異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百八話

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 絶望の淵を垣間見て、少年は南都へとやってきた……。
 翼龍バハムートとなったスコルの背に乗り、超高速で満願を目指した。
 道中、何度も火の手があがっているのを確認した。
 侵略され燃やされた村、そこに人の影はまったく見当たらなかった。
 異様な臭いが風乗って漂ってくる。
 嗅いだだけで、吐き気をもよおしてしまいそうな悪臭に同行していた少女たちは、咳込んでいた。

 地上に降りて生存者を確かめることはできなかった。
 敵軍の姿が見えなないことから既に、手遅れだと分かる。
 それに現状は一刻の予断を許さない。
 満願が東軍によって陥落してしまえば、もうどうにもならない。
 それが意味するところは、ガリュウの死か、降伏だからだ。

 いくら救援に向かっても、南の民全員を人質に取られては身動きなど取れない。
 みすみす捕まりに行くような馬鹿な真似はできない。
 だからこそ、先を急ぐ。
 これで終わらないように、最善を尽くす。

「ギデ殿、私はここで降ります。対空火砲キンタクが作動しなかったことも気になりますし、一刻も早くガリュウ様に現状報告しないと。幸い、この監視塔から直接、ガリュウ様がいる城に向かえますので」

 パスバインの申し出もあり、監視塔へとスコルを近づけた。
 警備の任にあたる兵士たちも突然の来訪者に腰を抜かしていた。
 パスバインが手を振ると、彼らは慌てて起き上がり彼女を迎えた。

「私たちも彼女に同行させて貰うわ。西の処遇についてガリュウ殿と、話をつけたいから……ギデ君はどうするの?」

「取り敢えず、正門の様子と街中を探ってみることにするよ」

「そう、なら後で城の前で落ち合いましょう。アゲット行くわよ!」

「ほいな! 姫さま」

 カナッペは付き人としてアゲットを連れてきた。
 流石に一国の姫を一人で敵地に送るわけにもいかないという、西域の者たちのせめてもの配慮である。
 交渉という呈でフキ姫として南へとやってきたカナッペだが、南に敗北した西は、どうやっても分が悪い。
 アゲットを人選したのは、正解だ。
 万が一、何か不足事態に陥っても双子の妹なら窮地を脱することができるからだ。

 三人を見送り、ギデオンは都入口へと移動した。
 ひとまず、都周辺で異常が発生していないかチェックしていた。
 その時、偶然にも正門前でのたうち回る人影を発見した。
 何事かと、すぐさま地上に降りたものの、まさか……そこにいたのが、ドルゲニアの第一王子だとは露程も思っていなかった。
 ギデオンにとっては、完全にイレギュラーな事態ではあるが、東軍の大将にあたるガイサイを発見できたことは大きい。
 この男を捕まれば、東の進行は食い止められる。
 大将自らが、攻め込んでくるのは愚か者の極みでもある。
 絶対に負けないという根拠がなければ、王子である彼が戦場に立つことは、まず許されない。
 それを無視しているのだ……救いようのないほど身勝手な男と言えよう。

「あ――、イテェェェェ!! こんな硬いものを投げて返すとかありえませんよ? フツー」

「馬鹿を騙せるのには丁度いいだろう? 大将が、敵陣で単独行動するとは正気を疑うぞ」

「ふっ!! それは貴公もだろう。北の候補者よ」

「悪いが、僕は貴様のようにやりたい放題に動いているわけじゃない。足りていない人数を補うべく、ここに来たんだ」

「ならば、残念。互いに分かり合えないですね……余がここにいるのは不浄なる者を自らの手で裁くため、そのためには危険を承知で対峙しなければならない事だってある。王自らが罪人を始末しなければ、ドルゲニアの民にしめしがつかぬ、そういうわけです」

 もっともらしい言葉を並べるガイサイに、止めろとは決して言わない。
 そう述べたトコロで、この男には通じない。
 ギデオンはよく分かっていた、このゲスな王子がわざわざ自ら出向く真意を……。
 受け入れがたいことだが、こうした輩は一定数存在する。

「王としての振る舞いだと言うのか……鏡を見たらどうなんだ!! お前のその顔は人殺しのソレだ!」

 反論をうけたガイサイは否定するどころか、口角を拡げてニヤケていた。
 彼が戦場に率先して赴く理由はただ一つ。
 気兼ねなく、生殺与奪ができるからである。
 他者の悲鳴こそ、この世でもっとも美しい音色。命乞いをする者をなぶるのは、とても気分がいい。
 人は皆、命を賭して戦うからこそ一番、輝いて見える。
 この世界のありとあらゆる苦悩や穢れ、悪意や憎悪は人の中にがいるからである。
 ソイツらが悪さをし国や民をを狂わせる元凶となる。
 よって、害虫は駆逐しなければならない。

 何を証拠にそう思い始めたのか誰も知らない。
 だが、ガイサイにとってはそれこそが正しき世界の解であり、自身の心を満たす不変の価値観だった。
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