異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百一話

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 東軍が侵略してくるという情報が満願に広まった、三日後のことだった。
 迷宮遺跡を沿うように北北東から、その最悪はやってきた。
 ガイサイ軍、十八万。対するガリュウ軍は十三万、そのうち三割は平民である。

 戦場においてガリュウより秀でた将はいない。
 そう謳われるほど、彼は戦を得意とした。
 それもそのはず、数年前までは国境線を跨いでアーヴェラント帝国といがみ合っていたのだ。
 小規模ながらも、戦になることは度々あった。
 その中で磨きあげた陸戦の技術はドルゲニア公国の強みでもある。

 空からくる者は、対空砲火の餌食となる。
 それは銃皇ヘイガンが用いた火砲のベースとなった兵器による砲撃よってもたらされる。
 さらにジャスベンダーのグレイジング・アビリスがあれば空から攻め入る隙はほぼ無くなる。

 しかし、今、西の強敵との戦いを想定した上でジャスベンダーは国外にいた。
 その不在を狙っていたかのように、耀龍ようりゅうレクタンライドを筆頭に騎龍部隊が攻め込んできた。
 当然ながら火砲の餌食になる運命だと南軍の将たちは高をくくっていた。
 その慢心こそが、悲劇の火種となるとも知らず―――――

 レクタンライドに騎乗していたのは、大将ガイサイでもクド将軍でもない。
 チルルというホビット族の少女だった。
 南の空域に入るのと同時にチルルは天に向かって祈りの舞を捧げた。
 少女は踊り子だった。
 しかも、ただのダンサーではなくホロダンサーと呼ばれる霊的な力を宿す踊り子であった。
 祈るチルルによって、それまで雲一つない空が急に暗くなった。
 ほどなくして、天に雷音が轟き湿っぽい風が吹き抜けてゆく。

 敵の奇襲を感知した満願の砲撃部隊が騎龍の一団へと銃口を向ける。
 合図とともに一斉に火砲が天を焦がしてゆく。
 兵士たちにとって、それは見慣れた光景であった。
 よく知っているからこそ、すぐに異常性に気が付いた。
 砲弾が敵まで届いていない。本来の飛距離まで飛んでゆかない。
 南の砲撃手たちから動揺の声が漏れる。
 直後、天からの反撃とも言える、落雷が真っすぐに降下し火砲を粉砕した。

 チルルの魔術に翻弄されて、対空砲火という要の一つを失ったガリュウ軍は、騎龍部隊を素通りさせてしまった。
 ヘイガンが残した六鬼衆が兵をまとめて、満願の守備を固めるように動き始めた。
 一部では迎撃が機能しない以上は、空戦を仕掛けるしかないと数少ない飛竜を持ち出す者もいた。
 その頑張りは報われないものだった……。
 ガイサイ軍に到達するまえに皆、雷によって撃ち落とされてしまった。

 事態を重く見たガリュウによって幽玄のカイが城に呼び出された。

「来たか、また尻尾を巻いて逃げるのかと思っていたぞ」

「逃げたトコロで行く当てもねぇよ。しくじったな、ガリュウ。ヘイガン王子たちを遠征に出せば、東は必ず攻めてくる……らしくねぇな。何があった?」

 持参したスキットルの栓を開いてグビリと喉を鳴らす導師に、ガリュウは口ひげを弄りながら答える。

「そんなことは百も承知だ。むしろ、こうでもしなければ向こうからやって来ないだろう」

「何ぃ? 本気で言っているのか? 満願に到達するまで東軍はいくつもの村を襲うぞ」

「ならば、こちらが天楼閣に攻め込んで勝てる見込みはあるというのか? みすみす、兵を失うより犠牲を覚悟で勝機をつかむことこそ兵法の基本であろうが」

「本当にオメデタイ奴だな。それは、ここの防衛が成功することを前提とした話だろうが!」

「成功するさ。なんせ、俺とお主がいるんだ……空から来ている奴らが邪魔だ。カイ、お主の力で連中を地に落してくれ。さすれば、我が軍勢が始末するゆえ」

 玉座の前で、あぐらを掻きながらカイは退屈そうに話を聞いていた。
 練功で作った耳かきで耳垢を掻き出しながら、答えをはぐらかしている。

「相応の礼はするぞ。上等な酒も用意させよう、欲しいものがあればなんなりと言うが良い」

「酒はありがてぇーな。がだ、俺には嘘は通じないぞ、ガリュウ。アンタが本気で東軍と一戦交えようとするのならば、やはり主力部隊はすぐに満願に戻しているはずだ」

「ふん、目ざとい奴よのう…………」

 ガリュウは玉座に背を預け、瞳を閉じた。
 少しした後、観念したかのようにガリュウはカイに真実を告げた。

「東に新しい将軍が着任したのは知っているか? 名をクドいい、帝国経由でドルゲニアにやってきた異邦人だ」

「ああ、話だけなら聞き及んでいる。凄腕らしいな」

「確かに武術の腕前は並みならぬものがある。だが、俺が言いたいのはそこではない。カイよ、奴には気をつけろ! あれは人ではない……人のカタチを成した悪意そのものだ! わざわざ、王子たちを西へ行かせたのも最悪の事態を回避するためだ」

「という事は……」

「そうだ。初めから南に勝ち目はない。遅かれ早かれ、東は攻めてくる。その猛攻に耐えうる可能性があるとするのなら西の軍勢を力づくで取り込むしかない。博打ではあるが、成功すれば満願を守り抜ける。それに賭けたのだ」

 ガリュウの言葉に嘘はない。
 そう確信した彼はボトルの中身を全部、飲み干すと立ち上がった。

「いいぜ、ガリュウ。丁度、弟子の力を試したかったところだ。時間かせぎぐらいしかできんが、文句はつけるなよ」
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