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三百六話
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少し離れた場所から、凄まじい量のプラーナを感じた。
おそらくは師匠であるカイが、東軍と一戦交えているのだろう。
加勢したい気持ちが先走りオッドは妙にソワソワしている。
「気が散るから邪魔をするな!」と釘を刺されていたからこそ、こうして耐えている。
……が折角、新しい力を授かったのに実戦で試すことができないのは、もどかしい。
蛇の生殺しのようになっていたが、はやりカイの方へは行けない。
ウネが、満願の方が気になると触覚をレーダーのようにピンと張り詰めていた。
まだ、敵の一部隊しか南域には侵入していないはずだと、オッドは誤認していた。
珍しくウネが騒ぐので戻ることに決めたが、後ろ髪を引かれるのは、依然として変わらない。
とにかく、今は都の警固をしよう、そうすれば気が楽になる。
オッドは道を急いだ。都は現在ガリュウ守護代によって守られている。
言うまでもなく、蟻んこ一匹通さないほどの厳戒態勢が敷かれている。
「――――そこを何とか……都の中には病に苦しむ孫が下ります故……この薬草を届けないと」
「そう言われても……なぁ~? 悪いけど、手形を持っていない人間を都の中へと入れることはできない決まりとなっているから、当面は辛抱してくれよ」
満願への入り口にあたる正門が何やら騒がしい。
薄汚れた身なりをした山菜取りの老人が、手形も持たずに中へと進もうとし門番と言い争っていた。
「手形ぐらいいいじゃないか」そう言ってあげたいのも山々なのだが、東軍の魔の手が忍び寄っている今、オッドも下手なことを口走れない。
「だったら、代わりに俺が薬草を届けてやるよ。爺さんの孫の家は何処にあるんだい?」
出来ることと言えば、この程度のお使いぐらいだ。
お人好し過ぎるかもしれないが、困ったときはお互い様とも言う。
それに理由が理由なのだ……知らん顔して通れるほど、オッドは情を割り切ってゆけなかった。
「本当ですか……!? それなら、是非にお願いしますだ」
老人はオッドを手を握りながら何度も頭を下げ感謝を述べた。
本当にうれしそうだ、はち切れんばかり笑顔で目を細めている。
「オッド! 逃げてぇぇええ!!」
「へぇ……! あっぁああ!!」
腹部がやけに熱を帯びていた。ウネの叫び声で異常に気付いたオッドが老人の方を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
オッドの脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。
切り傷よりも刺し傷の方が致命傷になるリスクは大きい。なぜならば、場所によっては内臓を損傷してしまうことがある。
オッドの場合はかなり深く刺された。肉体の損傷以前に出血が酷い。
着流しがすぐに血で湿ると、ボタボタと地面に血が流れ落ちてゆく。
「じ、ジジィ! お前は……」
「くっひゃやあああああ――――!! 調子に乗って人助けしようとしたのが仇になったなぁ。ゴミカスよ、貴様が向かうのは地獄のみだ。せめてもの情けに、今すぐ楽にしてやるぅぅぅ!!」
先程まで大人しくなった老人が豹変した。
変わったのは口調や性格だけではなく、その容姿も変化してゆく。
しゃがれ声は、ハツラツとしたものとなり、皮膚のたるみやシワが消え、張りのある素肌に変わってゆく。
縮んでいた背丈が伸びて、やつれた全身が膨張し、肉づきの良いガタイとなった。
「くせ者め!! 東軍の間者か、貴様!?」
突如として現れた青年に門番の二人も長槍を手にとらずにはいかなかった。
もはや、老人ではなく若々しく力溢れる姿に畏怖すら覚える。
「余の邪魔をするとは、極刑だ」
男が手にした杖には、先端に輪っか状の大きな刃をついていた。
そのリングを門番の一人の首にひっかけ、杖を振り払う。
刹那、門番の首が飛んだ……あまりにも異質で凄惨な方法を用いて門番たちを仕留めてゆく。
男の常軌を脱した冷酷無情、残忍な行いは、周囲に鮮烈的な衝撃を与えた。
その手に携える杖の名は首狩り鎌と呼ばれる処刑器具だ。
見かけ騙しなどではなく、殺傷能力に優れた器具が屈みこんだままのオッドに差し向けられる。
すると、細長い緑の蔦が高速で飛び出て、男の行く手を遮った。
「あっと! 危うく串刺しにされる所でしたよ。魔人か……面倒なモノを引き連れている」
「オマエ、キライ!! オッドをキズつけた!!」
「んあ? オマエ呼びとは恐れいった。所詮、ゴミはゴミか……いいか! よく聞け愚民ども。余の名はガイサイ。ドルゲニアの第一王子、ガイサイ=レグ=ドルゲニアだ!! 余の名を称え、そしてくたばるがいい」
