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二百九十四話

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 魔銃から魔装砲、そして極天により天の闘気がスコルの身を包む。
 ギデオンだけが使える魔法――――
 それは五導五術うち、それぞれ一つずつ召喚魔法と気功術を組みわせた物だった。

 魔導と魔術、双方を使いこなせる人間は、この世界において一人もいない。
 必ず、どちらか一方に属することになる。
 ギデオンもまた、魔導を操作する術を持たない。
 自力での適性があったのは、気功術である練功の方だ。
 ただし、未修得のスキルを身につけても実践レベルになるまでは、相応の鍛錬が必要だ。
 いかにギデオンのバトルセンスが高くとも、練度は補えないほど不足していた。

 自分に足りないモノ、それは魔法だと彼は強く確信していた。
 ところが、実際に彼の成長を妨げていたのは、できない事を無理にやろうとするギデオン自身の考え方にあった。
 極天に至ったのは、本当に幸運だったとしか言いようがない。
 体内に直接未熟なエンチャントを流し込み続けたせいで、その肉体は大きく負傷してしまった。
 たまたま強敵と遭遇し、生存本能が自身を窮地から引っ張り上げただけだ。

 ナンダとの戦いの最中、ギデオンはそこに気づいた。
 同時に自分の中にある命の灯は一つではないと強烈に感じ取ったときに、あの白銀の魔獣は生まれた。
 自分の魔術とスコルの魔導、それらを一つにまとめれば新しい自分だけの魔法が誕生する。
 さしずめ、とでもいったところだ。

 今、ギデオンがやろうとしていることは進化召喚プログレッシブサバンの応用であり、スコルが持つ自己進化能力にギデオンの闘気を上乗せすることだ。
 これにより、スコルの進化が促進され、さらなる段階へと成長する。
 極天の気を充分に吸い込んだスコルは、本来の魔獣の姿へと変わり、急速度で巨大化してゆく。
 獣の毛皮が硬化し鱗となる。角が生え、背骨がカタチを変えて翼を形成する。
 マナシの前に現れたのは、限りなく龍に近い超生物。
 バハムートの名を冠するがごとく、主の成長とともにスコルもまた成長を遂げた。

「スコル、あの赤子を橋から遠くへと引き離すんだ!」

 翼の生えた背に飛び乗ると、ギデオンは命じた。
 即座に頭部を前面に押し出して敵を威嚇しながら、超魔獣は刃のような爪を立てる。
 気圧を圧縮したような足蹴りが結界ごと、マナシを突き飛ばした。
 一瞬で、溜め池の奥方へと赤子は押しやられ、ギデオンたちの猛追を受けることなった。

 呪いは効いていていないが、金属化は進んでいる。
 しばらくすれば、剣璽橋の上に黄金のオブジェクトが多数、並ぶだろう。
 余り時間はかけられない。

「噂以上にあり得ない存在だ。この自分を追い詰められるのはリュウマぐらいかと思っていたぞ」

 まだ何かを企んでいるのか? マナシはギデオンを賞賛し出す。
 確かに北の都をナンダから、解放し今度は、王位継承者として舞台に上がってきた。
 目覚しい活躍とも言えるだろう。
 冷静でありつつも豪胆である、彼は多少無茶をしても兵士たちを納得させるほどのモノを持っている。
 簡潔にいえば、それはカリスマ性だ。
 もし、西の守護代が王位継承者としてフキ姫ではなく、彼を擁立していたのならば……この西地域を周囲の脅威から守りきれるのではないのか?
 言葉にはださないが、それをマナシ自ら望んでしまうとなれば西はもう持たない。

 水面で停止した赤子へ爪牙そうがによる連撃を放つ。

「イビルバインド!!」

 マナシが闇属性の拘束魔法を唱えるも、対象となる生物は巨大すぎて上手く機能していない。
 せいぜい、前足一本分の拘束の影を出すことしかできないことに歯痒そうな表情を見せる。

 着実にダメージが通蓄積している。

 爪での攻撃は、斬撃に近い。
 いくら超再生するからと言っても、次第に回復が間に合わなくなっている。
 ここから、さらに攻撃の手を増やせば確実に追い込められる。

 勝機を見出しかけたところで、混沌の王からの反撃が始まる。
 一番、気を抜きやすいタイミングでの動きはどことなく、いやらしさを感じる。

「コイツは…………増殖しているのか!? マズイぞ、迂闊に近寄れば取り込まれてしまう」

 それまで、赤ん坊のカタチを取っていた肉塊がバターのように溶けだし、ギデオンたちを飲みこもうとする。
 即座に回避しようとしても、変幻自在にカタチを変えて執拗に迫ってくる。

 スコルが翼を羽ばたかせ、突風を起こす。
 気流により一時的にしのいだソレは、液状化したマナシの一部。
 汗や血のような体液のようなものである。
 むろん、触れれば無事では済まない。混沌の肉体は無限に拡がり、すべてを己が一部に取り込むという……。
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