある瓢箪筒ひょうたんづつを手に取りコルクの栓を抜いた。
 そして、仮面の顎下を少しだけ持ち上げて筒の先端を射し込んだ。

「酒――――か?」

 神妙な面持ちになるクドが察した通り、中身は清酒である。
 パスバインは酔えば酔うほどに強くなる、バトルドランカーだった。

 ――――笑えない、もっとも面倒な相手だ。
 パスバインに対する第一印象は、クドのとっては好ましくない。
 身内に似たような能力を持つ者がいる。
 万が一、彼女と同様に底が見えないのであれば……後に大きな壁となる。
 不安要素は、いち早く排除したいというのが彼の本音だ。

「偽装練功、干将莫邪かんしょうばくや!!」

 闘気をまとい対のショーテルが姿を変えた。
 肉厚で幅広い翡翠と黒曜の剣となった二本の剣は、扱う者に属性の恩恵を与える。
 風属性の干将かんしょうは淡い緑色の刀身に亀裂紋様のレイライン(気を流す道)を浮かべる。
 対の莫邪ばくやは闇属性を宿した漆黒の剣で水波模様の刃紋はもんを鈍く煌めかせていた。

「二属性持ち……しかも一方は上位属性」

「悪いがパフォーマンスじゃないんだ。手加減は期待するなよ」

「貴方こそ、私に力負けしても言い訳しないようになさい!」

 二つの属性を同時に使用する人間は稀有であるとわれつつも、パスバインとっては特段、珍しいものではない。
 同行者である元帝国魔術師のジャスベンダーが多属性持ちに該当するからだ。

「おかげで見慣れてしまいしたよ、叔父様……」

「ハアァァァ―――!!」猛りながら、南軍の将が矢のごとく飛びかかって来た。
 それに合わせ演武を披露するかのごとくクドが剣を構えた。
 半身になり左足を前にカカトをつける。
 上げた右腕を曲げて頭上に干将をかかげる。
 水平に伸ばした左腕の先で莫邪が鋭い刃を立てている。

黒覇翔撃・十六夜こくはしょうげき・いざよい

 莫邪からドス黒い闘気が放出された。たちまち視界が遮られパスバインはクドを見失ってしまった。
 一瞬、動きが鈍る彼女をどこからともなく斬撃が襲ってくる。
 一撃一撃が三日月の型の弧を描くクドの連続攻撃。
 パスバインの官服が斬り裂かれ、そこから血がにじみ出ている。
 圧倒的に彼女の方が押されていると思われたが、未だ致命的な一撃を喰らってはいない。

 実際、パスバインの戦闘モーションは不規則すぎてクドには読めない。
 回避したり退避したかと思いきや、距離を詰めたり無意味な動きまで見せる。
 体力消耗は激しいはずなのに……動き回る速度は遅くなるどころか加速している。
 無尽蔵ではないかと疑いたくなる相手の体力に、クドの方が気負いするハメとなった。

「そこぉ―――!」
 逆立ちしたままの体勢からパスバインが水平に蹴り込んでくる。
 一本槍ごとき反撃を干将で受けとめたものの、威力を抑えきれずクドの身体が宙に浮いた。

「馬鹿力め……これだから、パワータイプは嫌なんだ」

 敵の攻撃が止まった隙を狙い、全身をクルリと回転させてパスバインが一気に間合いを詰めてきた。
 旋回春蘭撃せんかいしゅんらんげきはコマのように身体を回転させながら高速のハイキックと後ろ回蹴りを交互に打ち込んでゆく技だ。
 強烈な衝撃音が部屋全体に駆け巡った。
 確かな手応えを感じたであろう彼女は三度蹴り込んだ後、足を止めた。

翠翼滅翔・雲雀東風すいよくめっしょう・ひばりごち

 自身の攻撃力を過信したパスバインは痛恨のミスを犯した。
 相手との距離を詰めた状態で、攻撃を停止してしまった。しかも、確認を怠ったせいで何を蹴ったのかも分からない。
 そのため、今度は自分がカウンター攻撃を受けることとなった。

遮空しゃくう!」瞬時に練功で反応速度を上げるが、返し刃ではなく返し盾がパスバインを突き跳ばす。
 干将から放たれる風は頑強な層となり鉄鎚のごとき破壊力を誇る。
 広域で攻撃を展開させられては、回避する術はない。
 渾身の振り落しで雲雀東風を打ち抜くが単発では逆に拳を痛めてしまうだけだ。

「ぐあぁああああ!! 乾坤砕爆砲」

 壁際に押し寄せられ後退してゆく中、パスバインは右手の指先に闘気を集中させた。
 攻撃面積を減らすことで威力を高める理屈なのだが、乾坤爆砕砲とは名ばかりで単なるデコピンと何ら変わりない。
 ただ、強いモノは壊れ易く、弱いモノは頑丈というクドの定義が皮肉なカタチで合致した。
 その一点から亀裂が生じると瞬く間に風の層が砕け散った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...