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三百十五話
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存在の無効化、それは魔法でもなく、練功にも該当しない。
天賦の才……この世界ではベースアビリティと呼ばれる個人が生まれ持った特異能力が存在する。
いわゆるスキルというモノで、クドの力はその恩恵だと思われる。
予測不可能な相手の動きを読むのは不可能である。
しかし、ガリュウにはその不利を補うレベルの反射速度がある。
くわえて、この全身を包み込む至嘱骸の鎧は命を宿している。
ある種、金属生命体とも言える鎧は意思こそないが、本能的に自身を保護しようとする。
先程の尾での攻撃、スコルピオンスピナーも至嘱骸が独断で動いた結果だった。
「素早いし隙がないな。接近して戦うのは得策ではないか……それなら、テイク・ア・ストレージ! 狂狷乱舞の神槍!!」
右足のつま先だけで立つ姿勢を保持しながらクドは、頭上に腕を伸ばした。
それ合図とし、無数の槍が空間から突出してきた。
瞬く間にグングニルの群れに包囲されガリュウは逃げ場を失った。
神槍の威力はいかほどの物か、知る由もないが……しっかりと闘気でコーティングされている。
「グングニルを語るとは大きく出たものよ。その程度のなまくらで我が身を貫くことができると思ったか!?」
「考え方が古臭いよ、いかにも武人だよなぁ? 戦闘技能は常に進化し続け向上してゆくものだ! 変化がなくなるのことを安定と見る輩もいるが、俺から言わせれば自己満足の一環に過ぎない。求めなければ、何も変わらない……それは技能や文化だけではなく、人の生き方にも直結する」
「ふん! 小僧が哲学を語りおって、貴様のような奴が生き急ぐのだ。変わらないことも、また人の歩みの一つだと知らないようでは、まだまだヒヨッコよ!」
「唸れ! グングニル!!!」
宙に浮かぶ槍の一本一本が横軸に回転すると風を巻き込み悲鳴を上げた。
もはや、槍ではなくドリルと化した刃のミサイルだ。
ガリュウをロックオンすると、それらは即座に撃ち込まれてきた。
「頼んだぞ! 至嘱骸―――アーマードイーターァァア!!」
主の願いを聞き入れ、漆黒の外殻は覚醒した。
所々から、切れ目が浮き出るとすぐに牙を生やした大口が形成されてゆく。
数は少なく見ても二十箇所は下らない。
大口とは文字通り生物の口、この場合は獣の顎と呼んだ方が適切なのかもしれない。
何せ、至嘱骸の口は人外のモノであるのだから。
刃を突き立てる槍に食らいつき噛み砕こうとする生きたる鎧。
双方が接触することで火花を散らし金属同士で削り合っていた。
どちら有利なのか、一概には判別できない。
一身に攻撃を喰らいながらも、ガリュウは薙刀をかざしクドを突き刺そうと前方へ飛び出す。
その動きに合わせたクドが迎え撃つカタチを取り、迫りくる難敵を見据える。
少年の真っ黒な瞳は宝石のように艶やかであるも、どこか悍ましさを感じる。
無機質であるソレは、他者に心の内を見透かされないような濃い色合いをしている。
まるでブラックオニキスのように……。
「取ったぁぁあ!! 臥龍方天戟・時雨咲」
バナーで炙ったような形状をした熱閃光が薙刀の刃先から放出される。
光速で撃ち出される連撃は、やがて大輪の花を形作りクドを襲った。
見た目、美麗でありながらも全てを焼き切る無惨な閃光は狩られる側の命を儚く散らせてゆく。
時雨咲が全部、消えて無くなる頃には血飛沫一つ残らず、対象は消滅している。
ガリュウが誇る奥義であり、最大火力の攻撃だ。
舞い散るはずの時雨の花弁が一つも見当たらない。
瞬間、ガリュウの中で何かが音を立てて崩れてゆく。
息を詰まらせながら、薙刀に目を向けると刃の部分がゴッソリと消えていた。
ほんの数秒前にはあったはずモノが跡形もなく消されていた。
「スティール・ア・ストレージ……」
奪ったのは当然ながら、正面で手をかざしている少年だ。
熱線光ごと、存在を消してしまったのだ……。
いくら、ガリュウが強者であろうと相手が悪すぎた。
いかなる攻撃も無敵を誇る防御もクドの前では役に立たない。
チートとも呼べる、彼の能力に対抗しうる手段を見出せなければ勝算がないのは、長年培ってきた経験から察してしまっていた。
「最強の矛と盾の話を知っているかい? 双方がぶつかり合った時、どちらが残るかという話で両方とも壊れてしまえば最強とは言えなくなるというモノだ」
「矛盾の語源か……確か、異世界人が広めた言葉だったな」
「ああ、異世界の奴らは一つ大きな勘違いをしている。力は強度ではない、強ければ強くなるほど比例して脆くなる性質がある。ゆえに矛盾とは完全無欠の定理、そうは思わないか?」
「理解に苦しむな……それこそカオスとしか言い様がないだろう」
「例えば、誰かが幸せになる度に他の誰か不幸になる。これは合理的なモノなのか? 不幸は増えれば周囲に広まるのに、幸せが広まると不幸になる人々が増加してゆく。世界は常に矛盾をなぞっている。だからこそ、矛盾という言葉で物事を否定するのは現実を拒絶していると同意義だ」
「何が言いたいのだ!? 東の将よ!」
「ガリュウさん、アンタは強くて脆い。俺の能力をチートと見るのは、理解が足りていない証拠だ。タネさえ分かれば対策だって講じられよう! しかしながら、俺は屈強だ……貧弱であったからこそ今の境地に至ったんだ」
