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三百四話
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自らの身を盾にする兵士たちは常軌を逸しているとしか思えなかった。
鬼火の爆撃が直撃するも物ともせず、チルルを守ることに徹していた。
それもそのはず、彼らに意識というものはない。
チルルの踊りに魅了された者は、彼女の傀儡となるだけである。
皮膚が裂け血飛沫が舞う、肉片をまき散らしても悲鳴すら上げない。
兵士たちが死ぬことは決してない。
何故なら、これは痛覚のみにダメージを送る幻影なのだから。
ただし、無傷であっても痛みがあるのは確かである。
常人なら、苦痛に耐え兼ねて失神してしまうが今の、兵士たちは狂人だ。
すべての感覚がマヒしている者を相手にするのはカイにとっては、一番イヤな戦い方である。
「クソタレめ、拉致があかん。直接、練功を叩き込むべきか……」
次の一手を決め兼ねるカイ、そこへ鋭い視線が突き刺さる。
「見つけたぞ。もう隠れんぼは終わりだよ」
薄らと口元を歪めながら、チルルは囲いとなっていた兵士の一人を蹴り飛ばした。
丁度、その先には幻影に身を潜めていたカイがいた。
「流転!!」
身体を逆、くの字にした兵士が凄まじい勢いで飛んで来る。
それを腕の捌きだけで、別方向へと押し流し威力を殺し切る。
練功の防御技、流転。扱うには見切りの良さと鋭い反射神経が必要だ。
「うん、邪魔な幻覚が消え去った」
一瞬、手が塞がったことでカイの術は解けてしまった。
その僅かな隙をチルルは見逃さない。
人形たちをどかし、軽やかに宙で舞い踊る。
踊れば踊るほどにチルルの魔力は増幅してゆく。
小柄な体格から繰り出される跳び蹴りは、信じられないことに地面に大穴を開けてしまうほどの威力を持っていた。
「ヤバッ……鼻水が出た。ありえねぇーだろ、あの破壊力は!!」
「タンデム・バンデムという。チルルの踊りからは何人たりとも逃げられない。オッちゃんも塵一つ残さずに始末してあげる」
「結構だ! 間に合っているわ!! それじゃあまたな!」
勢い任せにカイは逃走しだした。
何か策を巡らせているわけでもなく、本気で手詰まりだと感じていた。
「練功! 光彩吸収」
今度は自分を照らす光を、その身に吸い込み視覚から消える気を身体全体にまとう。
これにより、敵はカイの姿を見失う。
見えなくなっている間に、その場から離れ安全な場所へと移動する。
それで今まで、どうにかできなかったことは無い。
額にびっしりと汗を流しながら、カイは急に立ち止まった。
顔の数センチ先にチルルが脚が待ち構えている。
かなり遠くまで逃げてきたにも関わらず、結局はチルルを振り切ることはできなかった。
恐ろしいほどには早く移動し、まったくもってスタミナを消耗していない。
「ここまで来る間、ずっと踊ってきた。おかげで魔力は十二分に補充された」
「へぇー、そうかい。なら、そのエネルギーは大切に使わないといけないな」
「充分、役に立つ。幽玄導師のオッちゃんはここでサヨウナラだ。死死死死死死死死死~」
不気味な笑い方をしながら、チルルの手がカイの腕に触れた。
途端、全身に言い様のない激痛が走り、カイの顔は苦痛で歪む。
「ぐぅおおあおああああ――――!! あああああがあああ―――!」
身体がバラけてしまいそうになるほどの衝撃がカイを襲ってきた。
全身の血という血が、吹き出し絶望の淵へとカイは誘われてゆく。
「なんだ、呆気なかったな。三大導師というからにはもっと手強いのかと思ったぞ」
羽衣の先についた鈴玉をチャリンと鳴らしながら、チルルは背を向けた。
「あとは、六鬼衆ぐらいか……チルルが倒して良い奴は。ん?」
歩き出そうするの足下が石のように重く動かない。
どれだけ力を込めても、魔力を駆使して移動を試みようとも、金縛りにでもあったかのように身体が微動打にしない。
「くっ、ふははぁあっははあ―――! ざまぁ~、ねぇな。迂闊に俺と向かい合ってタダで済まされるわけがない。相手を見誤ったな、お嬢ちゃん」
「何も変わらない。ただ、オッちゃんを葬るのに、もう一発、必要になっただけだ」
練功の呪縛を自力で払いのけるチルル。
彼女の大進撃を阻止しようと、躍起になっても止める算段などどこにもない。