暴君の声が、満願の空へと響き渡った。
おそらくは師匠であるカイが、東軍と一戦交えているのだろう。
加勢したい気持ちが先走りオッドは妙にソワソワしている。
「気が散るから邪魔をするな!」と釘を刺されていたからこそ、こうして耐えている。
……が折角、新しい力を授かったのに実戦で試すことができないのは、もどかしい。
蛇の生殺しのようになっていたが、はやりカイの方へは行けない。
ウネが、満願の方が気になると触覚をレーダーのようにピンと張り詰めていた。
まだ、敵の一部隊しか南域には侵入していないはずだと、オッドは誤認していた。
珍しくウネが騒ぐので戻ることに決めたが、後ろ髪を引かれるのは、依然として変わらない。
とにかく、今は都の警固をしよう、そうすれば気が楽になる。
オッドは道を急いだ。都は現在ガリュウ守護代によって守られている。
言うまでもなく、蟻んこ一匹通さないほどの厳戒態勢が敷かれている。
「――――そこを何とか……都の中には病に苦しむ孫が下ります故……この薬草を届けないと」
「そう言われても……なぁ~? 悪いけど、手形を持っていない人間を都の中へと入れることはできない決まりとなっているから、当面は辛抱してくれよ」
満願への入り口にあたる正門が何やら騒がしい。
薄汚れた身なりをした山菜取りの老人が、手形も持たずに中へと進もうとし門番と言い争っていた。
「手形ぐらいいいじゃないか」そう言ってあげたいのも山々なのだが、東軍の魔の手が忍び寄っている今、オッドも下手なことを口走れない。
「だったら、代わりに俺が薬草を届けてやるよ。爺さんの孫の家は何処にあるんだい?」
出来ることと言えば、この程度のお使いぐらいだ。
お人好し過ぎるかもしれないが、困ったときはお互い様とも言う。
それに理由が理由なのだ……知らん顔して通れるほど、オッドは情を割り切ってゆけなかった。
「本当ですか……!? それなら、是非にお願いしますだ」
老人はオッドを手を握りながら何度も頭を下げ感謝を述べた。
本当にうれしそうだ、はち切れんばかり笑顔で目を細めている。
「オッド! 逃げてぇぇええ!!」
「へぇ……! あっぁああ!!」
腹部がやけに熱を帯びていた。ウネの叫び声で異常に気付いたオッドが老人の方を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
オッドの脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。
切り傷よりも刺し傷の方が致命傷になるリスクは大きい。なぜならば、場所によっては内臓を損傷してしまうことがある。
オッドの場合はかなり深く刺された。肉体の損傷以前に出血が酷い。
着流しがすぐに血で湿ると、ボタボタと地面に血が流れ落ちてゆく。
「じ、ジジィ! お前は……」
「くっひゃやあああああ――――!! 調子に乗って人助けしようとしたのが仇になったなぁ。ゴミカスよ、貴様が向かうのは地獄のみだ。せめてもの情けに、今すぐ楽にしてやるぅぅぅ!!」
先程まで大人しくなった老人が豹変した。
変わったのは口調や性格だけではなく、その容姿も変化してゆく。
しゃがれ声は、ハツラツとしたものとなり、皮膚のたるみやシワが消え、張りのある素肌に変わってゆく。
縮んでいた背丈が伸びて、やつれた全身が膨張し、肉づきの良いガタイとなった。
「くせ者め!! 東軍の間者か、貴様!?」
突如として現れた青年に門番の二人も長槍を手にとらずにはいかなかった。
もはや、老人ではなく若々しく力溢れる姿に畏怖すら覚える。
「余の邪魔をするとは、極刑だ」
男が手にした杖には、先端に輪っか状の大きな刃をついていた。
そのリングを門番の一人の首にひっかけ、杖を振り払う。
刹那、門番の首が飛んだ……あまりにも異質で凄惨な方法を用いて門番たちを仕留めてゆく。
男の常軌を脱した冷酷無情、残忍な行いは、周囲に鮮烈的な衝撃を与えた。
その手に携える杖の名は首狩り鎌と呼ばれる処刑器具だ。
見かけ騙しなどではなく、殺傷能力に優れた器具が屈みこんだままのオッドに差し向けられる。
すると、細長い緑の蔦が高速で飛び出て、男の行く手を遮った。
「あっと! 危うく串刺しにされる所でしたよ。魔人か……面倒なモノを引き連れている」
「オマエ、キライ!! オッドをキズつけた!!」
「んあ? オマエ呼びとは恐れいった。所詮、ゴミはゴミか……いいか! よく聞け愚民ども。余の名はガイサイ。ドルゲニアの第一王子、ガイサイ=レグ=ドルゲニアだ!! 余の名を称え、そしてくたばるがいい」
暴君の声が、満願の空へと響き渡った。
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