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二百九十六話
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朽ちてゆくマナシの欠片、粉々になったそれは透明なガラス細工ように色あせていた。
その中でキラリと輝く、奇石があった。
スコルに騎乗したままギデオンが、ソレを掴み取る。
第二の地脈核となる石を懐にしまうと、御美束の山を目指す。
直線を描いて進むスコル。
龍に近い姿となった魔獣は驚異的な速度で飛翔し、一気に山の麓が近づいてくる。
「スコル、見えるか!? あそこに銃皇の軍がいる……不味いな、西の軍勢とやり合っている。急旋回して、場を掻き乱すぞ」
ギデオンたちが空からやってくるまでの間、地上では戦火が拡がっていた。
住居が少ないエリアだったが、蓬莱渠の人々にとっては重要な場所だった。
家畜を飼育するための牧草地。
この場所に火を放たれれば、家畜を育てることが難しくなる。
侵入者である南軍に荒らされないようにと、農家は農具を手にして重装歩兵とかち合う。
勝てる見込みなど、あるわけもないが、生きる糧を守るのに民は必死で抵抗した。
老若男女問わず無差別に命を奪われてゆく中で、三百ほどの兵を連れた西軍の部隊が救援に駆けつけてきた。
フキ姫を筆頭する御美束からの部隊、傍には双子の女の子、アゲートの姿も見える。
再度合流した南軍は数で勝っていた。
軽く一万超えの兵力があり、フキ姫の軍勢など取るに足りないと銃皇は侮っていた。
「紅き羽よ。規律を乱す者たちを撃ち抜く烈火を轟かせたまえ……インフェルノフェザー!!」
炎からできた無数の羽が矢のごとく、銃皇の兵に降り注いでゆく。
守りの要である重装歩兵の大盾ですら、容易に溶け落としてしまう火属性魔法。
練功と同じく、体内から生み出される魔力はいわば、外に向けて放つ練功そのものに思えるが、実際はまったく持って異なる。
気は人の体内で生み出されるが、魔力は肉体が取り込んだ自然界の魔素を用いて生成される。
肉体から離れるほど、闘気の力は弱まるが魔法は違う。
予め、注入した分の魔力を有しながら距離は関係なく対象に届く。
その特性は、練功使いにとっては厄介なモノであった。
こと遠距離においては、魔法には敵わない。
そのことを理解しているからこそ、銃皇は実弾を使用し攻撃しかける。
ただ、肝心の砲台は蓬莱渠の外に置いてきてしまったままだ。
成す術なく、軍を散開させ被害を軽減させようすると、その僅かな合間を縫って西の騎馬隊が入り込んできた。
「軍を退くのなら今のうちよ。これ以上、戦っても悪戯に犠牲者を増やすだけよ、ヘイガン!」
近場から突然聞こえてきた、フキ姫の声に銃皇は進軍を止めた。
彼女の言葉は正しく、これ以上は強行突破を試みても兵力の消耗が激しい。
高低差のある足場も問題だが、相手が魔術部隊だというのも大きい。
弓矢で撃たれるよりも質が悪い。
不利益をこうむることを平気で行うほど銃皇は愚か者ではない。
交渉の余地があると踏んで姫の言葉に耳を傾けたのだ。
「十年ぶりか? 久しいなフキよ」
「兵を退きなさい、ヘイガン。このままトクシャカ様の下に行っても貴方の部隊が壊滅するだけです」
「ふん、こそこそと隠れてないで出てきたらどうだ? 話ぐらいは聞いてやる」
銃皇がそう伝えると、巨大な岩場の上で紫色の敷布が宙を舞った。
その中から少女とともに巫女装束をまとうフキ姫が現れた。
「それで妹よ。この兄に兵を退けろというが西の全面的な降伏と捉えればいいのか?」
「これ以上、蓬莱渠を荒らさないと約束してくれるのであれば我々も矛を納めます」
「つまり降伏する気は零というわけか……クソったれがぁあ! テメェら全員、この俺の拳で沈めてやる!!」
激昂する銃皇を止められる者は誰もいない。
全身から闘気を放ち騎馬兵に跳びかかる。
「虎抱頭・斬鉄鎚」
素手で騎馬の首を押し流し、馬体ごと騎士を落馬させる。
銃皇、ヘイガンの格闘術により騎馬は優位性を失い次々に崩れてゆく。
地に叩きつけられた騎士を南の戦士たちが鈍器や刃物で仕留める。
阿鼻叫喚と化した戦場に、フキ姫は居ても経ってもいられず防御魔法を展開しながらヘイガンの身体を押し返した。
「小賢しい! その程度の壁でどうにかなると思うなよ」
心意六合拳は接近、密着した状態でこそ真価を発揮する。
銃皇の強烈な肘打ちが分厚い防御結界を一撃で打ち抜く。
ひび割れ、今にも砕け散りそうな壁をを補うべく、フキ姫はさらに魔法を重ねる。
「んくっ……フレイムウォール!」
結界が崩れるのと同時に炎がヘイガンを包み込む。
