異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百九話

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 悪魔は何処にでも潜む。
 特に人の心の弱った部分が好みのようだ。
 かつて自身をも、むしばんでいた負の感情……それを思い出す度に、ギデオンは口元を嚙みしめる。
 行き着くトコロまでいけば、ガイサイのように人の皮をかぶった悪鬼となる。

「誰かを傷つけ苦しめて楽しいか? 王子様」

「つっ……愚問ですね! これ以上の楽しみが他にあるというのかぁぁあ!?」

 左右アンバランスな歪んだ顔つきは、決して芝居などではない。
 本心からそう思い、同意しない者に対しては徹底してこき下ろす。
 それは心の自由を奪う、脅迫観念の押し付けという見えざる暴力だった。

 こんなモノになるまで堕ちなくて良かったとギデオンは強く思った。

「貴公は、余を愚か者だと言いましたね? 本当に愚かなのは、貴公の方ではないのですか?」

「どうでもいい話だ。さっさと終わらせてやる」

「笑止! カモになったのは貴様の方ですよ!! この辺り一帯には百を超える兵を忍ばせておいた。出て来い、ヒューズ!!」

 ガイサイの叫びがこだました。されど、返ってくるはずの返事がこない。

「ヒューズよ! サボってないで出て来なさい!! ほら、兵士どもも余を助けにこぬかぁあああ―――――」

「来ないぞ。僕の相棒がアイツらを追いかけ回しているからな」

 それまで余裕をみせていた王子の表情が固まった。
 コイツ、何を言っているんだとでも言いた気な顔をしているが、ギデオンの言葉に嘘偽りはない。
 現にヒューズとよばれる敵将は兵士たちとともにスコルの奇襲を受けていた。
 予想だにしなかった空からの攻撃に、東軍隠密部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うしかなかった。
 もし、彼らに王子に対する忠義の心があれば誰かしら、その場で留まっただろう。

 しかし、普段から横暴な態度を見せるガイサイを敬い慕うものなど一人もいない。
 身から出た錆とは、まさにこのことである。
 完全に孤立した中で、悪魔はどうでるか?

「余の負けか。素直に敗北を認めましょう……満願から兵たちを撤退させますので、ここは一つ穏便にいこうじゃありませんか?」

「舐め腐っているのか? 全部、嘘だろう」

「ぷっ……フフフッ、アヒャハッハッハァ――――!!! そうだよ! 善人のくせに騙されないのか……つまらん奴めぇぇ!」

「笑っているじゃないか? つくづく、可笑しなことを言う奴だ」

「一々、揚げ足取りすんじゃねぇぇええ―――――!!」

 わめき散らすガイサイが、脇目も振らずに首狩り鎌を拾いに走る。
 ひょっとして練功が使えないのか? とギデオンは勘ぐったがそうではなかった。
 ガイサイの全身からほとばしる闘気塊は、並大抵のものではない。
 それこそ、その身が耐え得るか怪しいほどに荒れ狂っている。
 体質なのか知らないが、あれでは練功を使おうにもコントロールが利かないだろう。

 闘気を扱うには直接、何かしらのを介さないといけない。
 相手の狙いに気づいたギデオンが見逃すわけもなかった。
 すぐさま、進路を塞ぐと練功武装した剣をかざす。

「のけっぇえいいいい! そんな軟な刃が余に通じるとでも思うったかぁ」

 闘気の剣が一閃を放つ。
 それでも、なおガイサイが引くことはなかった。
 ギデオンの攻撃を真正面から受けると、剣を粉々に打ち砕いてしまった……。

「なんて分厚い、硬壁なんだ!」

 驚愕する少年の背後で首狩り鎌がゆっくりと持ち上げられた。
 強者弱者の問題ではない……ガイサイの強みはデタラメに尖った能力だ。
 武器を併用することで本領発揮するタイプ。
 それは想像を超えるほどの厄介な存在となる。

「ブッコロス! ブッコワス!」

 鎌の長い柄を無造作に振り回し、地面に叩き込んだ。
 凄まじい衝撃音と同時に、漆黒の闘気が鎌の延長線上まで達した。
 咄嗟に身体を反転させ回避するも、ギデオンの勘は直撃を喰らうのは危ういと告げていた。

「属性練功、いや……違う。お前のその闘気は――――」

「余の物ではない。これは首狩り鎌が今まで、狩ってきた命の怨念なのです!」

「そうか、この既視感は妖刀の類か……お前、魅入られたなっ! いや、すでに人格自体が乗っ取られているのか!?」

「そんな些末なことを気にしているようでは、まだまだですよ」

 ようやく持って、この異常な闘気の正体が判明した。
 ガイサイを強化している力、それは呪具と化した首狩り鎌から供給されているものだった。
 だからこそ、肉体が過剰な闘気によって拒絶反応を起こし暴走していたのだ。
 本体である鎌が必要不可欠な理由もそこにある。
 そうと分かれば、あの悪魔の鎌を真っ先に破壊しないといけない。  
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