天賦の才……この世界ではベースアビリティと呼ばれる個人が生まれ持った特異能力が存在する。
いわゆるスキルというモノで、クドの力はその恩恵だと思われる。
予測不可能な相手の動きを読むのは不可能である。
しかし、ガリュウにはその不利を補うレベルの反射速度がある。
くわえて、この全身を包み込む至嘱骸の鎧は命を宿している。
ある種、金属生命体とも言える鎧は意思こそないが、本能的に自身を保護しようとする。
先程の尾での攻撃、スコルピオンスピナーも至嘱骸が独断で動いた結果だった。
「素早いし隙がないな。接近して戦うのは得策ではないか……それなら、テイク・ア・ストレージ! 狂狷乱舞の神槍!!」
右足のつま先だけで立つ姿勢を保持しながらクドは、頭上に腕を伸ばした。
それ合図とし、無数の槍が空間から突出してきた。
瞬く間にグングニルの群れに包囲されガリュウは逃げ場を失った。
神槍の威力はいかほどの物か、知る由もないが……しっかりと闘気でコーティングされている。
「グングニルを語るとは大きく出たものよ。その程度のなまくらで我が身を貫くことができると思ったか!?」
「考え方が古臭いよ、いかにも武人だよなぁ? 戦闘技能は常に進化し続け向上してゆくものだ! 変化がなくなるのことを安定と見る輩もいるが、俺から言わせれば自己満足の一環に過ぎない。求めなければ、何も変わらない……それは技能や文化だけではなく、人の生き方にも直結する」
「ふん! 小僧が哲学を語りおって、貴様のような奴が生き急ぐのだ。変わらないことも、また人の歩みの一つだと知らないようでは、まだまだヒヨッコよ!」
「唸れ! グングニル!!!」
宙に浮かぶ槍の一本一本が横軸に回転すると風を巻き込み悲鳴を上げた。
もはや、槍ではなくドリルと化した刃のミサイルだ。
ガリュウをロックオンすると、それらは即座に撃ち込まれてきた。
「頼んだぞ! 至嘱骸―――アーマードイーターァァア!!」
主の願いを聞き入れ、漆黒の外殻は覚醒した。
所々から、切れ目が浮き出るとすぐに牙を生やした大口が形成されてゆく。
数は少なく見ても二十箇所は下らない。
大口とは文字通り生物の口、この場合は獣の顎と呼んだ方が適切なのかもしれない。
何せ、至嘱骸の口は人外のモノであるのだから。
刃を突き立てる槍に食らいつき噛み砕こうとする生きたる鎧。
双方が接触することで火花を散らし金属同士で削り合っていた。
どちら有利なのか、一概には判別できない。
一身に攻撃を喰らいながらも、ガリュウは薙刀をかざしクドを突き刺そうと前方へ飛び出す。
その動きに合わせたクドが迎え撃つカタチを取り、迫りくる難敵を見据える。
少年の真っ黒な瞳は宝石のように艶やかであるも、どこか悍ましさを感じる。
無機質であるソレは、他者に心の内を見透かされないような濃い色合いをしている。
まるでブラックオニキスのように……。
「取ったぁぁあ!! 臥龍方天戟・時雨咲」
バナーで炙ったような形状をした熱閃光が薙刀の刃先から放出される。
光速で撃ち出される連撃は、やがて大輪の花を形作りクドを襲った。
見た目、美麗でありながらも全てを焼き切る無惨な閃光は狩られる側の命を儚く散らせてゆく。
時雨咲が全部、消えて無くなる頃には血飛沫一つ残らず、対象は消滅している。
ガリュウが誇る奥義であり、最大火力の攻撃だ。
舞い散るはずの時雨の花弁が一つも見当たらない。
瞬間、ガリュウの中で何かが音を立てて崩れてゆく。
息を詰まらせながら、薙刀に目を向けると刃の部分がゴッソリと消えていた。
ほんの数秒前にはあったはずモノが跡形もなく消されていた。
「スティール・ア・ストレージ……」
奪ったのは当然ながら、正面で手をかざしている少年だ。
熱線光ごと、存在を消してしまったのだ……。
いくら、ガリュウが強者であろうと相手が悪すぎた。
いかなる攻撃も無敵を誇る防御もクドの前では役に立たない。
チートとも呼べる、彼の能力に対抗しうる手段を見出せなければ勝算がないのは、長年培ってきた経験から察してしまっていた。
「最強の矛と盾の話を知っているかい? 双方がぶつかり合った時、どちらが残るかという話で両方とも壊れてしまえば最強とは言えなくなるというモノだ」
「矛盾の語源か……確か、異世界人が広めた言葉だったな」
「ああ、異世界の奴らは一つ大きな勘違いをしている。力は強度ではない、強ければ強くなるほど比例して脆くなる性質がある。ゆえに矛盾とは完全無欠の定理、そうは思わないか?」
「理解に苦しむな……それこそカオスとしか言い様がないだろう」
「例えば、誰かが幸せになる度に他の誰か不幸になる。これは合理的なモノなのか? 不幸は増えれば周囲に広まるのに、幸せが広まると不幸になる人々が増加してゆく。世界は常に矛盾をなぞっている。だからこそ、矛盾という言葉で物事を否定するのは現実を拒絶していると同意義だ」
「何が言いたいのだ!? 東の将よ!」
「ガリュウさん、アンタは強くて脆い。俺の能力をチートと見るのは、理解が足りていない証拠だ。タネさえ分かれば対策だって講じられよう! しかしながら、俺は屈強だ……貧弱であったからこそ今の境地に至ったんだ」
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