朦朧とする意識のの中で、カイは覚悟を決めた。
次の攻撃で決着をつけると。
鬼火の爆撃が直撃するも物ともせず、チルルを守ることに徹していた。
それもそのはず、彼らに意識というものはない。
チルルの踊りに魅了された者は、彼女の傀儡となるだけである。
皮膚が裂け血飛沫が舞う、肉片をまき散らしても悲鳴すら上げない。
兵士たちが死ぬことは決してない。
何故なら、これは痛覚のみにダメージを送る幻影なのだから。
ただし、無傷であっても痛みがあるのは確かである。
常人なら、苦痛に耐え兼ねて失神してしまうが今の、兵士たちは狂人だ。
すべての感覚がマヒしている者を相手にするのはカイにとっては、一番イヤな戦い方である。
「クソタレめ、拉致があかん。直接、練功を叩き込むべきか……」
次の一手を決め兼ねるカイ、そこへ鋭い視線が突き刺さる。
「見つけたぞ。もう隠れんぼは終わりだよ」
薄らと口元を歪めながら、チルルは囲いとなっていた兵士の一人を蹴り飛ばした。
丁度、その先には幻影に身を潜めていたカイがいた。
「流転!!」
身体を逆、くの字にした兵士が凄まじい勢いで飛んで来る。
それを腕の捌きだけで、別方向へと押し流し威力を殺し切る。
練功の防御技、流転。扱うには見切りの良さと鋭い反射神経が必要だ。
「うん、邪魔な幻覚が消え去った」
一瞬、手が塞がったことでカイの術は解けてしまった。
その僅かな隙をチルルは見逃さない。
人形たちをどかし、軽やかに宙で舞い踊る。
踊れば踊るほどにチルルの魔力は増幅してゆく。
小柄な体格から繰り出される跳び蹴りは、信じられないことに地面に大穴を開けてしまうほどの威力を持っていた。
「ヤバッ……鼻水が出た。ありえねぇーだろ、あの破壊力は!!」
「タンデム・バンデムという。チルルの踊りからは何人たりとも逃げられない。オッちゃんも塵一つ残さずに始末してあげる」
「結構だ! 間に合っているわ!! それじゃあまたな!」
勢い任せにカイは逃走しだした。
何か策を巡らせているわけでもなく、本気で手詰まりだと感じていた。
「練功! 光彩吸収」
今度は自分を照らす光を、その身に吸い込み視覚から消える気を身体全体にまとう。
これにより、敵はカイの姿を見失う。
見えなくなっている間に、その場から離れ安全な場所へと移動する。
それで今まで、どうにかできなかったことは無い。
額にびっしりと汗を流しながら、カイは急に立ち止まった。
顔の数センチ先にチルルが脚が待ち構えている。
かなり遠くまで逃げてきたにも関わらず、結局はチルルを振り切ることはできなかった。
恐ろしいほどには早く移動し、まったくもってスタミナを消耗していない。
「ここまで来る間、ずっと踊ってきた。おかげで魔力は十二分に補充された」
「へぇー、そうかい。なら、そのエネルギーは大切に使わないといけないな」
「充分、役に立つ。幽玄導師のオッちゃんはここでサヨウナラだ。死死死死死死死死死~」
不気味な笑い方をしながら、チルルの手がカイの腕に触れた。
途端、全身に言い様のない激痛が走り、カイの顔は苦痛で歪む。
「ぐぅおおあおああああ――――!! あああああがあああ―――!」
身体がバラけてしまいそうになるほどの衝撃がカイを襲ってきた。
全身の血という血が、吹き出し絶望の淵へとカイは誘われてゆく。
「なんだ、呆気なかったな。三大導師というからにはもっと手強いのかと思ったぞ」
羽衣の先についた鈴玉をチャリンと鳴らしながら、チルルは背を向けた。
「あとは、六鬼衆ぐらいか……チルルが倒して良い奴は。ん?」
歩き出そうするの足下が石のように重く動かない。
どれだけ力を込めても、魔力を駆使して移動を試みようとも、金縛りにでもあったかのように身体が微動打にしない。
「くっ、ふははぁあっははあ―――! ざまぁ~、ねぇな。迂闊に俺と向かい合ってタダで済まされるわけがない。相手を見誤ったな、お嬢ちゃん」
「何も変わらない。ただ、オッちゃんを葬るのに、もう一発、必要になっただけだ」
練功の呪縛を自力で払いのけるチルル。
彼女の大進撃を阻止しようと、躍起になっても止める算段などどこにもない。
朦朧とする意識のの中で、カイは覚悟を決めた。
次の攻撃で決着をつけると。
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