ところが彼は臆することもなく、その一身で火炎を受けながら姫の首元に手を伸ばし掴んだ。
「お遊びは終わりだ、愚妹よ」
その中でキラリと輝く、奇石があった。
スコルに騎乗したままギデオンが、ソレを掴み取る。
第二の地脈核となる石を懐にしまうと、御美束の山を目指す。
直線を描いて進むスコル。
龍に近い姿となった魔獣は驚異的な速度で飛翔し、一気に山の麓が近づいてくる。
「スコル、見えるか!? あそこに銃皇の軍がいる……不味いな、西の軍勢とやり合っている。急旋回して、場を掻き乱すぞ」
ギデオンたちが空からやってくるまでの間、地上では戦火が拡がっていた。
住居が少ないエリアだったが、蓬莱渠の人々にとっては重要な場所だった。
家畜を飼育するための牧草地。
この場所に火を放たれれば、家畜を育てることが難しくなる。
侵入者である南軍に荒らされないようにと、農家は農具を手にして重装歩兵とかち合う。
勝てる見込みなど、あるわけもないが、生きる糧を守るのに民は必死で抵抗した。
老若男女問わず無差別に命を奪われてゆく中で、三百ほどの兵を連れた西軍の部隊が救援に駆けつけてきた。
フキ姫を筆頭する御美束からの部隊、傍には双子の女の子、アゲートの姿も見える。
再度合流した南軍は数で勝っていた。
軽く一万超えの兵力があり、フキ姫の軍勢など取るに足りないと銃皇は侮っていた。
「紅き羽よ。規律を乱す者たちを撃ち抜く烈火を轟かせたまえ……インフェルノフェザー!!」
炎からできた無数の羽が矢のごとく、銃皇の兵に降り注いでゆく。
守りの要である重装歩兵の大盾ですら、容易に溶け落としてしまう火属性魔法。
練功と同じく、体内から生み出される魔力はいわば、外に向けて放つ練功そのものに思えるが、実際はまったく持って異なる。
気は人の体内で生み出されるが、魔力は肉体が取り込んだ自然界の魔素を用いて生成される。
肉体から離れるほど、闘気の力は弱まるが魔法は違う。
予め、注入した分の魔力を有しながら距離は関係なく対象に届く。
その特性は、練功使いにとっては厄介なモノであった。
こと遠距離においては、魔法には敵わない。
そのことを理解しているからこそ、銃皇は実弾を使用し攻撃しかける。
ただ、肝心の砲台は蓬莱渠の外に置いてきてしまったままだ。
成す術なく、軍を散開させ被害を軽減させようすると、その僅かな合間を縫って西の騎馬隊が入り込んできた。
「軍を退くのなら今のうちよ。これ以上、戦っても悪戯に犠牲者を増やすだけよ、ヘイガン!」
近場から突然聞こえてきた、フキ姫の声に銃皇は進軍を止めた。
彼女の言葉は正しく、これ以上は強行突破を試みても兵力の消耗が激しい。
高低差のある足場も問題だが、相手が魔術部隊だというのも大きい。
弓矢で撃たれるよりも質が悪い。
不利益をこうむることを平気で行うほど銃皇は愚か者ではない。
交渉の余地があると踏んで姫の言葉に耳を傾けたのだ。
「十年ぶりか? 久しいなフキよ」
「兵を退きなさい、ヘイガン。このままトクシャカ様の下に行っても貴方の部隊が壊滅するだけです」
「ふん、こそこそと隠れてないで出てきたらどうだ? 話ぐらいは聞いてやる」
銃皇がそう伝えると、巨大な岩場の上で紫色の敷布が宙を舞った。
その中から少女とともに巫女装束をまとうフキ姫が現れた。
「それで妹よ。この兄に兵を退けろというが西の全面的な降伏と捉えればいいのか?」
「これ以上、蓬莱渠を荒らさないと約束してくれるのであれば我々も矛を納めます」
「つまり降伏する気は零というわけか……クソったれがぁあ! テメェら全員、この俺の拳で沈めてやる!!」
激昂する銃皇を止められる者は誰もいない。
全身から闘気を放ち騎馬兵に跳びかかる。
「虎抱頭・斬鉄鎚」
素手で騎馬の首を押し流し、馬体ごと騎士を落馬させる。
銃皇、ヘイガンの格闘術により騎馬は優位性を失い次々に崩れてゆく。
地に叩きつけられた騎士を南の戦士たちが鈍器や刃物で仕留める。
阿鼻叫喚と化した戦場に、フキ姫は居ても経ってもいられず防御魔法を展開しながらヘイガンの身体を押し返した。
「小賢しい! その程度の壁でどうにかなると思うなよ」
心意六合拳は接近、密着した状態でこそ真価を発揮する。
銃皇の強烈な肘打ちが分厚い防御結界を一撃で打ち抜く。
ひび割れ、今にも砕け散りそうな壁をを補うべく、フキ姫はさらに魔法を重ねる。
「んくっ……フレイムウォール!」
結界が崩れるのと同時に炎がヘイガンを包み込む。
ところが彼は臆することもなく、その一身で火炎を受けながら姫の首元に手を伸ばし掴んだ。
「お遊びは終わりだ、愚妹よ」
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