異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
300 / 362

三百話

しおりを挟む
 かつて、ドルゲニア全土を震撼させた存在があった。
 大元、霊幻そして幽玄の三大導師だ。
 彼らは生まれながら練功の才が飛び抜けていた。まさに天賦てんぷ、神々が与えし力を持つ導士たちを止められる者は、初代大王アナバタッタのみとされている。
 ドルゲニアの古書、大王伝記によれば導師たち、たった三人で金軍とコトを構えたとされている。
 大王がどうやって彼らを軍門に降したのか……その辺りの記録は一切残されていない。
 一説によれば、アナバタッタの方から譲歩し高官を与えたとされているが、真実は未だ明かされてはいない。

 長い年月を経て、現在は大王も16代目を迎えようとしていた。
 導師たちも世代交代を繰り返す中で、その意味を変えていった。
 栄光の輝きはすでに失われ、今では最も優れた術師に授与される称号のようなものに成り下がってしまった。
 そんな三大導師だが、現代はセイサイを筆頭にアビィとカイが就任している。
 導師として活躍を民衆から期待されるも、時の流れは無情である。
 与えられる仕事は、役人仕事ばかりの退屈なものしかない。

 カイこと幽玄は、その中で一番初めに異議を唱えた男だ。
 自分たちの能力を生かさないまま、生涯を終えてしまうわけにはいかないと、消息を絶ったまま行方が分からなくなっていた。
 それから八年後、彼はひょっこりと南の満願に現れた。
 彼が今まで何をしてきたのか? 誰も知らない。
 ただ、戻ってきた時の彼には、以前のような覇気は感じられなかった。

 まるで世界に独り取り残されたように、無気力と無感動でその日を過ごしていた。

「このまま死に絶えるのも運命なのか……ん?」

 それは、いつもと変わらない朝だった。しかし、カイにとっては久々の朝焼けの空となった。
 人ではない赤子を背負った少年が傷だらけの身体を引きずりながら、歩いているのを見かけた。
 向こうはコチラに気づいているはず、なのに何故、助けをも求めようしないのか? カイは首を傾げた。
 すがってきたら殴り倒して、金銭を奪ってやろうとさえ企んでいたが、不可思議な少年の行動に興味が湧いた。

「おい!」とりあえず、呼び掛けてみたが反応はない。
「おい! そこのお前だ!」もう一度、試すも見向きもしない。

「ふはっ……ハハアッ、フ八ハハハァ―――――!!!」

 ますます狂人心をくすぐる彼の態度に、カイは歓喜しながら駆け出し目の前に踊り出た。

「お前、俺のことをどうして無視する? そんな瀕死の状態でどこへ行こうしている?」

「邪魔だ、どけ」

 ちゃかす導師に少年の瞳が見開く。声がかすれるほど弱っているのに鬼気迫る、形相をしていた。

「助けを求めないのか!? 俺ならお前を治癒できるぞぉ――」

 人を小馬鹿にしたような口調ではあるが、事実、カイは治癒功が使える。
 今度は素直に応じれば、助けてやるつもりで言った。
 足音が不意に止んだ。面を上げてみると先の質問に対する回答が来た。

「生きてねぇ奴に、救いを求めるほど俺は堕ちちゃいねぇ。アンタに助けられなくとも自分でどうにかする」

「なるほどね、プッ……クスクスクス」

「笑いたきゃ、好きなだけ笑えよ。笑えない奴よりはマシだからな……」

 立ち去ろうとする少年の腕をカイは素早くつかんだ。
 直後、若者は地面に両膝ついたまま一切、身動きが取れなくなっていた。

「なんて奴だ。この状態でも赤子を手放そうはしないのかよ。根性だけは買ってやるが、賢い生き方じゃあねぇーよな。お前みたいな奴は、ごまんといるが自滅するのばかりだ」

「はな……せよ」

「いいか、小僧。覚えておけ、生きる為なら人の好意は素直に受け取っておけ。それが悪党でも俺のようなゴロツキでもな」

「ふざけろ……よ。テメェ―は、ゴロツキの真似をしているだけだろう。本物は人の正面には……立たねぇ、よ」

 カイの視線が一瞬、逸れた。
 力無く、倒れ込みそうな状態であろうとも少年が弱音をはくことは決してなかった。
 少年のアゴを指先でクイッと持ち上げながら、彼は告げた。

「いい目をしてやがるぜ。それがお前の才能か……気に入ったぜ。小僧、名乗れ! お前に気の使い方を教えてやる」

「オッドだ……俺の名前はオッド、これで、満足か!?」

 奇妙な縁により、カイはオッドの師になった。
 アビィと同じく弟子など取るつもりはなかったが、悪い気はしなかった。
 オッドには練功才能が恐ろしいほどに無かった。
 それを含めて、カイは彼を選んだと言う。

 あれから二週間は経った……常人なら長くても一週間で基本はできる。
 オッドはそれ以上に時間をかけてしまったが、努力家の彼は何とか、そこまで達することができた。

 そして現在、幽玄導師が得意とする技の伝授が行われている。
 最早、一刻の猶予ゆうよもない。東の大軍はすでに動き出している。
 数日すれば、満願周辺は取り囲まれるであろう。
 その前に少しでも可能性を拡げておきたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...