異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百七話

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 オッドに死の影が迫っていた。
 手負いの状態でどうにかできるほどの余力は残されていない。
 瀕死の最中、彼は自分のことよりもウネをどう逃がせばいいのか?
 それだけを考えていた。
 故郷の弟たちや妹の面倒を今まで見てきたオッドにとってはそれが当然であった。

 異形の武器を構えるドルゲニアの第一王子。
 王子というからには、軟弱で温室育ちいったイメージが強いが、ガイサイは違う。
 顔立ちは優男だが、引き締まった肉体は相当に鍛え上げている証だ。
 手にたずさえた獲物は鎌というよりは、杖に近い形状をしている。
 それを裏づけるように王子は棒術を扱う技術が卓越している。
 ハルバードを使いこなしていたオッドには、その実力がハッキリと感じ取れていた。
 苦戦必至になるのは否めない。

「不意打ちとは、また姑息な方法を取りやがって……」

「単純に隙がある奴が悪いのですよ。つまらない善意のせいで不幸のどん底……どうです? これを機に、己の欲望を解放してみては、きっと今まで見えなかった素晴らしい景色が拡がるはず……」

「るせーんだよ……つまらないなんて勝手に決めつけんなよ。大事なのはどうするかじゃなくて……どうしたいかだろう? 一生懸命やって何が悪いん……だ。生き方まで、縛られる人生に何の意味が――――くっ、あるんだぁああ!!」

「くはっ! 驚いたぞ! 獣身化か……大陸の最南端にそうした力を持つ一族がいると聞いてはいたが、本当に我々と似ているな。デビルシードのような、まがい物とは大違いだ」

 グリフォンに変化し、生命力を高める。傷口の深さは変わらないが、グリフォンが持つ治癒力のおかげで、どうにか止血することはできた。
 オッドの姿にガイサイはニチャニチャとほくそ笑みながら「そのサイズでは、首が狩れないな」と呟いていた。
 はっきりと言ってガイサイが何を求めているのか判断がつかない。
 正当性のない、ゲスであることには違いないが……その思想は、どこに行き着こうしているのか? オッドにはまったく見当もつかない。

「ヤッハハハァ―――!! 気に入らない眼だ! まずは顔面に一撃入れてやろう」

 長物の首狩り鎌を持ちながら、水平方向に振りかざす。
 そこからのガイサイの動きには目を見張るものがあった。
 自分の背丈はある武器を軽々と振り回すと遠心力を利用して自身を投げ飛ばしてきた。
 その際、首狩り鎌を素手から離さないといけない。
 が、地面に叩きつけた時の反発力を利用し、ガイサイの後を追うように飛んで来る。
 縦方向に回転し、飛び出してきたソレを再度、手にするとオッドの頭上を狙い一気に殴りかかる。

「ぐわっあああ!」先に悲鳴を上げたのはオッドではなく、ガイサイのほうだった。
 巨大な花のつぼみが、どこからともなく出現し花粉をまき散らす。
 ガイサイは目に強烈な痒みを覚え、せきこんでいた。

「でかしたぞ、ウネ」

 敵が行動不能に陥った僅かなを好機。
 オッドは迷わずに前足(腕部)の爪を立てて飛びかかった。
 空を切る爪、満身創痍の一撃は後数ミリのところで避けられしまった。
 しかし、オッドの狙いはそこではない。
 首狩り鎌の柄をつかむと奪い取ってみせた。

「き、貴様ぁぁぁああ!! 不敬であるぞ!」

 激しく抵抗されたため、鎌を落としてしまった。
 だが、今のガイサイでは拾い上げることもままならない状態だ。
 そのまま、オッドはウネを背に乗せると都の中へと走り去っていった。
 逃げ出すという選択よりも、今はこの窮地をガリュウや満願の皆に知らせる。
 彼は自分が何を優先するべきか、よく理解していた。
 ルヴィウス勇士学校の生徒として学んだことは、オッドの中でしっかりと根付いていた。

「あの野郎……殺す! 八つ裂きにして鳥の餌にしてやるぅぅぅ!」

「随分と騒がしいな。あんまり、ギャアギャア叫ぶと襲撃の意味がなくなるぞ」

「だ、誰ぞ!? さっきの小僧とは、プラーナが桁違いだ。まさか……ヘイガンの私兵か?」

「違うが? あの野菜頭の部下になった記憶は、一瞬たりともないぞ」

 腫れ上がった目元を押えながらドルゲニアの第一王子は薄っすらと目蓋を開いた。
 その先にいるのは妙に綺麗な顔立ちをした色白の少年だった。
 燃え盛るような煌めく蒼い闘気を全身にまとわせ、その手に純白のライフルを握っている。

「ならば我が軍の傭兵か? ヒューズの奴また勝手に……まあ、いい。とにかく、余を助けろ! これは王子としての命だ!!」

「ああ、そっか。お前がこの騒ぎの首謀者か。分かったよ、助けてやる」

「おおっ、そうか。ならば、そこに転がっている鎌を取ってくれ」

「この杖か、そらよ!」

 首狩り鎌の先端の輪がガイサイのコメカミに直撃した。
 容赦なく飛んできた自身の獲物。こともあろうか、少年は手渡すのではなく直接、投げつけてきた。
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