異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百二話

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「俺について来い」そうカイに言われ叩き起こされたオッドは満願の近隣のバァルクダ高地に立っていた。
 自分がどうしてここにいるのか? 理由も分からないまま朝焼けを眺め、大アクビする。
 隣にいるウネも朝日を浴びながら葉の触覚をピンと立てていた。

「んで、師匠。ここに来て何すんの? 来いと言われたからきたけれどよ」

 着流しの下にはいたズボン位置を直しながら、オッドはカイに質問した。
 答えが返ってくることなど、ほとんどないのは知っている。
 オッド、曰くだそうだ。
 何事もまずカタチから入る、それが新しいスキルを身につけるコツだと彼は信じている。
 それと同様、たわいもない会話の中でも手順はしっかりと踏む。
 そうでもしないと先には進まないことを彼はそれと無く感じ取っていた。

 オッドからすれば当たり前のこと。
 他者からすれば当たり前すぎること。

 この違いこそが、幽玄導師にとっては必要不可欠なものだ。
 決して口にはしないが、自分を真似て練功するオッドにカイは可能性を見出していた。
 要するにカイの練功は、通常の物とはまったく異なるということだ。
 希少すぎて、今まで彼以外に扱える人間は存在しなかった。

「今から、お前に東軍の進行を食い止めてもらう」

「はぁ?」

「今から、お前に東軍の――――――「いや、聞こえているわ!!」

 珍しく答えたと思ったら、意味不明な指示が出てきた。

「何かの罰ゲームか?」

「かもしれんな……フッ」

 念のため、カイの反応を探ってみたが本気で言っているらしい。
 オッドは生唾を飲み込んだ。
 ここに来たということは、敵対する軍勢がここを通るということ……。
 自身のハルバードは、最初の襲撃時に紛失したままだ。
 練功で応戦するしかないが、どの道、勝ち目などはない。


「師匠がやればいいじゃないか? 俺なんかよりも確実だろう?」

「無理だな、人手が足りない。お前に任せたのは、ほんの一部だ! 俺は俺で別動隊を相手にしなくてはならん」

「しくじったら、どうすんだよ?」

「どうもこうも、お前がガイサイ軍に追いかけ回されるだけだ」

 あっけらかんと言い放ち、カイはその場から去っていった。
 残されたオッドは、やることもなくその場で座り込んでいた。

「オッド、向こうのほうから敵がくる!」

 いつの間にか、眠りこけていた。
 着流しの袖をウネに引っ張られてオッドは目を覚ました。
 少し離れた空から朝日を背に飛竜のシルエットが見える。
 しかも少数ではない。かなりの大所帯だ。

「あんなの相手にできるかよ! 話が全然違うじゃんかよ」

 オッドはウネを抱えて、バァルクダ高原を去ろうとした。
 しかし後ろ振り向けば満願の都がすぐそこに見える。
 ここで逃げても結局は同じ、戦わなければ敵軍に奪われるだけだ。

「くっそぉぉぉぉぉ!」

 苦渋の決断だが、東軍を迎え撃つしかない。
 つい先日、師から教わった奥義がある。
 両脚を肩幅ぐらいに開き、握りしめた拳を腰骨の位置に持ってくる。
 慌ててはいけない。深く深く、さらに深く息を吸い込んでゆく。
 全身に気が流れているのを感じつつ、眉間に気を溜め込んでゆく。
 属性持ちの闘気ではなく、誰もが持っている生命力の象徴。
 その純度を極限までに高め、プラーナから超純粋のトゥーラへと変化させる。

 混じりけのない気は自然界には存在しない。
 誰かが加工しなければ生み出すのは容易ではない。
 なぜなら、それは生命にとって有害なモノであるからだ。
 オッド自身は、狙った場所へと気を放出しているだけなので影響を受けににくいが、それでも取り扱う際には注意がいる。
 狼煙のろしのように立ち昇る超純粋の気は、まるで獲物を持ち構え首をもたげている龍のようである。
 トゥーラは風に乗って、どんどん空へ溶け込んでゆく。

 カイはこれを不透明な悪魔と呼んでいた。
 知らない内にこれを浴びると意識障害が起こる。
 眩暈や頭痛、酷ければ幻覚まで見るという。

「出来る限りのことはやった。後は、結果が出るのを待つのみだ!」

 そう言いながら、オッドは気を練り続けた。
 この技の弱点は絶えず放出していなければ、効果が薄まるということ。
 その性質ゆえに、この場所から彼は一歩も動くことができない。
 失敗すれば、その身を危険にさらすリスクが大きい。
 それでも、やる価値はある。この能力がハマりさえすれば、それだけで無敵の防御網となる。

 先陣を切る耀龍レクタンライドが鳴き声を上げた。
 その直後、フラフラになりながら急に失速して降下し始めた。
 後続の飛竜たちも同様に、不調をきたし、意識を失い落下する竜までもいた。

「ぐううっ……ど、どうだ! 上手くいったのか!?」

 全身から汗を噴き出し、オッドは息を切らせていた。
 極度の緊張感に耐えうる忍耐力と求められる集中力は、多少、訓練した所で身に着くものではない。
 それまで培ってきた努力の賜物たまものだと言える。
 一先ずは、敵の進行を食い止められたようだ。
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